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宇宙(そら)へ  作者: 桜華
18/25

第拾陸話 foretaste ~~予兆~~

お待たせ致しました。よろしければ読んでいって下さい。

「無様だな。アルフォウス少将。アイス級3隻とドライ20機以上を喪失して逃げ帰ってくるとは。それに、敵に与えた損害は輸送艦1隻と中型艦2隻とレクルス14機だけとは。普段なら銃殺刑ものだぞ?」

「申し訳ありません。閣下。ご処分は甘んじて受ける覚悟でございます。」


大エルトリア帝国領フェニウス本星・フェニウス総督府で、エレス方面進攻軍司令官兼フェニウス総督のクロヴィス・フォン・タイタニア公爵に、総督府呼び出されたアルフォウス少将が先の戦いと皇国公爵の取り逃がした経緯を報告させられていた。


「私は皇帝陛下より一刻も早くエレスを攻略せよと勅命が下っているのだ。私が欲しいのは敗北ではない。勝利なのだ。わかっているな?少将。弱小貴族でありながら司令官にしてやったのは誰のおかげだと思っている。」

「はっ」

クロヴィスが執務机に肘を突きながら直立不動で立っているアルフォウスを見た。

「少将。まもなく陛下直轄の監査官がフェニウスを視察しに来るのだ。ただでさえ占領星であるフェニウスを治めるだけでも苦労しているというのに、これでは困る。私の帝国元帥への昇格がかかっているのだ。次こそ戦果を期待しているぞ、少将。私の為に、な?」


その邪悪な瞳がアルフォウスの顔を捕らえた。


「はっ。公爵閣下の仰せのままに。」


執務机の前にアルフォウスがひざまついた。


「(はっ!戦場を知らぬ七光りが。皇太子殿下が生きていれば、エルトリア公なんぞにエウロパを奪われずに済んだものを…。)」


フェニウス総督府執務室を後にしたアルフォウスが、総督府の廊下の窓から見える青空を見上げ、心の中で呟いた。


「(殿下…。哀れな我らに力を…。)」


アルフォウスは、青空の向こうにいる主君の面影を思い浮かべていた。



「ハックション!!」

「風邪ですか?レオン様。やはり引き返しましょう。ここは冷えます故。」

「いや、大丈夫だ。民の生活に比べればかわいいものだよ。」

「しかし、大事なお体です。御身に何かあれば今度こそ我が国は…。」

「大丈夫だって、アレン。あともう少しで同盟軍の基地だ!頑張ろう!」


大エルトリア帝国占領星グリーンベレー。皇国名「緑帽星」の森林の中を行く一行がいた。

ここ、グリーンベレー星は元は皇国領であり、通商の要衝として繁栄し、皇国とセルベリアの交流機関が多数存在した。そして両国の友情の証として星は繁栄し、市民は平和を享受していた。

だが、エルトリアは、そんな平和な星にもその凶暴な蹄で襲い掛かった。

突然頭上に襲い掛かった光の刃に、人々は逃げ惑い、整然とした町並みは破壊され、豊かな緑は巨大兵器に蹂躙された。

そして、奇襲攻撃から三ヶ月の激戦の末、緑帽星から聖皇旗と皇国旗が降ろされ、黄金の軍馬の帝国旗が総督府に掲げられた。

だが、占領軍が中心都市に進駐した時にまず最初に行ったのは、星の統治ではなく、大規模な星全域の調査であった。

まるで、大事な何かを探すように…。

そして、市民の間でこんな噂が流れるようになった。

「(どっかの国の皇子が、この星に密かに逃れた、と。)」



「なぁー常陸ぃーまだ着かないのか?エレスってとこ。」

「いやいや、まだ着かないよ。結構遠いんだよね~エレスって。」

「もう暇すぎる!ここには任〇堂製品はないのか!」

「大上に激しく同意~。身近にあるものの重要性って普段は気付かないけど、実際なくなるとその大事さに気付かされるよな~。」

「いや、十分暇そうには見えないけど…。」


常陸は、貴明と卓也の姿を見て、顔を引きつらせていた。


「ぇえ?全然暇だよ~。」

「右に同じく~。」


「…なら、何でマッサージチェアに乗ってるの?二人とも…。」


ここ、航宙戦闘母艦白鷺艦内には巨大入浴施設がある。他にも、皇国軍所属の大型艦には必ず入浴施設が設置されている。扶桑人の国民性が顕著に現れている良い例だ。


「ちょっと!貴明に宮崎君!常陸君の前でなんて格好してんの!?」

雨宮がマッサージチェアでリラックスしきっている二人に食って掛かった。


「あぁ。雨宮か。お前もやれば~?マジで極楽~」

大上が片目を開けて雨宮の姿を確認した後、再び目を閉じた。


「あっ!なんでまた目を閉じる!?」

「雨宮だからだよ。」


カッーーー


雨宮の隣りにいた常陸も、雨宮の怒りのボルテージが上がっていくのがヒシヒシと感じられた。

「まぁまぁ、雨宮?抑えて抑えて。」

一応、常陸が宥める。

だが、すでに沸騰したマグマは抑えきれるものではなかった…。


「こん、のぉ~」

雨宮が、近くのテーブルの上に置いてあった牛乳瓶を手に持った。


「大上!避けろ!!」

とっさに常陸が叫んだが、時すでに遅かった…。


「ん?」

ガン!!


