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溜息シンデレラ 前編

昔、あるところにエラと呼ばれる可愛らしい女の子が、父親と二人で仲良く暮らしていました。

エラが10歳になったある日のこと、父親が突然、再婚相手とその娘達を引き連れ、家へ帰ってきました。

何も聞かされてなかったエラは困惑の表情を浮かべますが、浮かれている父親は気が付きませんでした。


「エラ!新しいママだぞ〜優しくて美しい女性だ。嬉しいだろ!」

「・・・えっと」

「トレメイン、貴女の美しさにこの子も言葉が出てこないようだ。親子で貴女にメロメロだ。どうしてこんなにも魅力なんだ!あぁ、私の腕の中に閉じ込めてしまいたい」

「いやだわ〜あ・な・た、既に私は貴方の腕の中にいるじゃない」


父親と継母は子供達の前だというのに、お構いなしに早速いちゃいちゃ・・・新婚さんあるあるでした。


義姉達は見慣れているのか、「また、始まった」とばかりに傍観していました。

てすが、エラは違います。

初めて見る父親のデレデレ姿に衝撃を受けて、目を見開いたまま固まってしまいました。

そんなエラを救い出してくれたのは、二人の義姉でした。

「このような場合は、副音声をつけて楽しむといいのよ」と乗り越え方をレクチャーしてくれました。

やってみると面白く、エラは嵌りました。


こうして、エラはすんなりと新しい家族を受け入れる事ができました。


穏やかな日々が続くのだろうと誰もが思っていた矢先、父親は儲け話を小耳に挟みました。

家族が止めるのも聞かず、商船を貸し切り旅にでかけてしまいました。

そして、嵐に遭い帰らぬ人となってしまいました・・・。


――――――――――――――

エラの朝は、暖炉に火を起こすことから始まる。

火がない部屋は、凍える位寒い。

手を両手で擦りながら、暖炉に薪を絶妙なバランスで置いていく。

そして、シュッとマッチを擦り、火をつける。

火種はじわりじわりと広がり、やがて大きな炎になった。

それをじっと眺める。

早朝の静かな朝に、パチ、パチっと木が燃える音が響く。

自分が組み立てた薪が、良いバランスで崩れていく様を楽しみながら、エラはポケットからこっそりマシュマロを出した。

当たりを見回し、誰も見てないことを確認してから、灰をかき混ぜる棒に突き刺し炙る。

マシュマロのすぐにカリッと焼き上げられた。

ホワホワと湯気がたつ。

慎重に食べ頃の合図を待ち受け、フウフウしながら、パクりと端っこを噛じる。

カリっ、トロ〜のこの瞬間が、エラにとって静けさを味わえる時間だった。


暖炉で部屋全体が温まる頃、漸く継母のトレメインが起きてきた。

エラを見つけて、朝から見咎める。

「エラちゃん!また貴女灰だらけになっているじゃないの。火起こしは私がするから、貴女はあの子達と一緒にまだ寝てなさい。睡眠不足は、お肌の敵よ。もう〜何度言ったらわかってくれるのかしら。未婚の女の子が、火傷でもしたら一大事なのよ!」

「でも・・・私・・・」

継母は、エラの言葉を遮り「何水臭いこといっているの。貴女のパパと結婚したときから、貴女はもう私の娘よ。何度も言ってるでしょ」

そう言って、エラを抱きしめた。

そのやり取りが聞こえたのか、姉達が起きてきた。

姉のドリゼラが「おはよう」と言うと妹のアナスタシアもそれに続く。

「お姉様方、おはようございます」

姉が「エラちゃんのおはよう頂きました」

妹も「今日もかわいいね~」


姉二人はいつも朝からハイテンションだった。


エラにはとっては、この光景は日常だ。

義姉も継母も血が繋がらないというのに、毎日全力で可愛がってくれている。


父の訃報を受けたときもそうだった。

知らせを受け、途方に暮れていたエラに真っ先に声をかけてくれたのは、涙なのか鼻水なのか両方なのか、よくわからない液体をダラダラたらしたままの継母だった。


「悲しいわよね・・・いいのよ、私の胸で泣きなさい」

 

