第80話_真相
明とお姉さんの邪魔はしたくない。
でも一体どういうことなのか、その真相はすぐにでも知りたかった。
3人で喫茶店に入った。
そこで島田さんから話を詳しく聞くことができたのだ。
島田さんの話を要約するとこうなる。
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明と、離れ離れになったお姉さんは罪悪感に苦しんだらしい。
暴力的な父親のところに残してきてしまった弟。
確かに、自分には選択権はなかったけれど
母親に連れられて、自分だけがぬくぬくと育っている。
いっぽう、弟は毎日、逃げ場のない地獄の生活をしている。
そのことに常に罪悪感をもっていたということだった。
やがて、母親が若い男と再婚する。
お姉さんが19歳のときだったそうだ。
その若い男は、母親の留守中にお姉さんに手を出そうとする。
もともと、島田さんは自分の母親ともうまくいっていなかったらしい。
明を捨てた母親に不信感を持っていた。
そして母親は、若い父親の娘に対するたびたびのセクハラに対しても
見て見ぬふりをすることが多かったという。
お姉さんは、とうとう身の危険を感じるできごとがあって、家を飛び出した。
専門学校を卒業したばかりの、20歳の頃だったそうだ。
しかしまだ仕事に就いて無かった。
お姉さんは、行くあてがなく、仕事もなくて困っていた。
そこで世話になったのが青井美奈だった。
青井美奈はお姉さんの2つ年上の高校の先輩で、
すでにその頃にはキャバクラで働き、一人で暮らしていたそうだ。
お姉さんは青井美奈の世話になる。
そこで、生き別れの弟のことを、ついつい詳しく話してしまったそうだ。
お姉さんも青井美奈の勤めるキャバクラで働いた。
そこで得た給料で、探偵を雇い、明の消息を探した。
明の所在地を手に入れたが、やはり罪悪感があり会いに行くことが出来ずにいたそうだ。
青井美奈は明の所在地を、お姉さんと暮らしていたころ、盗み見たのだろう。
やがてお姉さんは水商売をやめ、企業の事務員として働き始める。
青井美奈のいい加減な性格にも嫌気がさし、距離を置くことにしたそうだ。
お姉さんは一人暮らしを始め、今は婚約者もいる。
そんな話だった。
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「今日、青井美奈のアパートには、なにか用事があって来ていたんですか?」
俺は島田さんに尋ねた。
もし今日、島田さんに出会わなかったら、全てが悪い方向に進んでいただろう。
「ほんとに偶然なんです。キャバクラ時代の同僚の子が、美奈に貸したお金が返ってこないっていうものだから、説得しに行ったんです」
「あいつ、ホントにだらしがない人間なんだな」
あいつが、ホンモノの姉じゃなくってよかった。
「青井美奈は金に困って、ふと明のことを思い出したんだな。
これは利用できるって思ったのかもしれない」
「ほんとうにごめんなさい。こんなことになるなんて思わなくって」
「姉ちゃん、良いんだよ。姉ちゃんは悪くない!」
明は、もう姉にメロメロだった。
「本当に失礼なお願いなんですけど、
なにか身分を証明できるものはありますか」
俺は思い切って聞いた。
またダマされた!じゃ、笑えないから念のためだった。
「上原さん!そんなの失礼だよ。この人は間違いなく......」
「当然だよ。明、お前、本当にいい友だちがいるんだね」
お姉さんは財布から身分証を取り出した。
「これが社員証です。いまは契約社員で働いていて。
それとこれが保険証。私は運転免許を持ってなくって」
身分証にはたしかに「島田緑」と明記されていた。
「安心できました。すみません。
明はどうして、青井美奈に身分証を要求しなかったんだよ」
「だって、姉ちゃんだと思ったら嬉しくて。それに、父親に殴られたこととか、
押し入れに一緒に隠れたこととか、あいつは、そんなことまで知っていたから」
「全部、私が美奈に話してしまったの。ごめんなさい」
「姉ちゃん!いいんだよ。相手が悪かったんだ」
明は姉の手を握った。
「面影とか、顔でも分かんなかったんだな」
俺はコーヒーを飲みながら首を傾げた。
20年近く前。
しかも当時子どもだったのだから、顔が変化していて当たり前だけど。
「あいつ、青井美奈はプチ整形した、なんて言ってたから。
いつも化粧が濃かったし。姉ちゃんの面影が無いのは仕方ないと思ってた」
「たしかに。素顔がわからないほどの化粧だったもんな」
それでも、いつもの冷静な明なら、絶対にしない失敗だった。
簡単に人を信じてダマされるなんて、明には有り得ないことだった。
それだけ、明にとって「姉」という存在は、神聖なものだったのだ。




