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宇宙(そら)へ  作者: 桜華
19/25

第拾質話 fenius Ⅱ~~第二次フェニウス会戦~~

約二ヶ月ぶりの更新です。大変遅くなりまして、大変申し訳ありません。よろしかったら読んでいって下さい。

<白鷺艦橋>

「敵艦隊接近中!距離100000!」

「何か様子がおかしい。なぜ、このタイミングで艦隊を。エルトリアは何を考えている。」

橘少佐が顎に手を当て、立体宙域図“水晶機構”を見ていた。


「何!?敵艦隊だと!?」

常陸が通路に設置されているモニターで艦橋通信兵に報告を受けていた。

その後ろで雨宮と高町、御坂が複雑な顔をして常陸の後ろ姿を見ていた。

「はい!真っ直ぐ本艦隊に接近してきます。現在、セルベリア第二艦隊が戦闘態勢に移行しました。」

「こちらも直ちに戦闘体制に入れ。レクルス隊を発進させろ。私もすぐに艦橋に上がる。」

「了解しました!!」


「ゴメン。これから戦闘になる。皆はAブロックを通って居住区画まで退避してくれ。」

常陸が後ろにいる三人に向け言った。

「わかったよ。頑張ってな。さぁ、行こう二人とも。」

御坂が雨宮と高町の背中を押して通路に入っていった。

常陸はそれを見送ると、艦橋に繋がる通路を急いだ。


「失礼します!田上少尉!出撃命令です!」

大上少尉が扉を開け、田上の私室に飛び込んだ。

「田上少尉!たの……え?」

大上少尉が田上少尉の姿を見て固まった。

自室への侵入を確認した田上もまたパイロットスーツを着ようとしていたのか、下着姿で固まっていた。

「お、女!?」

大上少尉が驚いた表情で言った。その瞬間田上の顔が赤くなった。

「きゃあああぁぁぁーーー!!」


バキッ!!


田上から何かの物体を投げられた大上はその場で気絶した。


「大変申し訳ありませんでしたぁ!!!」

左目が腫れ上がった大上少尉がレクルス搭乗後、専用回線で言った。

「まさか、大上少尉に覗きの癖があるとは思ってもみませんでしたよ。」

田上が不機嫌そうに言った。

「いや、まさか田上少尉が女性だなんて思ってもみなかったので…」

「あぁ!そうですか!どうせ私は女性としての魅力なんてないですよ!!」

「あっ!ちがっ!田上少尉!!」

ブツン…

回線がいきなり切られる音がした。

以後、帰還命令が出るまで、戦闘関係以外の会話は口を聞いてくれなかったという。


<エルトリア・フェニウス方面軍艦隊>

「タイタニア公は、ガイア占領戦の真実を知る皇国軍と合流したセルベリア人どもの殲滅を求めておられる。この戦いで決着をつけたいところだな。なぁ、アルフォウス。」

二階級降格処分となったアルフォウスは、上級貴族出身のベルダー侯爵率いるフェニウス方面軍の主力艦隊であるエルトリア第七艦隊旗艦ルルシウスに艦長として乗艦していた。

「当方の戦力は主力艦17隻、巡洋艦30隻、駆逐艦55隻、レクルス800機以上だ。この戦力ならやつらを殲滅できる。我が軍の勝利は確実だな。」

ベルダー侯がワインを片手に司令官席に踏ん反り返りながら言った。


「全て、閣下の仰せのままでございます。」

アルフォウスの胸に付いていた“大佐”を表す勲章と、旧エウロパ協力者を表すバッチが光に反射して輝いた。

「(この無能司令官め。戦力を増大させただけであの皇国軍とセルベリア軍を全滅できると思うのか!?)」

「全軍に通達!!ドライ隊全機発進開始!!全艦全速前進!!皇国軍とセルベリア軍を殲滅せよ!!」

ベルダー侯がワインを片手に司令官席から立ち上がり、命令を発した。


「お待ちください、閣下!全軍を初戦で投入するのは危険です!皇国軍艦隊旗艦には超大型の艦主砲が装備されているとの情報もあります!」

旗艦ルルシウス艦長アルフォウス大佐がベルダー侯に言った。


「何を言っている!奴等は本艦隊の戦力の半分しかないのだぞ!?一気に攻めれば圧倒できるではないか!それにそんな兵器を使わせないほどの火力でもって攻撃を加えればいい話だ!恐れずに足らん!!だから貴様は失敗ばかりするのだ!エパ派は黙っていろ!!」

