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おれたち付き合ってますがなにか?  作者: ゴルゴンゾーラ
サプライズではないサプライズ
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第73話_幼い頃の記憶

「話ってなんですか」

「お姉さんのことなんだけど」


「あぁ......」

そういうと、明は俺から視線を外した。


「上原さんは反対なんですよね?キャバクラ行ったりするの」

「あたりまえだよ!いくら金があっても足りないじゃん」


はぁっ、と明はため息を付いた。

「分かってます。でも副業もやってるし......」


「心配なんだよ。仕事なんでもかんでも引き受けてるだろう」

「そんなことないです」


明は体育座りになり、下を向いたまま答えた。


「怒らないで聞いてほしいんだけど。お姉さんは、おかしいと思う」


俺がそう言うと、明は俺の方を見た。


「いくらキャバクラでの自分の成績のためとは言え、

弟を何回も連れて行くなんて」

「仕方ないんです。姉ちゃんは苦労してるんです」


明は、島田さんの肩を持ち続けるだろう。

大事な肉親なのだ。


どうすればいい?


「お姉さんから、金銭的な要求は他には無いよね?」

「金銭的な要求って、なんだか嫌な言いかたですね。

ちょっとお金貸してほしいとかは、ありましたけど。

大した額じゃなかったし」


金を渡しているのか。

俺はこめかみを押さえた。

頭痛がしてきたのだ。


「それって、なんというか、対等な関係じゃないよね?

前々から思っていたけど、明は、尽くしすぎる傾向がある」


「尽くしすぎる?そうですか?」

明は俺のほうをぼんやりと見つめ返した。


「明は俺が心配だと言って、堂島さんを追い払うために100万という大金を渡した。そういう行動が心配なんだ」


それにヤクザに殴りかかろうとしたり、名誉毀損で訴えられるかもしれないのに

不倫の密告までしている。


「上原さんのためならなんでもするって言いましたよね?」


「それは普通じゃない。自分を犠牲にしてまで、人のために何かをしようとしてはいけない。まず自分の幸せを先に考えるものなんだよ」


これは、誰かに教わらなくても、大切に育てられた人間なら本能的に分かっているはずのことだった。


明の目を真剣に見つめて説得した。


明は今、姉に全力で尽くしている。

自分を犠牲にして。

もし俺に対して尽くしてくれるなら「やめてくれ」って止めることができるけど、

明のお姉さんは、遠慮がない。


むしろどんどんエスカレートしていく可能性さえある。


「明がどんどん不幸になっていく気がする」

俺は明の目を覗き込みながら言った。


「もうこの話は止めませんか。せっかく久しぶりに二人きりになれたのに」


明は、俺の首に手を回した。


「俺だってこんな話したくない。でもお姉さんはおかしいよ?」


「上原さんは、分かってないんです」

明は、首に回していた手をするりと外した。


「父親は、機嫌が悪いと僕を叩き、殴りました。

父親に捕まったときの絶望感分かりますか?

家に帰りたくなくて、何時間も公園に逃げる気持ち、分かりますか?」


明の瞳は暗かった。


「父親に僕がぶたれそうになると、姉は毎回、僕をかばってくれたんです。

姉だってまだ7歳だった。それなのに一緒にぶたれて」


「......」


「姉ちゃんと一緒に押入れに隠れた。明、大丈夫だよ、って僕を励ましてくれたんです。姉ちゃんがいなかったら、僕は精神がおかしくなっていたでしょう」


そうだったのか。

俺は明の話に衝撃を受けた。


しかも明は、6歳のときに母と姉とは離れ離れになり、恐ろしい父親と二人きりにされたのだ。

どんな地獄を経験したのか。

わずか6歳で。


「明」

俺は明の手を握った。


「姉ちゃんは、僕にとっての唯一の肉親だし、恩人だし、生きる希望なんです。

今度は、僕が姉ちゃんを助ける番なんです。どんなことだってします」


「そうか。わかったけど......。だったら、俺にも頼ってほしい。

副業を手伝うし、食べ物の用意もする。必要なら金だって」


俺は明の手に口づけした。

「明が衰弱していくのはこれ以上見ていられない。

一度、カウンセリングを受けるとか。そういうのは?」


明はふるふると首を振った。

「トラウマは乗り越えました。僕は姉ちゃんに恩返しをしたいだけなんです」

「でも」


「上原さん、心配してくれてすごく嬉しいです。

僕は上原さんのほかにも姉という愛する存在ができて、ほんとに嬉しいんです。

二人のためなら何でもできます」

フッと明が笑う。


「それが良くないんだよ?

一番大切なのは自分だと思って欲しい」


「じゃあ言いかたを変えます。

ふたりのために何かできることが、自分の幸せなんです」


「……」


これ以上は言っても仕方ないと感じた。


俺が明を大切にすることで、明自身がいつの日か「自分も大切な存在なんだ」と気づいてくれるのを待つしかない。


俺たちはそのまま寝床に行き横になった。

何もしなかった。


明の頭をゆっくりと撫でる。

ぎゅっと抱きしめた。


幼いころの明を想像すると胸が苦しい。

俺はこっそり泣いた。

明の手を握ったまま、その夜は眠った。

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