第69話_お姉さんの職業
「でさぁ、ミナコってどうみても豊胸してるわけ。
私もやろうかなぁって思っちゃった。
あっ、てか、私もプチ整形はしてるけど、豊胸は勇気がいるよね~」
島田さんは寿司屋でも一人喋りっぱなしだった。
俺と明の馴れ初めとか、俺に対する質問、
明の会社での様子とか。
そういう話題は一切なかった。
弟の近況などには興味が無いのだろうか。
それとも、すでに明が話しているんだろうか。
きっとそうなんだろう。
俺はそう思って納得した。
公園内にある喫煙所で、島田さんは一服していた。
「明もだけどぉ、上原さんもタバコ吸わないの?
アタシは止めらんなくてさぁ」
そう言いなが、ニヤリと笑う。
島田さんはスマホを見る。
「あっ、そろそろ店に行かなきゃね」
「姉ちゃん、上原さんはここで帰るから」
店ってなんだ?
「えぇっ。ダメよ!上原さんもお店に来て欲しいぃ~」
島田さんは甘えた声を出した。
「いやっ、でも」
明はなにやら慌てていた。
「ね、上原さんもお店行こ」
島田さんは俺の腕を引っ張った。
「お二人のお邪魔でなければ、大丈夫ですけど」
でも店ってなんだろう。
「やった!同伴2人分ゲットだわ」
「同伴?」
島田さんの言っている意味が、理解できなかった。
明は困った顔をしていた。
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俺と明は島田さんの職場に連れて行かれたのだった。
島田さんの職場は「キャバクラ」だった。
こういった店は初めてだった。
明は、島田さんに何度か連れてこられているようだった。
同伴というのは、一緒に店に入ることを言うのだろう。
「じゃあ、着替えてくるから待っててネ」
島田さんは俺たちにウィンクすると店の奥へと消えていった。
「明、毎回この店に連れて来られていたの?」
「はい。だいたいは。同伴してくれると助かるって言うもんだから。
上原さん、ほんとすみません。
ここまで付き合わせるつもりはなかったんですけど」
そうなのか。
でも普通、弟にこんなことさせるのか。
かなりの違和感を覚える。
明は小声で続ける。
「姉ちゃんは金欠らしくて。
ここの成績も順位が下のほうで苦しいらしくて」
「成績とか順位があるんだな。
まるでうちの会社の営業部だな」
俺は店内をキョロキョロと見回した。
体のラインを強調した衣装を身に着けた女性たちが接客を行っていた。
島田さんは、明が女に興味がないと知っていて、
このような店に連れてきているということか。
島田さんに対し、不信感が芽生え始めていた。
この店、幾らかかるんだ?
こういった店のシステムが分からず、相場も知らなかった。
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島田さんは店では「レナ」と呼ばれていた。
「お仕事、何されてるんですかぁ」
隣に座った女性が、話しかけてきた。
「IT関連です」
ざっくりと答える。
詳しく話しても退屈なだけだろう。
「そうなんですかぁ。あたしは、パソコンとかさっぱり分からなくて」
明と目が合う。
俺のほうを心配そうにみていた。
明は、島田さんと話していた。
姉と弟がキャバクラで会話している。
おかしくないか?
「この店は始めてですよね?
おふたりともカッコいいから驚いちゃいましたぁ。
今日は、気分転換とかそんな感じですかぁ?」
隣の女性が俺に聞く。
どうやらお世辞を言ったりして、俺の気分を良くさせる会話を続けるのがこの女性の仕事らしい。
初対面の男相手に、大変な仕事だよなぁ。
「島田さ......いや、レナさんに連れてこられて」
「あぁ!そうでしたよね~」
いろいろと、質問されるがいまいち会話に盛り上がりがない。
そりゃそうだろう。
お互いの共通点もわからない。
しかも、申し訳ないことに俺は会話を盛り上げる気が全くなかったのだ。
島田さんと話す明をじっと見つめた。
長い足を組んでソファの背もたれによりかかっていた。
少し眠たそうな表情をしている。
明の服をぜんぶ脱がせたい。
それから身体中にキスをする。
一緒に抱き合って眠る。
となりに露出度の高い服を着た女性が居るのに、俺の眼中には明しかいなかった。
俺は明のことを眺めながら、二人きりになりたいと
そればかり考えていた。




