第36話 デヴォンシャーへようこそ
65話まで完成。しばらく毎日投稿します。
「え!?どこどこ??」
エノキは興味津々で俺に聞いてきた。
「デヴォンシャーって場所。境界人の町なんだけどウェイバーによると魔法使っても外にバレないらしい。あ、お前ウェイバーって知ってる?」
そう聞くとエノキは当たり前だという顔をして答えた。
「当ったりまえじゃん!境界人で一番有名なヤツなのに――知らん人いるの?ってレベル」
やっぱりアイツ有名人だったか。
「私はまだ会ったことないけどどんな人?太一」
香織も気になるようだから説明しとこう。俺は頭の中でウェイバーの情報を整理した。
「えーっと……まずさっきエノキも言ったように境界人のリーダーで背が高くてやたらマッチョでクソ強くて科学魔法も使えて、多分腹黒くて妻が4人もいて――」
「あ、うん、もういいわ。なんとなく分かったから」
途中で俺の話を遮る香織。まあ実際に会わないと何も分からんしな。
――その時、珍しくクロエが大きめの声でウェイバーについて言及してきた。
「あ、あの……ウェイバーさんは素晴らしい人だと思いますっ!すごい情熱と責任感で仕事をしていらっしゃいますし他の方々からも信頼されているハズです!私は、その……尊敬しています」
なんかちょっと顔を赤くしているクロエ。まあ仕事熱心だとは思うけど……アイツそんな信頼されてんのか?シャロとのやりとりを直に見た俺としてはやや疑いの気持ちがあった。
「デヴォンシャーでその尊敬するウェイバーさんに会えるかもよ?」
香織はニコニコしながらクロエをからかうようにそう言った。
クロエはうつむいて顔を伏せたまま黙り込んだ。……クロエはもしかしてウェイバーのファンかも知れない。今度サイン貰っといてやろう。
ここで俺はデヴォンシャーまで行く途中もハイドは必須だと思った。
「マウロはまだハイド使えるか?デヴォンシャーまで俺達の姿を隠してほしいんだ。マウロの隠れ家で魔法具を取ってからなら時間的には一時間ぐらいかと思う」
横になったままやる気の消えたような顔でマウロは答えた。
「30分ぐらいしか無理だねえー。複数人の姿を消す広域ハイドは結構魔力使うからね……」
「あ、じゃあマウロさんがダウンしそうになったら私が交代します」
クロエが助け舟を出してくれた。そう、今のところこの二人しか科学魔法は使えないのだ。俺も早く使えるようになりたいぜ。
「てか兄貴!なんで私に科学魔法のこと黙ってたんだよ!?そういうのは真っ先にウチに知らせろって言ってんじゃん!」
エノキが活を入れるようにマウロの頭を両手で掴み揺さぶる。
「話すと長くなるんだ、リア、すまないが後にしてくれ」
マウロは幸せそうな顔をしながらそう言い逃れし、のそっと立ち上がった。
俺もそうだがあのトンネル掘りは相当応えたようだ。普段より頭がボケーっとしている。
「しっかりしろよマウロ!私の兄貴だろ!?」
「ふっ……ふふっ、そうだな。よし!行くか」
ブワッ。瞬時にマウロの足元に大きめの緑の魔法陣が展開される。
「ここから出来るだけ出ないようにしてくれるとありがたいね」
そう皆に忠告するマウロ。一方その横でエノキが好奇心の塊のような、まるで少年のような顔をして魔法陣を見つめている。
「うわああー凄い!凄いっ……!!緑の魔法陣、私初めてみた!!」
魔法の事になると凄い食いつくなコイツ。
――まあそんな感じで俺達はマウロの家までやってきて魔法具をあるだけ全部持って王都ソリオンからデヴォンシャーへ急いだ。
巨大農園の農道を皆で移動していたときには既にクロエが広域ハイドを使っていた。魔法陣の直径はマウロのそれが4メートル位だとしたらクロエは2~3メートル位だった。
「すいません、マウロさんの時よりちょっと狭くて歩きづらいかも知れません」
クロエが遠慮がちにそう断りを入れる。
まあちゃんと魔法の効果が発揮されれば問題ない。
実際、農道ですれ違う農家の人達はやはり誰も俺達の方を見ず、しっかり魔法の効果が出ていることが確認できた。
――しかし、ここで一つおかしなことが起きた。
歩いている俺達のことを明らかに認識出来る人物が畑の中にいたのである。
最初はただ畑で農作業をしているだけの女の人だと思っていた。だが、女は俺達が歩いている農道の真ん前に出てきてこう言った。
『面白い5人だ。光の戦士よ、お前の力は魔王に通じる……』
――その女はものすごく興味深い話をしてきた。俺はついそれに答えようとしてしまったが、何のためにハイドで姿を隠しているのかと思い直し我慢して女の横を通り過ぎた。皆も同じ思いだったようで誰一人声を出すことはなかった。
不思議なことにその女は科学魔法の象徴である緑の魔法陣を出してはいなかった。だが俺達の前にわざわざ出てきて今のセリフを言い、しかも「5人」と具体的に指摘しているあたり明らかに俺達の存在を認識できていたということだ。しかも光の能力のことまで……一体何者なんだ!?
