第拾参話 Hope~~希望~~
すみません。長くなりました。
「あなたは…!柊中将殿!どういうことだ、橘!確かクイーン・オブ・エリザベスは地球に墜落したと聞いたぞ!」
「今まで秘密にしていて申し訳ありません。閣下と連絡が取れなかったものですから、現場の判断で乗員救助を行わせました。全ての責は私にあります。どうぞご処置を。」
というと、橘少佐は常陸の前にひざまついた。
「いや、いい。かのエルトリアと互角に戦った武人の姿、私も見てみたいと思っていたからな。今回は許そう。だが、今後勝手な行動は慎むように!」
「はっ!」
「それにしても、何故柊殿がここに?」
「ええ、それは…」
と柊中将が言おうとした瞬間、後ろで叫び声が上がった。
「えっ!!兄ちゃん!!!」
叫んだのは大上であった。
「ちょっと、貴明。突然大きな声出さないでよ。びっくりするでしょ。」
雨宮が怒った顔をして言った。雨宮はメンバーの中で一番状況を把握しており、今、この日本や地球がどのような状況なのかを理解していた。それ故に、緊迫した状況を破壊するような大上の言動に腹が立っていた。
「何考えてるのよ!私達が置かれてる状況ぐらい分かりなさいよ!」
「そうだぞ、貴明。お前はいつもいつも…。」
と言いながら開きっぱなしのドアからでてきたのは、エルトリアとの戦闘で辛くも生き残ったレクルスのパイロットの大上大貴少尉だった。もちろん、大上貴明の実兄である。
「兄ちゃん!なんでここに!」
「なんでっていわれてもなぁ。気づいたらここにいたんだから、しょうがないだろ。お前こそなんでここにいるんだ?まぁ、何であれ無事で良かった。」
「感動の再会中よろしいかな?大上少尉。」
「はっ!!」
「少尉。紹介しておこう。こちらにいらっしゃるのは神聖扶桑皇国貴族、常陸暁守仁矢提督閣下だ。爵位は公爵だ。覚えているように。」
「神聖扶桑皇国?まさか、あの皇国ご出身の方ですか!?」
「ええ、そうです。大上少尉。」
「柊中将殿。皇国の救援が遅れて申し訳ない。」
「いえ、事情は橘少佐から伺っております。ですが、地球が失われるのは時間の問題です。もはや皇国の救援が来たところで何もできますまい。ならば、地球人の底力、エルトリアに見せつけ道ずれにしてやりますよ。」
「…それが、地球の下した決断ですか?」
「えぇ、少なくとも日本は、ね。日本帝国首相、大高閣下よりの親書です。どうぞお納めください。」
というと、柊は懐から紫の布で巻かれた手紙を出し、常陸に手渡した。
「これは…。」
常陸は、徐に手紙を読み始めた。
「(親愛なる常陸卿へ。閣下もご存知の通り、地球が失われるのも時間の問題です。まもなく地球はエルトリアに降伏を宣言する予定です。ですから、閣下には一刻も早く地球を脱出して、この事態を全宇宙に伝えていただきたいのです。エルトリアは皇国の存在をすでに察知しています。おそらく終戦後、エルトリアは皇国側の人間の処刑を求めてくることでしょう。その前に恐れ入りますがそこにいる我が国の兵士を連れて行ってくれませんか?来るべき地球解放のために、地球人の希望として。無理を承知でお願い致します。日本帝国は最後まで戦い、時間を稼ぎます。そのうちに脱出してください。閣下のご無事のご帰国をお祈りいたしております。--日本帝国内閣総理大臣 大高忠弘)」
「大高殿…。橘!!」
「はっ!!」
「全軍に通達!直ちに全軍に発進準備に入らせろ!現時点をもってこの基地を放棄!自爆後、地球を離脱し皇都へと帰還する!!」
「了解!!」
橘少佐が白鷺艦橋にいるオペレーター達に復唱し命令を下した。
「では、私は行くとしますかな。」
柊が後ろのドアの方向を向きゆっくり歩きながら言った。
「何処に行かれるというのか?柊中将殿。」
「私の戦場に、ですよ。」
その瞬間、常陸は何かを悟った。
「…了解しました。ご無事で。」
常陸と柊が向かい合って敬礼した。
「では。」
「それでは私も失礼いたします。閣下。」
大上少尉が言った。
「ん?貴様はここに残り、皇国に渡るのだぞ?」
柊が大上少尉の言葉を聞いていたらしく、振り向いて言った。
「なっ父、閣下!!私も日本の為に戦います!!死んでいった戦友のためにも!!」
「バカ者!!小童が大きな口を叩くな!若者は国の宝だ。失うわけにはいかない。祖国を思う心が今その身にあるのなら、公爵閣下と共に皇国へと渡れ!頼む…。」
「…りょっ了解…しました。」
「貴明君と言ったか…。このバカ者を頼む。」
「はっはい。」
大上が不思議そうに言った。
柊はそう言うと、大上を懐かしそうに見た後、艦橋を後にした。
「大上少尉。貴方の機体を格納庫へと搬入してある。それと部屋を用意させよう。安心して乗艦してくれたまえ。」
常陸が身震いしている大上少尉の背中に対して言った。
「ありがとうございます…閣下。」
「兄ちゃん?何泣いてんの?」
「何でもない…」
ーー発進準備指令から30分後ーー
そのころ地球各地では、エルトリアとの激戦が繰り広げられていた。
