第58話_ドライブ
「ドライブ?でも明日は朝から結婚式だし」
俺も山野井も午前中に行われる挙式、披露宴から招待されていた。
実際に働くのは、夕方の二次会からだけど、
明日は、とにかく長丁場だった。
疲れるだろう。
だから今日は早く寝なくてはいけない。
「ほんの2,3時間ですよ?21時には戻ってこれますから。
上原さんともっと一緒にいたいんです」
山野井は助手席に座る俺の方を見た。
懇願するような目に負けた。
「分かった、いいよ。でも遠くに行くのは止めとこう?」
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「おお!めちゃくちゃきれいだな」
俺たちは、車を走らせ1時間。
神奈川まで来ていた。
「でしょう。ここは穴場です」
眼下に広がる夜景。
国道や街並みが幻想的な光を発している。
ファンタジーの世界のようだった。
山野井が隣で夜景を見ている。
俺たち以外、他に誰もいなかった。
いつもなら山野井の手を握るところなんだけど......。
結婚式の二次会が無事に終わったら。
そうしたら、聞いてみよう。
一体、堂島春斗をどうしたのか?
「上原さん、僕は上原さんと出会えてよかったです」
「急になんだよ」
「まえに言いましたよね。
子どもの頃あまり食べ物がもらえなかったって」
山野井は、夜景を見ながら言った。
「あぁ~。うん、憶えてる」
「よくある話かもしれないけど。
虐待とか、そんなのがあったあと
親には捨てられたんです。
大事にされたという記憶がない。
それどころか恐怖の記憶しかありません。
だから僕は、普通じゃない。何もかも......」
「......」
口を挟んではいけないような気がした。
山野井に吐き出させよう。
そう思った。
「世の中にはもっと悲惨な人がたくさんいる。
でも僕もそこそこ、普通の人が聞いたらびっくりするくらい悲惨なんです」
ハハハと山野井は笑う。
「つまりは、普通じゃないんですよね。
普通に育ったわけじゃない。
そのせいにしちゃいけないかもしれないけど
僕の場合は、性的嗜好も性格も、普通ではなくなってしまった」
「かわいそうだねって同情してほしいわけじゃないんです。
そんな生い立ちだということを知っておいてほしいなって。それだけです」
俺は山野井の横顔を見た。
やつは世間話をしているときと同じような顔をしていた。
「もう、ついていけないな、って思ったら
負担だなって思ったら、言って欲しいんです。
それは上原さんが悪いわけじゃない。
僕がズレているから、だから仕方ないことなんです」
山野井は思い切って俺に打ち明けてくれている。
そして俺の気持ちが山野井から離れてしまっているなら、自分を責めないで欲しい。
おそらく優柔不断な俺へのメッセージだった。
山野井の横顔を見続ける。
すると山野井も夜景から目を離して
こちらを向いた。
「自分のこと話したの、生まれて初めてです。
上原さんにだから言えた」
「うん、ありがとう......」
山野井の気持ちが痛いほど伝わってきた。




