第60話_二次会開始
洗面所の冷たい水で顔を洗った。
眠気がマシになった気がした。
金井さん、桜さん、山野井と俺の4人は
早めに二次会の会場に入って準備を始めていた。
店の人がある程度はやっておいてくれたのだが、
持ち込みの装飾品などもあって、結構作業量が多かった。
「あと30分で人が集まりはじめるよ!
山ちゃん、司会で使うマイクどこ?」
桜さんが腕時計を見ながら、大声を出す。
「上原、受付のところにお釣りの用意しといて」
指示が次々と飛び、俺たちは走り回った。
ふと山野井が俺に話しかける。
「上原さん大丈夫ですか」
「えっ?なにが」
風船をステージに並べながら返事をした。
「午前中からなんだか元気ないです。
それにすごく顔色が悪い」
「あぁ~。ちょっと寝不足で。
大阪でもよく眠れなかったし」
「そうだったんですね。
そんなことも知らずに
昨日は連れ回しちゃいました。すみません」
山野井は俺の顔を心配そうにみていた。
----------------
人が集まりはじめた。
受付は金井さん、桜さんペアがやってくれる。
俺と山野井は、ゲストのコートや
大きい荷物を預かったり、
「席は決まってないです~」などと
迷っている人たちに案内をしたりした。
やがて二次会がはじまった。
新郎、井口からの挨拶が始まる。
朝から一日中、結婚式って大変だよな。
井口も新婦の吉田さんもヘトヘトじゃないのか。
でも幸せそうな二人を見ているのは楽しかった。
午前中の花嫁の手紙では、俺はうっかり泣きそうになった。
危なかった。
「みなさーん、ビンゴゲームはじめますよー!」
山野井が元気に司会をしている。
あいつ、うまいな~。
午前中のプロの司会より良いんじゃないか。
いや、俺がヤツのことを好きだから、よく見えるだけか?
俺は景品を渡す係だった。
そこまで大変じゃないと思っていたのだが。
次々とビンゴになった人たちが来てしまい、
景品コーナーが長蛇の列になってしまう。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい~」
焦っていると。
「上原さん、私達も手伝いますよ」
と後輩女子たちが来てくれた。
「いいの?助かる」
「なんでも言ってくださ~い」
そこへ山野井が現れた。
「アオイちゃんとゆうなちゃん!
二人はゲストなんだから、そんなことしないでいいから」
シッシと手を振り、女子たちを追い払ってしまった。
「お前、司会は?」
「桜さんたちに任せました」
と言いながら、手早く景品を渡していく。
あっというまに列が崩れていく。
要領がいい。
「まったく!油断していると危ない。
上原さんファンはたくさんいるから。
今来た子たちもその一部ですよ」
景品に並ぶ列がなくなったところで
山野井は小声で言った。
「親切なだけだよ」
ほんとに疑い深い。
「女子社員情報網をバカにしないでください。
僕は誰が誰を好きなのか、とか
そういう情報も正確につかんでますからね。
なにか変化があれば最新の情報が僕に届くようにできてるんです」
そりゃ一体どんな仕組みを作り上げたんだよ?と思う。
「お前のことを好きな子もいるんじゃない」
山野井は俺なんかより、人気があるはずだった。
話しやすいし明るいし、優しいと評判だった。
「確かにいますけど、僕はその気がないことを
きちんとアピールしますから。
断ったことも何回かあります。
上原さんはお人好しで八方美人だから
ズルズル付き合っちゃうでしょう?
事実、今までそうだったじゃないですか」
「そんなことないけどな」
まるで俺が、女にだらしがないみたいじゃないか。
なんとなく面白くなくてそっぽを向いた。