欧州・アメリカでの戦闘は続いているものの、中国での戦闘はほぼ終了し、占領。侵攻軍は日本へと目標を変更し、その脅威は帝都東京にまで伸びようとしていた。
日本帝国は全面反攻を開始し、エルトリアの思惑を外れ戦闘は長期化していたが、陥落は時間の問題であった。
「全艦発進準備完了!!」
「よし、発進開始!白鷺の発進を援護せよ!!」
「了解!!」
「みんな、椅子に座ってベルトを締めて。これから大気圏を離脱する。」
「っちょ、まってよ。いままで黙ってたけど私達の家族はどうなるのよ。一緒に連れて行けないの!?」
今まで、沈黙していた高町奈央が言った。
「残念だけど、もう時間がないんだ。ゴメン。だが、死んだわけじゃない。しばし別れるだけだ。地球が解放されれば必ずまた会える!」
常陸が大上、雨宮、宮崎兄妹、高町に言った。
「そうよ。きっとまた会えるって!私は信じてるよ。またいつか、会えるって。」
っと、雨宮が言ったがその表情は曇っていた。
「第四戦隊全艦発進完了!日本軍、エルトリアとの戦闘開始しました!!」
「全リニアレールシステム起動。全ゲート解放。」
東京湾海底に建造されていた巨大なレールが海上に出現した。さらに、お台場付近の公園が真っ二つに割れ白鷺の巨体が姿を現した。
「レール軸固定。発射角修正完了!」
姿を現した巨大なレールの先端が天に向かって屈曲した。
「閣下!日本帝国軍司令部より通信です!」
「よし、モニターに映せ!」
「了解!!」
「閣下、この忙しいときに。わがままを言って申し訳ない。」
「わかっております。貴明!大上少尉!ここへ!!」
大上少尉は全てを悟り険しい表情でモニターに近寄ってきたが、大上貴明の方は自分が呼ばれたのが不思議そうにし、ベルトを外し兄の後を追った。
まず、大上少尉が挨拶した。
「閣下。大上大貴少尉。ただいま参りました。」
「ああ、見えている。お前には苦労させた済まなかったな。ダメな父で許してくれ。母さんとは上手くいかなかったが、本当はお前が軍に入ったことを知ってうれしかったぞ。」
「ええ、自分も父さんがいることを知って宇宙軍に志願しました…。父さんと話せて嬉しかった…です…。」
大上少尉の目から涙がこぼれた。
何かを察した貴明が会話に割って入った。
「なっ何だよ…。さっきから兄ちゃん…。まるで、親子みたいじゃねぇか。」
「今まで、黙っていてゴメンな、貴明。お前は生まれたばかりで覚えていないかもしれないが、あの人が…お前が会いたがっていた、本当の父親だ。」
「なっ…嘘だろ…」
「大きくなったな。貴明。写真では見たことあったが、実際見るのは、13年ぶりか。」
「父さん…。本当に父さんなのか!?」
「あぁ、そうだ。だが、もう別れねばならない。名残惜しいが。大貴。貴明を頼んだぞ。」
「なんでだよ!せっかく会えたのに!!なんで…っ父さん!!」
貴明の頬を涙が流れた。
「父とは別れるが、お前は一人ではない…。兄弟もおる。これからも兄を頼って生きなさい。」
「父さんっ!!!!」
「短い間の会話であったが、貴明と話せて、幸せだったよ…。」
「閣下!白鷺発進は全力で援護いたします!!発進を!!」
「了解しました!白鷺発進開始せよ!!!」
常陸の目にも涙が滲んでいた。
「全要員退去を確認。白鷺、リニアレール・ラン・システムスタート。」
白鷺が「グォォォォォォォンン!!!!!」という音と共にレールに沿って高速で走り始めた。
「全艦隊に通達!!全艦全力をもって白鷺発進を援護せよ!!日本人の意地を奴等、侵略者どもに見せつけよ!!!!!」
柊中将が関東地方に展開している全軍に対して命令した。
「父さんっ!!!父さんっ!!!」
「…貴明…。」
「ダメです!敵軍侵攻防ぎきれません!!本司令部、木更津に向け侵攻してきます!!」
「敵の注意を全力で引きつけよ!!全艦、対艦ミサイル発射!!」
「敵駆逐艦級3隻撃沈!!レクルス部隊、侵攻停止しました!!」
グォォォォォォォォォォンン!!!という音と共に白鷺が屈曲したレールを走り、空へと旅だった。
「敵軍、白鷺追跡を中止!我が軍に砲火を集中しています。」
「レクルス部隊及び敵飛行物体、本司令部上空に展開!!!」
「総員!時は来た!覚悟は良いか!!!!!」
司令部に柊の声が鳴り響いた。
「「「了解!!!」」」
司令部にいた全兵士が敬礼して叫んだ。
柊を中心にして、複数の老参謀が近づき頷いた。
「希望は放たれた…。これで良い…。息子達よ、後は頼んだぞ。」
柊がキッとした表情になった。
「日本も地球も奴等のいいようにはさせん!!我らの意地を思い知れ!!!」
ポチッという音と共に「キュィィィィィィンンン!!」という音と共に木更津基地が光に包まれた。
「はっ…」
座席で艦橋の大型モニターを泣きながら見ていた大上が木更津基地が光に包まれ大爆発する瞬間を目撃した。
「うっ…うっ…とっとうさーーーーん!!!!」
同時にリニアレールも爆発し、海の藻屑と消えた…。
地球の命運を背負い、常陸たちは皇国へと旅立った。