第74話_借金
明は相変わらず、週末の夜は姉に会いに行った。
その頻度はどんどん増していく。
そして副業に割く時間も、比例して増していった。
明は疲れ切って、いつもの明るささえ失いつつあった。
筋トレやランニングに行く余裕もないのだろう。
背中を丸め、家にこもりパソコンに向かうことが増えていた。
明は自分の体を動かし、鍛えることで
精神的な健康を保っている面もあるように思えた。
家にこもって体を動かさないと、誰だって心が病んでくる。
明の場合は、トラウマがあるだけになおさらだ。
このままでは鬱状態になるのではないか。
そんな気さえした。
心配でたまらなかった。
だけど、明の過去の話。
幼い頃の虐待。
そこから守ってくれた姉の存在。
明はつらい過去を抱えている。
どうしたら良いんだろう。
俺にできることはあるのか。
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その日は俺の誕生日だった。
明は「サプライズがある」って言っていたけど。
サプライズなんかよりも普通に一緒に過ごせれば良い。
心からそれを願っていた。
電話が鳴る。
「上原さん!今日の誕生日なんですけど」
「どうした?」
「実は姉ちゃんに急に頼まれたことがあって。
あっ、でも夜には帰れると思うんです。だから」
「そうなんだ......」
また「お姉さんに頼まれごと」か......。
俺は、明のお姉さんの存在に、うんざりしていた。
お姉さんは、明を苦しめているとしか思えない。
「誕生日なのに。楽しみにしていたのに。一緒に一日過ごせないの?」
明にワガママを言ってみる。
お姉さんのところになど、行ってほしくなかった。
「ほんとにごめんなさい」
「許す。そのかわり、お姉さんとどこにいくのか?
なんの用事なのかを、正直に全部話しなさい」
交換条件を出した。
最近の明は、お姉さんに振り回されすぎている。
一体、二人の間でなにが起きているのか、
正確に把握しておきたかった。
明は黙り込んだ。
おそらく言いづらいことなのだろう。
それなら、なおさら聞いておいた方がいい。
「正直に話して。口出ししないし、怒ったりしないから」
明の答えを促す。
明はしばらく黙ったのち
「姉は借金を抱えていて。僕が出向いて
借金を返す約束をしたんです。」
「えっ」
しばらく息を呑む。
明を責めてはいけない。
強く反対してもいけない。
強く反対すれば、明は口を閉ざすだろう。
いまは、とにかく話を聞き出すべきだ。
そう判断した。
「お姉さんの借金か」
「はい。知り合いに借りているみたいで。
今日が返済の期限で困っているって言うから」
「そうか......。それで、どこまでいくの?」
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明が言うには、新宿のとある雑居ビルに
借金の返済相手がいるので、そこまで現金を届けに行くというのだ。
そんな話だった。
「借金の肩代わりをするってことだよな?
いったい幾らなんだ?」
「50万だそうです」
「......」
頭痛がしてきた。
「それを明が返すの?」
「実はもう貯金はないんですけど、
今日、副業先から80万円くらい入金があるはずなんで」
まるで自転車操業じゃないか。
「ほんとにそれでいいの?」
明はしばらく黙ったのち
「でも僕は、そうしないと一生後悔すると思うんです」
と言った。
「俺も一緒に行って良い?」
「ダメです。危険かもしれない」
「明。心配だから、その事務所の地図を送って欲しい」
明に頼んだ。
「ダメです。上原さんが来てしまったら困るから。
借金の相手は普通の人間じゃないみたいなんです。
夜には必ず戻りますから。待っていてください」




