第63話_幸せな時間
「やっぱり寝ちゃった」
山野井の不満そうな声が聞こえる。
「いや、起きてるよ」
俺は無理やり目を開こうとする。
猛烈な睡魔だった。
眠りに落ちそうになる瞬間、
快感に近いような感覚が脳に走る。
「上原さん」
「ん......」
「好きです」
ほぼ眠っている状態の俺に、山野井がキスをする。
何度も何度も。
「好きでたまらない」
首や肩、そして顔にもキスをする。
寝ている飼い主を起こそうとする犬のようだった。
「う......ん」
山野井のキスがくすぐったくて首を左右に振った。
ダメだった。
疲労がたまり眠くて仕方がないのだ。
はぁ~、とため息をつく音が聞こえる。
山野井はソファに横たわる俺をひょいと持ち上げた。
「なに......してる」
「寝床に運ぶんです」
マットレスの上にそっと降ろされた。
「明......」
横たわった俺を見下ろす明のほうに両手を伸ばした。
「はやく」
明の顔が近づいたのがぼんやりと分かった。
俺は彼の首に手を回す。
キスをした。
俺の隣に明も寝転がった。
明をぎゅっと抱きしめる。
ぴったりと体を密着させる。
明の匂いがする。
暖かくて安心した。
幸せを感じた。
俺は安心しきって眠ってしまったのだった。
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一度も目覚めすに、深い眠りだった。
(いま何時だ?)
えっ!13時?
寝すぎた。
完全に。
上半身を起こす。
あれっ、そういえば昨夜、山野井が泊まりに来たんだよな。
俺の隣で寝ていたはず。
山野井の姿はどこにもなかった。
ふぁ~
あくびとともに伸びをする。
あまりにも起きないので、
退屈してどこかに行ったんだろう。
あいつは活動的だからな。
部屋を片付けたりしていると玄関をガチャガチャと開ける音がした。
山野井だった。
「上原さん全然起きないから、退屈で
いったん自分の家に帰って着替えたり
ジョギングしたりしてました。
僕は6時には目が覚めるんで!」
やっぱりなー。
こいつがジッと半日、家にいるわけがない。
「すいません、鍵借りてました。
あけっぱで、出ていくわけにも行かなくて」
「うん。俺は今起きたところ~」
「上原さんぐっすり寝てるから心配で。
生きてるかどうか、何度か呼吸を確かめましたよ?」
ガサガサと紙袋をさぐる。
「これ、駅前のパン屋で買ってきました!
食べません?コーヒー淹れますね」
「何から何までかたじけない」
俺は後頭部の寝癖を抑えながら言った。
ローテーブルにパンを並べ、
山野井がコーヒーを淹れてくれた。
パンが10個くらい並んでいた。
「こんなにたくさん?俺は一つしか食べられない」
「だって、どれも美味しそうで」
コーヒーを飲んで一息つく。
「山野井。あのさ、堂島さんのことなんだけど」
俺は聞きたいと思っていたことを聞くことにした。




