第79話_逃避
ハァハァ
「明、俺はもう走れない......」
まったく自分のスタミナ不足をこの日ほど、痛感したことはなかった。
後ろを恐る恐る振り返る。
やつらは、追いかけてはこないようだった。
「あぁ、もうダメだ」
俺は道端に座り込む。
ハァハァと息が荒い。
しかし、明は汗ひとつかかず、呼吸も乱れていなかった。
「上原さんが、あんなにケンカが強いなんて思わなかった」
なんとか息を整えながら俺は答える。
「いつも言ってるじゃん。自分の身くらい守れるって。
明、信じないんだもんな。
俺は、4歳から空手やっているし、実戦的な空手も10年以上やってる」
男に殴られた頬をさする。
道場の仲間の突きに比べたら、アイツのパンチはたいしたことなかった。
「だけどこんな風に空手を使うのはよくない。
正当防衛だとは思いたいんだけど」
「上原さん、すごいです。格好良かった。ぜんぜん知らなかった」
明は、目を丸くしていた。
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明を守ることができた。
俺は心から満足だった。
柏木のときは薬を盛られてたとはいえ、俺はヤツに好き放題された。
飯田のときは襲われはしなかったけど、俺はヤツの会話のペースにのせられっぱなしだった。
そして堂島のときはピエロにやられ、俺は人生で一番、情けない姿をさらした。
だから今回ようやく、こんな風に明を守ることが出来て、本当に嬉しかった。
「明。信じてくれ。あのお姉さんは、ホンモノじゃないんだ」
「それ、さっきから言ってるけど。一体なんなんですか?」
「あの女の本名は、青井美奈。
どうしてあの女が、お姉さんのフリが出来たのか。
それはこれから、明のホンモノのお姉さんに会って、
話を聞けば分かると思うんだ」
「えっ、ホンモノの......?」
明は、何がなんだかわからない。
そんな顔をしていた。
俺はスマホを取り出した。
ホンモノの姉を呼び出すつもりだった。
彼女の顔を見れば、明だってすぐに理解するはずだった。
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新宿の駅で明と二人、お姉さんを待っていた。
やがてお姉さんがやってきた。
改札を通って、こちらに近づいてくる。
二人はお互いをみたとたん、何かを思い出したんだろう。
ギュッと抱き合うと、涙を流しはじめた。
俺は邪魔しないように、離れてみていた。
「姉ちゃん......本当の姉ちゃんなんだ?」
「そうだよ。明、ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」
俺は離れた位置にいたけど、もちろん泣いた。
こんなに感動的な場面をいままで見たことがなかった。
涙がダラダラと出る。
嗚咽が出るほど、泣いてしまった。