エパ派とは、エウロパ帝国連合時代に皇太子派として活躍した者たちが呼ばれている蔑称である。大エルトリア帝国には完全な階級社会が出来上がっており、民衆達に不満を逸らすために、こうした差別階級が設けられ、社会のはけ口とされていた。もちろん植民地となった国々の人々の生活は最悪で、常に帝国に最下層に置かれていた。建国帝アドルフ一世の理念は、所詮は一割のエルトリア人にのみ適用されるだけで、帝国内に住んでいる大多数の民族には適用されるものではなかった。アルフォウスもその一人であったが、少将という将軍階級であったがためにバッチをつけることを免除されていたが、大佐になってからエパ派に正式に認定され、バッチを強要されていた。

「申し訳ありません、閣下。私の考えが愚かでございました。全ては閣下の仰せのままでございます。」

アルフォウスが、ベルダー侯に胸に手を当て、頭を下げて謝罪した。


「分かればいいのだ、アルフォウス。私に間違いは無いのだ。だが、私もまだ戦場に出て日が浅い。頼りにしているぞ?アルフォウス。」

ベルダー侯がその醜い顔を歪ませて、アルフォウスを見た。


「かしこまりました…。」

アルフォウスが敬礼すると、艦長席に戻った。

「全艦戦闘配置指令に伴い、これより本艦は戦闘態勢に移行する!総員、第一種戦闘配置!対艦、対レクルス戦闘用意!」

アルフォウスが指令を下し、ルルシウスが戦闘態勢に入った。

「了解!総員、第一種戦闘配置!パイロットはレクルスに搭乗開始せよ!別命あるまで待機!」

オペレーターが艦内に指令を伝達した。

「全艦隊戦闘配置完了!レクルス隊発進開始します!」

「第一から第四戦隊進撃開始!レクルス第一から第三大隊敵艦隊に向け進撃を開始せよ!」


<白鷺艦橋>

「敵艦隊進撃開始しました!敵レクルス群接近してきます!」

「くそッ!我が軍の戦力では到底勝ち目はない。主力艦が4隻に巡洋艦が7隻、輸送艦が3隻、レクルスが約100機。セルベリア第二艦隊の戦力を合わせたとしても4:6で当方が不利か…。」

「閣下。この戦闘、何か様子がおかしいです。まるで戦略が無いと言いますか…」

橘少佐が顎に手を当てながら、常陸に言った。

「何が言いたいんだ?橘。」

常陸が水晶機構から目を放し、橘を見て言った。

「エルトリア軍の進軍を見ていると、全く戦略が考えられないんです。先の会戦は本艦隊を迎え撃つ形で高度に計算された包囲網により、艦隊を撃滅するという内容で、セルベリア艦隊の援軍が無ければ、本艦隊はかなりの被害が出ていたはずです。ですが、今回は先の会戦よりも戦力が増大しているというのに、その戦力を有効に活用していないのです。戦力を分散して包囲網を作るなり、半包囲を作るなり、色々な戦略が可能なはずなのですが、先程からただ直進して本艦隊に進撃してくるばかりなのです。もしかすると、我々が想像だにしないほどの計略があるのか、それとも…」

「それともなんだ?」

常陸が橘の顔を真顔で見ながら言った。

「それとも、ただの戦場知らずの馬鹿者かのどちらかということです。」

「だから、どうだというのだ?」

「今回は、女神の御意志に頼るしかありませんということです。」

「後者に賭けろ、と言うのか?」

「はい。先の会戦時の艦隊に旗艦はルルシウス。艦長はアルフォウス少将だったはずです。おそらくは、降格処分にされ艦隊指令の座からは降ろされているはずです。でしたら、新司令官殿が配属されたはず。しかも、上級貴族出身者の中から。」