エラが飛び込めるように、両手を大きく広げてくれた。

でも・・・エラは飛び込めなかった。

気持ちは嬉しい、今にも飛び込みたかった。

だが、継母の胸元は既に色んな物でぐしょぐしょだった。

少し残っていた理性が、それを押し留めたのだった。


(あの時、理性を振り払って飛び込んでおけばよかった)


エラはあのシーンを思い出すたび、いまだに後悔の念にかられる。

あの時以降、継母は私が継母達に心を開いてくれてないと勘違いしてしまった。

あの日を堺に、極端な『私達はもう家族よ』アピールが始まった。


義姉達もまたしかり・・・。


継母に何を吹き込まれたのか知らないが、小さい頃の可愛がりよりも、今は下駄が外れたかの如く、異様に可愛がってくれる。

二人とお出かけに行こうとすると、自分達のことは秒殺で準備をすませるのに、エラのドレスには吟味に吟味を重ねる有り様だった。

至れり尽くせり過ぎて、寧ろ申し訳なくなってくる。


何度も「お母様とお姉様方のこと、本当の家族と思っております。なので、普通に接してください」と伝えているのだが、何故か信じてもらえない。

寧ろ「わかっているわ、無理しなくていいからね」と斜め上の回答が降ってくる。


(どう伝えれば、この想い届けれるのかしら) 


恋愛ソングの一節みたいな事を思いながら、服についた灰を払いながら、近所をぶらぶら散歩する。

それが、エラの日課だった。

この時エラは、自然とため息をついていた。


ため息をつきながら歩く美女の姿は、すぐ噂になった。

物思いにふけながら、深刻そうに歩く姿に、人々は想像を膨らます。

パン屋の女将が、思いついたまま「エラちゃん、きっと服屋の坊っちゃんに求婚されたのよ」という。

すると、隣りにいた八百屋のおっちゃんが、「いやいや〜俺は、靴屋のサブからのアプローチだと思うぜ」

適当な事を言い合って、楽しみ始める。


楽しみの少ないこの世界では、美女が溜息をつくだけで、格好の娯楽となる。

その噂が噂を呼び、エラ自身が知らぬうちに新聞に《本日の美女の溜息》コーナーが寄稿されるようになっていった。


紙よりも薄っぺらいと思われるぐらい、しょうもない内容。

エラが本日何処其処で、何回溜息をついたとか、それについての考査が記載されているだけ。


何のためにもならない。


始めは、記者の方も面白半分に掲載してみただけで、単発企画のはずだった。

しかし、掲載し一回目にして発行部数が刊行以来歴代1位に輝いた。

この機をチャンスと捉えた新聞社は、エラの同行を観察する専任記者を配置。

毎日勝手にエラの事を掲載するようになった。


こうして、エラの溜息は一躍市民の娯楽として、発展を遂げていった。


だが、この記事を『ニュース』と捉え、真剣な眼差しでチェックする家があった。


そう、エラの家。


エラが散歩に行くと、トレメイン、ドアゼア、アナスタシアは本日の新聞欄のチェックをはじめる。

もちろん見るコーナーは略して《美女溜》。


「昨日の回数は10回ですって!誰よ、エラちゃん悩ませたの、ママじゃないの」

「違うわよ!貴女達じゃなの?」

回数を見てはエラの知らないところで、不毛な責任の押し付け合いが毎朝繰り広げられていた。


そんな、平和な日々が続くと思っていたある日、お城から重大なお達しがやってきた。

恭しく受け取った勅命には、《王子の嫁探し大作戦part1》とか書かれていた。

ふざけたネーミングに、思わず勅命を破きそうになるトレメイン。

そんなトレメインを宥めるドアゼア。

エラはお散歩中で不在だったが、とりあえず内容を確認しようと文章を読み始めた。


「美人嫁求む。年齢若ければ若いほどよし!熟女は応相談。尚、側室および愛人も募集中!1週間後王城でパーティするから、フリーの令嬢達皆強制参加すること」

無言で破り捨てようとするドアゼアを、今度は誰も止めない。

心置きなくビリビリに破いた勅命書を暖炉の燃料としてリサイクルしてる際、エラがお散歩から返ってきた。


「ただいまもどりました」

その声を聞くと、この家の住人達は、一目散に玄関にお出迎えしに行く。

「おかえりなさい、エラちゃん。何もなかったかしら?」

「お母様、お姉様方も心配症てすね!いつも通りなにごもありませんでしたよ」

「本当?貴女見たいに心も外見も美しい子って稀なのよ。もう心配で心配て・・・」

姉達もしきりに頷く。

「えっと・・・毎回お伝えしているのですが、私は一般的てすよ。心配し過ぎですよ。寧ろお姉様やお母さんの方が優しくて聡明で、いつか私を置いていなくなってしまうのてはないかと冷ひやしております」