サーーー

大上の顔から血の気が引いていったのが、場面に出会わした兵たちや宮崎、そして常陸もはっきりわかった。

「ぐわぁぁぁぁーーー!!!」


マッサージチェアからある部分を両手で押さえ、大上が床に崩れ落ちた。

「「「「(いってぇぇぇぇーーー!!!)」」」」:(常陸・宮崎・その他男性達)

その場に居合わせた男性は皆、想像して自然と若干前かがみになっていた。

「あっ!雨宮さん!こんなとこにいたんだ…って、あれ?なんで大上君が倒れてるの!?」

女湯からあがってきた宮崎優香が、雨宮を探して男女共同休憩室に来た。

「てか、御坂君は?何処にいるの?艦橋から部屋に行った後から姿が見えないけど?」


「あぁ~御坂はおそらくドックに居るんじゃないかなぁ~?」

「え?なんで?」

「だって、御坂って…」

常陸が優香を見ながら苦笑いした。


「すっげぇぇーーーー!!」

ドックに17歳の少年の声が鳴り響いた。

「リアルロボ!リアルロボだ!!すげぇぇ!!この武装ってなんですか!?うわ!こっちのロボットもカッコイイ!これ、なんていうロボットなんですか!?」

御坂が目をキラキラと輝かして油まみれの酉島整備班長を見た。


「おいおい。締め出しちゃいけないのかよ?」

小声で隣にいた整備兵に酉島班長が言った。

「ダメですよ!閣下のご学友なんですよ!?そんなことしたらいったいどうなることか!」

整備兵が身体を震わしながら小声で言った。

「いや、常陸様なら許してくれそうだけどなぁ~。」

「いやいや、いくら寛大だからといっても閣下は皇国四大公爵ですよ!?そんな肝っ玉据わってるのは、この艦を探しても酉島さんぐらいですよ…。」

整備兵が胃がいたそうに腹を押さえていった。


「お~い!班長さん!!聞こえてます~?」

「はいはい!今行きますよ!…常陸様に迎えに来るように伝えてくれ…。」

力なく整備兵に対して言った後、御坂のところへ頭を掻きながら向かっていった。

「(えぇ~俺が言うんですか…。)」

深いため息の後、通信機に向かって、整備兵が歩いていった。


「あぁ、わかった。今行く。」

ピッ

常陸が携帯無線機を切った音がした。

「御坂の居場所わかったよ。今、ドックにいるって。」

常陸が苦笑いしながら言った。

「じゃあ、みんなで迎えに行こっか?」

雨宮が笑顔で常陸と宮崎優香そして、別行動をしていて合流した高町に対して言った。

「おいおい。よくもやってくれたじゃねえか…雨宮ぁ~!?」

宮崎卓也に支えられながら、ようやく立ち上がった。

周りからは「おぉ~!」っという歓声が沸き起こった。


「あぁ、起きたの?まだ、寝てて良いのに。」

見下したような顔で雨宮が瀕死状態の大上を見た。


「おま、っ~!」

まだ、痛みが取れない大上はちゃんと喋れないでいる。


「大上はここに居たほうがいいんじゃないかな?まだ、回復できてないみたいだし…。」

宮崎卓也が苦笑いをしながら常陸たちに言った。

「そうだね~じゃあ、卓也頼んだよ?」

「了解☆」

「じゃあ、私も残るわ。喉かわいちゃったし。」

宮崎優香が近くに落ちていた牛乳瓶を拾い上げて言った。

「了解。じゃあ、また後で。」

常陸と雨宮、高町一行は、御坂がいるドックへと向かった。


「へぇー。これ、“レクルス”っていうんだ~。これって、二足歩行型しかないんですか?」

御坂が、酉島整備班長に質問した。

「いいや、こいつは可変型でな。そっちでいう戦闘機形態にも変形できる。まぁ、戦闘になるとほとんどのレクルスが人型形態で戦うが、速度が落ちるのを嫌って戦闘機形態のまま戦うやつもいるな。」

「そうなんですかー。へぇ~乗ってみたいなぁ~。」

「そいつは無理な話だ。これは俺達のもんじゃねぇ、聖皇陛下のもんだ。俺達は陛下からレクルスっつう大事な剣を授かって戦争やってんだ。お子様が乗れる代物じゃねぇ。っと、言葉が過ぎたな。忘れてくれ。」