「なぜ、そう思う?」

常陸が橘少佐を見ながら言った。

「勘です。」


「っく!あはははは!勘かぁ、公爵付副参謀長が言うことか?」

「私はいつだって嘘をついたつもりはありません。閣下。」

「わかった。お前を信じよう。全艦隊に通達!レクルス隊発進開始!セルベリア軍と合同で敵艦隊を迎撃する!全艦、合戦用意!!」

「了解!全艦隊に通達!全艦、合戦よぉーい!」


<セルベリア艦隊・旗艦ユリシーズ艦橋>

「常陸卿揮下皇国軍!戦闘体制に入りました!」

「よし!こちらも戦闘開始だ!レクルス隊に交戦許可を!全艦主砲照準!目標!前方エルトリア帝国軍艦隊!!」

「了解!旗艦より全軍へ!敵軍との交戦を許可する。全軍皇国軍と連携し、交戦を開始せよ!」


「へぇ~アレが“天壁”かぁ~。本当に、あの陽電子砲を跳ね返したの!?」

「事実だ。皇国でも数機しか配備されていない新型機だそうだ。」

「そうなんだ~うちらにも回してくれないのかなぁ~。一応、同盟国なんだよね?うちと。」

「当たり前だ。でなければ、我々はなぜ帝国と戦っているのだ。第一、同盟国だからと言って、一国の軍事秘密を他国に公表すると思うのか?お前の頭は何の為についている?」

「な!そこまで言わなくても良いじゃんか~。ひどいよ、ゼスぅ~。」

「ミシェイル少佐。まもなく敵レクルスと戦闘になります。私語は謹んで下さい。」

「ルシカちゃんまで~冷たいなぁ~!」

「いい加減にしてください、少佐。また、殴られたいんですか?」

「ご、ごめんなさい!それだけは!」

「全く…ん?」

とゼス大尉がため息を付いたとき、セルベリア軍レクルス“ルシュインⅡ”のレーダーが接近してくる敵レクルス“ドライ”の反応を確認した。

「おふざけはここまでだ。敵機接近!」

「了解!たまには後輩にいいとこ見せないとな!!」

ミシェイル少佐の“ルシュインⅡ”が最大加速で敵レクルス群に突っ込んで行った。

「小隊各機!隊長に続け!」

ゼス大尉やルシカ少尉が部下を率いてミシェイル少佐に続いた。


<皇国軍白鷺艦橋>

「夕月、夜月、舞鶴、翔鶴は白鷺と共に前衛へ!艦隊をセルベリア艦隊の横へ付けよ!敵レクルスを艦隊に取り付かせるな!」

「了解!対空戦闘用意!」

「セルベリア軍、レクルス部隊とまもなく戦闘開始します!!」

「まもなく我が軍のレクルス部隊も敵部隊と接触します!」

「全艦主砲照準!目標!敵エルトリア艦隊前衛部隊!」

宇宙戦艦夕月、夜月、舞鶴、翔鶴、白鷺の全砲門が一斉に直進してくるエルトリア艦隊に照準を合わせた。


<エルトリア艦隊>

「まもなく、敵艦隊の主砲射程圏内に入ります!」

オペレーターがレーダーを見ながら言った。

「そのまま前進せよ!奴等が打ってくる前に総攻撃だ!」

艦橋の兵士たちが少しざわめいた後、エルトリア軍第一陣に下命した。

「旗艦より全軍へ!全軍そのまま進撃せよ!繰り返す!全軍進撃!敵目標を殲滅せよ!」


「マジかよ!このまま突撃しろって言うのか!司令部は何を考えてんだ!俺達に死ねっていうのか!?敵は全砲門を開いて待ち構えてるんだぞ!」

エルトリア軍第23中隊隊長のティエリー少佐が言った。

「おい、聞こえてたら銃殺刑ものだぞ、ティエリー。」

「だが、この戦力差で全面から突撃しろだなんておかしいだろ!?マーク!」

「ああ、そうだな。だが、俺達は軍人だ。上からの命令は絶対だ。今はそんなことを考えるよりも生き残ることを考えろ。」

「まさか、マーク。お前、本当に皇帝に従う気になったのか?」

「バカをいうな。今でも私は、皇太子殿下付近衛重騎士の誇りを捨てた訳じゃない。お前もそうなのだろう?」

「あ、当たり前だ!俺は、この命皇太子殿下に捧げている!あんな偽者の皇帝なんか認めた訳じゃない!!」

「では、まだ死ねないな。皇太子殿下はお亡くなりになったが、我らの最後の希望がご帰還されるまではな。もし、殿下が生きていたら、こんな馬鹿げた戦争は防げたかもな。」

