第67話_誰かが
その日。
俺の誕生日だった。
俺は目付きの鋭い男に、胸ぐらをつかまれ、締め上げられていた。
「うっ」
俺の足が中に浮くかと思うほどの腕力だった。
「止めろ!上原さんには手を出すな」
明の叫ぶ声が聞こえた。
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その数ヶ月まえ。
俺と山野井は平和な生活を過ごしていた。
週末になるとどちらかの家へ泊まりに行く。
週に1度は、夕飯を作り、どうすれば効率的に
うまいものが作り出せるのか、研究を重ねていた。
といっても、もっぱら作るのは俺で、山野井は食べるほう専門だった。
俺自身は食べ物には興味がなかった。
だが素材が変化していく様子は興味深かった。
山野井は俺がつくったものをいくらでも食べてくれる。
そして味にうるさいので、その感想が楽しみだった。
作り甲斐があった。
平和だった。
ある時点までは。
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「そうかぁ、来週はあえないのかー」
がっかりした声が出てしまった。
「はい。ちょっと用事ができちゃって」
その日は山野井の部屋に遊びに来ていた。
俺のアパートよりも山野井の部屋のほうがキッチンが広い。
「来週はおでんに挑戦しようかと思っていたんだけどな」
「おでんか!くっそ。食べたかった」
「調べたところ、大根は別の鍋で下茹でという工程が必要らしい。
なぜだと思う?」
俺はネットの情報を披露した。
「僕にそんな高度な質問しないでください!」
「山野井、最近忙しいんだね。
確か先週もなにか用事があるって」
俺はスマホのカレンダーをみながら言った。
「寂しい思いをさせてすみませ~ん」
山野井がおどけて言う。
「あぁ。やっぱり上原さんには言おう。
実は、最近になって姉から連絡があったんです」
「えっ......」
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山野井はお姉さんと、幼いときに離れ離れになったらしい。
山野井が6歳くらいのときに両親が離婚。
お姉さんは母親に連れられて、山野井は父親のもとに育てられた。
そのお姉さんが、最近になって山野井に連絡をしてきたという。
「父親が乱暴な人だったんですけど。
姉が、よく僕をかばってくれたんです。
連絡をくれたときは嬉しくて!」
「そうだったんだ。よかったね、会えて」
「そうなんです。それで週末に会いたいって言われることが多くて」
山野井はしばらく口を閉じて考え込む。
「そうだ!よかったら上原さんも一緒に会いませんか」
「えっ!でも水入らずのところ、悪いだろう」
「姉には事前に、連れてっていいかどうか、聞きます!
僕は会って欲しいなぁ」
「実は僕がゲイだって言うのは姉に言ってあるんです。
だから、僕の恋人だって紹介してもいいですか」
「えっ!恋人かぁ」
思わずドキッとする。
「やっぱり抵抗ありますか」
明が不安そうに聞く。
「そんなことない!ぜひ紹介して欲しい」
「よかった」
明は嬉しそうに笑った。
フト考える。
自分の実家の親に、山野井を恋人だと紹介したらどうなるだろう。
まぁ、普通にショックを受けるよなー。
だが俺自身は気にしない気がする。
山野井が床に座る俺を、後ろから抱きしめる。
「うわあ。大きな犬が抱きついてきたー」
「なんですか。それ」
山野井は可愛くて忠実な犬……。
俺を守る番犬みたいに、ときには周囲の人間に牙をむく。
喜んで俺に飛びついてくる山野井はまさに「犬」を連想させた。
俺の中でときどき頭に浮かぶ山野井のイメージだった。
本人には秘密にしている。
「上原さん」
山野井が首筋にキスをしてくる。
「俺のこと名前で呼んだら?
敬語も止めたって良いんだし。
俺も二人のときは、ずっと明って呼ぼうかなぁ」
自分を抱きしめる明の腕に手をかける。
「会社でも出ちゃいそうじゃないですか。
いいです。僕はこのままで。
上原さんはぜひ、僕を名前で読んで下さい」
首筋にしつこくキスされてくすぐったい。
「やめろって。くすぐったい……あっ……」
体がビクッと反応してしまった。
「ここが良いんですね?」
「ちっとも、よくない。あっ......止めろ」
ゾクゾクしてくる。
もう止めてほしくて、俺は明を押し倒した。
「言うこと聞かない後輩にはお仕置きしないと」
俺の言葉に、明は嬉しそうな顔をした。