俺達がある程度人がいないところまで歩いた時、俺は気になりすぎたのでとりあえず皆に尋ねた。
「誰だよ今の!?」
「さあ……」
マウロが真っ先に答えた。本当に分からないといった表情だ。
エノキもマウロに続きこう言った。
「え……今の人、魔法陣出してなかったじゃん?何で気づかれたの!?」
科学魔法を使っていたクロエは弁明する。
「わ、私、魔法を解いた覚えはありませんよ!」
ハイドが効いてなかったことも気になるが話していた内容も気になった。
「あの人……もしかして太一が光の能力者だって知ってた?」
隣の香織が俺の疑問の一部を代弁した。
それについてマウロが意見を述べる。
「こちらの人間でタイチが光の能力者だと知っている人間は少ないハズだ。おそらく境界人じゃないか?」
それにエノキが反論する。
「でも魔王がどうとか言ってたじゃん。ウチらでも知らないのに境界人がそんなの知ってるかな?」
……とりあえず考えても結論は出ないので先を急ごうということになった。オルターでは不思議なことは日常だ、全部気にしてたらきりがない。
――それから20分ぐらい歩くと俺達は農園の倉庫にやってきた。俺と香織は再び巨大な境界を見上げる。やっぱりデカい!
倉庫には何人か人がいてダンボールに野菜を箱詰めしたりしていたが、ハイドが効いているため堂々と真ん中を皆で歩いていく。
そして俺と香織は境界の黒い穴に後の3人を導き、デヴォンシャーの第3倉庫を思い浮かべた。その瞬間俺達5人はしっかり第3倉庫へと転送された。
俺と香織以外の3人はまずその倉庫の巨大さに驚いていた。
「ええー!?なんだここめっちゃ広いじゃん!あはははっ」
「この世界にこんな場所があったのか……!境界人の自治区があるとは聞いていたが……」
「す、すごいです」
まあ近代的な建物に慣れている俺や香織ですらこの倉庫の広さには驚いたからな。当然の反応かもな。
「よし、じゃあまずジャンタンに会いに行こう。エノキを仲間にできればって言ってたのもそのジャンタンって境界人だからな」
俺は一旦オルターバンクで警備員をしているであろうジャンタンに会いに行こうと考えた。
「えっ?私の力に興味ある境界人がいるんだ!そいつ見る目あるなー」
エノキの方を見ると満足げな笑みを見せている。まあ実力は確かだと思うが――扱いやすいかどうかは保証できないぞジャンタン。
俺達が倉庫の裏口から出ると、食堂の前の道で見たことのある人物二人が話し合っていた。ウェイバーとジャンタンだ!
「おーっす!」
俺は二人に向かって駆け出していった。
「よう」
ウェイバーはいつもよりやや曇った表情だった。
一方ジャンタンは笑顔で聞いてきた。
「太一!帰ってきたか。どうだったよエウラリアは?」
俺は得意げな顔をして親指で肩越しに後ろを指した。
「ご覧の通りさ。しっかり救出して他にも仲間になりそうな奴を二人連れてきたんだ」
俺以外の4人がゾロゾロと裏口から出てきてウェイバーとジャンタンの前に並んだ。最初に口を開いたのは香織だった。
「あ、初めまして。石田香織です」
「おう。太一の連れなんだろ?俺はウェイバー、よろしくな」
ウェイバーはちょっと笑顔になって答えた。そして後の3人の方を向いた。
「あんたがウェイバーなんだ。私エウラリア!」
エノキがやたら元気にウェイバーに自己紹介した。俺が言うのもなんだが、コイツ物怖じしねえなー。
「君の噂は聞いてるぜーエウラリア。なにやら魔法協会にケンカ売ったらしいな」
「あんな奴らどうでもいいよ。ねえ科学魔法教えて?私そのために来たんだから!」
エノキは相変わらず魔法にしか興味ないといった感じだ。
「ああ、それは構わないが俺達は魔法協会の情報が欲しい。それを話してくれたらいくらでも教えるぞ」
「ホント!?話す話す!でもあんまり詳しい事私知らないよー?」
この二人はお互い求めるものがはっきりしているので特に問題はなかった。しかし――。
対面してからマウロはウェイバーをじっと観察していた。そして魔法陣を地面に描きだす!色は緑だ。
そして何故かクロエも同様に緑の魔法陣を出した。
あれ……?
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