「「「そんな事は絶対ないからね!(王子になど渡すものか!)」」」と3人は、視線で想いを交わす。

こうして日課のお出迎え儀式を終えた四人は、温かい暖炉のある部屋へ仲良く向かった。


そうこうするうちに、舞踏会の日が近づいてきた。


トレメイン達は、エラには勅命の詳細を告げずに、今回は申し訳ないが自分たちだけで参加する旨を伝えたのだった。

「私の事は、気になさらないでくださいね。楽しんできてください」

と笑顔で返事をした。

だが内心では、自分だけ置いてけぼりにされて悲しくなる。

継母も義姉も大好きだが、理由も知らされず一線を引かれると、本当は家族と思われていないのではないかと不安になる。

王城のパーティ等はどうでもよかった。


だが、無意識に溜息が増えていたのだろう。

舞踏会が近づくに連れ、溜息回数は増えていった。

記者が特集を組み、その原因を探っていった結果、

エラが舞踏会へ行けないからではないかと推測がたった。

記者はいい記事がかけそうだと、早速近隣の住人たちに、エラさん、あの家でいじめられてるのではないかと取材をはじめた。

しかし、人々は、一様に首を降った。

絶対それは、あり得ないと・・・。

あの旗から見ても、溺愛してる人が意地悪でそんな事をする理由がない。

近所の住民達は、確固たる自信を持って記者に答えたのだった。


取材が不作に終わった記者は、諦めなかった。


何としても理由を解明しようと、本人達周辺でなく、別の角度から取材を行ってみようと試みた。

手始めに、貴族の屋敷につとめる知り合いに、それとなく社交界で何が起きているのか探りを入れたところ、思わぬ理由が判明したのだった。


こうして、溜息回数の増加理由とその裏に隠された訳を同時掲載した。

記事を読んだ一般市民の反応は、ドン引きの一言で、貴族令嬢たちに同情するありさま。


本来この記事を読んでほしいエラは、残念ながら新聞を読む習慣がなかった。

新情報を一番知って欲しい本人に届かず、周りの人だけ理由がわかっているという、おかしな状況になっていた。

当の本人はというと、義母と義姉達の配慮を知ること無く、ただただ、悲しみに暮れていた。


そんなある日、魔法使いがやってきた。

「いぇ〜い、世界一の魔法使いがやってきたぞ☆なんでも願いを叶えてあげれるよ」

とても軽いノリだった。

軽すぎて、若干ドン引きするエラ。

それを察した魔法使いは、咳払いをし慌てて口を開いた。

「聞いたところによれば、貴女はこの家で酷い虐待を受けてるとのこと。毎日灰まみれになるほどこき使われていると聞きました。だから、今日は貴女の望みを叶えたくてやってきました。何なりとのぞみを言ってください」

魔法使いがそう伝えると、真っ先にエラは

「先ほどのことば訂正してください!私は、お母様にもお姉様方にもいじめなど受けておりません!寧ろ返しきれないほどの恩と愛情を注いでいただいております。先ほどの言葉は訂正してください」

ふだんは、ホワホワして怒ることのないエラは、本気で魔法使いに怒ったのであった。


エラの凄い剣幕に慄いた魔法使いは、その場で即謝った。

その後は、エラによるエラの境遇話と母娘のすれ違い話をきかされる羽目になった。

涙ながらに語られるその状況に、魔法使いは思わず「俺が一肌脱いでやろう」と言った・・・言ってしまった。

その言葉を聞き、エラは幸せそうにふんわりと喜んだ。

そして、笑顔のまま念押しとばかりに、魔法使いにその旨が記載された請負契約にサインさせた。


後に、魔法使いは、どうしてあんなことを請け負ってしまったのだろうかと頭を抱えることになるとはこの時思いもしなかった。

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