第62話_結婚式の余韻
結婚式、2次会のあと。
俺は、さらに3次会に誘われ、
そのあとカラオケにも行った。
もう気を失いそうなほど疲れていた。
だけど、「次も行きましょう!」なんて
同僚たちに誘われたら、俺は絶対に断れない性格だった。
それに、結婚式の余韻に浸りたい気分もあった。
みんなの気持ちが一つになって、結婚した二人を祝福する。
そんな平和な雰囲気が俺にはとても心地よかったのだ。
カラオケが終わり解散となった。
酒には強いほうなので酔っていなかったが
なにしろ疲れていた。
吐き気がするほど眠い。
そして寒気もした。
「上原さん。大丈夫ですか」
山野井が後ろにいることに気づかなかった。
「うん。大丈夫だけど、かなり疲れてる」
「でしょうね。ひどい顔してます。
どうしてカラオケまで参加するんです。
断ればいいのにって思ってました」
二人で電車に乗った。
他の同僚はもういなかった。
車内はガラガラだった。
「座らないんですか?」
「座ったら確実に熟睡してしまう」
「起こしてあげますよ?」
「たぶん何しても起きないと思う......」
山野井と俺は、吊り革につかまった。
「結婚式の二次会が終わったら、聞きたいことがあるって。
そう言ってましたよね?」
「ごめん。いまはとても無理」
山野井は小さなため息を付いた。
「そうですか。明日は祭日ですね。
僕はこのまま上原さんの家についていきます。
この結婚式用のスーツ、好きじゃないから、着替えがないのはイタイですけどね。
もー早く脱ぎたい~」
山野井はネクタイをだらしなく緩めた。
「好きにしたら。たしかこの間、ウチに置いてったお前のジャージがあると思うんだけど」
「あっ、そうだった!やったー嬉しい」
山野井は笑った。
久々に山野井が家に来る。
自然と顔がほころんだ。
結婚式の感動で、山野井に対する不安が消し飛んでいた。
結婚式は俺の気持ちを魔法みたいに変化させた。
なんて単純なんだろう。
自分でもそう思う。
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「とにかく走り回ったし、金井さんと桜さんには、こき使われた。
カラオケではタバコ吸うやつもいたし。
まずはシャワーだ。悪いけど俺が先!」
「いいですよ。僕は別にそんなに疲れてないんで」
山野井は涼しい顔をしている。
たしかにまだまだ元気そうだった。
「すごい体力だな」
「えっ、普通ですよ?週末には15キロくらい走ってますし
今日くらいのことでは疲れません」
「15キロ!?なにそれ意味わかんない」
仕事でも疲れるのに、そんなに自分の体をいじめてどうするのだと思ってしまう。
「でも上原さんも空手ずっとやっているんでしょう?こんなに体力なくて空手ってできるもんなんですか?」
「俺が完璧な体力までつけたら、道場で俺と対等に闘えるヤツがいなくなる。だから丁度いい」
スーツを脱ぎながら言う。
すぐにクリーニングに出そう。
「またまた〜。上原さんの空手、見てみたいけど想像つかないっす」
山野井は笑っていた。
絶対、ばかにしてる。
苦笑した。
シャワーを浴びてソファに倒れ込む。
俺が出てくると、山野井もいそいそと風呂場に行った。
早く窮屈なスーツを脱ぎたいんだろう。
俺はソファに倒れ込んだ。
「もう限界だぁ、睡魔に引きずり込まれる」
そんな言葉が自然と口から漏れる。
「えっ、眠らないでくださいよ」
山野井が風呂場から大声を出す。
「がんばるけど......」
こんなに疲れたのはいつぶりだろう。
仕事でハードなときでも、
結局は慣れた作業。
ここまで疲れることはなかった。
「上原さん、上原さんてば」
俺はソファで寝てしまったようだった。