「(やっべえ、閣下の友人さんだってことすっかり忘れてた!)」


「そうだよ?御坂。あんまり酉島さんを困らせないであげてくれるかな?」

突然後ろの方から声がして、御坂と酉島が振り返った。

そこには、雨宮と高町、常陸の三人がいた。

「あぁ、高町に雨宮!それに常陸も!どうしたんだよ、こんなところに来て!」

御坂がドック全体に響き渡るような声で叫んだ。

「優こそ、こんなとこで何してるのよ!?心配したのよ?私のこと置いていって!いっぱい探したのよ!?」

高町が御坂に怒鳴った。

「えっあぁ、ごめんなさい…。」

御坂が高町の剣幕に押され、“レクルス”の前で高町の説教の前に小さくなっている。


「迷惑かけてすみません。酉島さん。」

常陸が御坂と高町を見て呆然としているところに、常陸が話しかけた。

「いえいえ。閣下のご友人は好奇心が旺盛な方ばかりですなぁ?」

「いや、ほんとに。皆には関心させられるとこが多くて毎日楽しかったですよ。」

「何を老人みたいなことを。閣下もまだまだ若いではないですか。それに、まだ友人なのでしょう?“楽しかった”ではなく“楽しい”でしょ?」

笑いながら常陸の肩を叩いた。


「(うわぁ~酉島さん!なんて恐れ多いことを!?いったい何者なんだよ~!!)」

整備兵たちが常陸に敬礼しながら、心の中で叫んでいた。

その姿に常陸がようやく気付き、答礼した。

酉島班長が合図を出し、整備兵たちが各部署に戻っていった。


「いやぁ、やはり酉島さんには勝てませんな。」

常陸が少し笑って、酉島を見た。

「では、閣下。私も仕事がありますから、失礼します。ご学友も連れて帰ってくださいね?」

「はい。では。」

酉島と常陸が互いに敬礼し、酉島は部署に戻っていった。


「じゃあ、戻るよ!!御坂!高町さん!」

高町に殴られる寸前だった御坂が常陸の声に反応し、高町の手を振りほどいて駆けて来た。

その後を高町が追いかけてくる。

常陸と雨宮がその様子を見ながら苦笑いしていた。

「あのさ、常陸君?ずっと不思議に思っていたことがあるの?」

雨宮が不意に言った。

「ん?何?」

常陸が首を傾げた。

「いや、なんで常陸君や他にいる軍人さんたちは日本語喋れるのかなぁ?って。」

「あぁ、それね?基本的に扶桑人も日本語を使ってるからね~。」

「えっ!どうして?だってここにいる人たちは皆、日本に住んでいたわけじゃないんでしょ?」

「もちろん。我々は日本に住んでいたわけじゃないけど。雨宮が生まれるずっと前に、我々、扶桑人と日本人は出会っていたんだよ。」

「えっ?どういうこと?」

雨宮が困惑した顔をして、常陸を見ている。

「まぁ、二千年以上前の出来事だけどね。皇国人は再生した地球をどうしても見たくて、一度だけ地球、今の日本列島を訪れたことがあってね。そのとき、その国の王に良くしてもらったんだ。その恩返しという形で、その皇国人は“言語”をその国の王にプレゼントしたんだ。それが今、雨宮が使っている日本語。こっちでいう扶桑語なんだ。びっくりでしょ?」

常陸が少し笑いながら、雨宮を見た。

「へぇ~。信じられないけど、確かにそうすると辻褄が合うような気がする~。」

「まぁ、多少は細工したんだけどね?」

「え?」

「先の戦闘の後、健康診断したでしょ?あのときに、機械を使って雨宮たちの脳に直接言語を記憶させたんだ。最初よりは皆の言葉とか聞きやすくなったと思うけど?」

「あぁ、そういえばそうかも…。てか、そんなことして私達の脳って大丈夫なの!?」

「それは大丈夫。わが国の医療技術は銀河一だからね。」

「まぁ、いっか!こら!二人とも!!追いかけっこしてないで行くよー!」

雨宮が手を振りながら、レクルスの回りを走っている御坂と高町の方へ歩いていった。


地球ガイアではありふれた風景。だが、その光景もドックという空間の中で見ていた常陸は、内心は複雑であった。


<白鷺艦橋>

「ふう、閣下のご学友にも困ったものだ。ドックには我が軍の機密事項が多々あるというのに。」

ため息をつきながら井上参謀が言った。

「まぁ、好奇心が強いのでしょう?大目に見てあげましょうよ。井上さん。」

九条艦長が両手で持っていたコーヒーを差し出した。

「まぁ、閣下もいらっしゃるから問題ないとは思いますがね。」

橘少佐がコーヒーを飲みながら言った。

「そうだといいのですが…。軍令部に知られたらなんて言われるか…。」

井上参謀が疲れきった顔で言った。

「「(ご苦労様です。井上さん…。)」」

九条艦長と橘少佐が心の中で呟いた。

だが、そんな束の間の休息の時間を凶暴な蹄が踏み潰そうとしていた。


「ん?なんだろ?これ。」

艦橋にいるオペレーターが呟いた。

「どうした?」

橘少佐が対宙監視レーダーを見ていたオペレーターのレーダーを見た。

「これは…!井上さん!至急閣下に艦橋に上がるように連絡してください!」

橘少佐が井上中佐に言った。

「何があったというんです!?」

九条艦長がコーヒーを置いていった。

「エルトリアが、来ます!」

「「っ!!!」」

「通信兵!閣下に至急連絡しろ!!」

井上参謀が部下に叫んだ。


ここに、新たな戦闘が始まろうとしていた。


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