「感傷に浸るのは、それまでにしようぜ!セルベリア軍のお出ましだ!必ず生きて帰ろう、殿下と」

「「レオン様の為に!!」」

二人が同時に叫ぶと、二機“ドライ”がセルベリア軍に突撃していった。


<白鷺艦橋>

「敵艦隊!主砲射程圏内に入ります!!」

数秒の時間が経った後、それは突然始まった。

「(皇御神よ、聖皇の子らを守りたまえ…)」

常陸が目をつぶり、心の中で祖国を思いながら呟いた。

「よし!全艦打ち方始め!!」

常陸が振り向き、橘少佐に言った。

「主砲全門!てぇぇーーー!!」

皇国軍艦隊とセルベリア艦隊の主砲が一斉射された。


『ビュィィィィィンンンン!!!』という主砲独特の射撃音が無数に響き、接近していたエルトリア艦隊に宇宙戦艦を襲い掛かった。

エルトリア艦隊に襲い掛かった主砲は敵宇宙戦艦やレクルスを破壊し、爆発音の轟音と共にオレンジ色の爆発色が当たりを照らした。


「レクルス部隊突撃!!ドライを艦隊に取り付かせるな!!」

「「「「「了解!!」」」」」

各皇国軍所属レクルス隊の隊長たちが常陸から直接指令を受け、敬礼し回線を切った。

「第二斉射用意!!敵艦隊の進撃速度を落とすことを最優先で考えろ!セルベリア艦隊にも通達!」

「了解!「こちら皇国軍旗艦白鷺!セルベリア艦隊旗艦ユリシーズ!応答願います!」

「こちら旗艦ユリシーズ!どうぞ!」

「これより第二斉射を開始します!射線上の貴軍の退避を!それと主砲一斉射を要請します!」

「了解しました!タイミングは貴軍に一任するとのアームストロング大将のお言葉です!では!」

オペレーターからの報告を受け、扶桑皇国・セルベリア合同艦隊の主砲が再び混乱しきったエルトリア艦隊に狙いを定めた。


「これでは、まるで僕が合同軍の司令官じゃないか。ギュンター卿め、僕よりも戦略に長けている癖に。」

「閣下、今は。」

「全艦隊、主砲斉射準備完了!」

「全軍!射線上より退避完了!いつでもいけます!!」

オペレーターに橘少佐への反撃の機会を奪われた常陸がムッとしながらも、司令官の顔に戻り指令を下した。

「第二斉射!てぇぇーーーーー!!」


「すごい。これが大国同士の宇宙艦隊か…。地球での戦闘と桁違いだ。」

「大上少尉!艦隊戦で押せても、レクルスではこちらが圧倒的に不利なんですから、集中してください!!」

「りょ、了解!!」

「敵レクルス接近!一時の方角に七機!来ます!」

「了解!全機、散開!」

「これ以上艦隊には近づかせん!!」

結城隊長機が腰部に格納されている光銃を抜き取り敵機に照準を合わせた。


ビィィィンン!

ビィィィンン!

ドカァァァァンン!!

二本の光が“ドライ”を貫いたと同時に爆発し四散した。

「やるぅ!隊長、大上さん!」

同じ結城中隊の九条少尉が言った。

「九条!後ろ!」

「えっ!」

九条機が後ろを振り向いたとき、今にも“ドライ”が襲い掛かろうとしていた。

「(私、死ぬの?お姉ちゃん!)」

九条少尉が死を覚悟し思わず目をつぶった。

だが、いくら待ってもその瞬間が訪れないので、九条少尉が目を開けた。そこには、自機の目の前で敵のサーベルを光剣で受け止めている田上機の姿があった。

「もう、桐山の二の舞にはさせない!!」

というとドライの攻撃を右に受け流し、右腰部に格納されているもう一方の光剣を引き抜きドライを上半身と下半身に真っ二つにした。

「か、カッコイイ」

達人級の村雨の扱いに思わず九条は見とれていた。

「何をボサっとしている!次が来るぞ!」

「りょ、了解!!」

ブーストを全開にし、ドライに襲い掛かる田上機に続いて九条機が続いた。


「(あれを見せつけられて女性って、敵も夢にも思わないだろうなぁ。)」

というと大上機も九条機の後に続いた。


ここに、後に奇跡の勝利と言われた“第二次フェニウス会戦”の火蓋が切って落とされた。


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