第57話_真実
血の付いたナイフが床に転がっている。
堂島春斗が血まみれで、マンションの床に倒れていた。
その傍らには山野井が立っている。
「上原さん。これでもう怖くないですよ?」
山野井はそう言いながら俺の方に振り返る。
その顔はピエロの顔だった。
「うわっ!......はぁ、はぁ、」
俺は飛び起きた。
夢を見ていたのだ。
時計を見ると朝の5時。
こめかみを押さえる。
あぁ、ほんとに嫌な夢だった。
山野井が殺人なんて。
そんなバカなことをするわけがない。
俺は少しでも山野井を疑った自分を恥ていた。
しかしどこかで「もしや」と思う気持ちがあるのか。
それが夢という形で現れているのかもしれなかった。
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大阪から戻り、久々に東京のオフィスに顔を出した。
「あっ、上原、おはよー。
出張どうだった?
結婚式、いよいよ明後日だよ?
荷物の搬入は、前日にするんだよね?」
出社して一息つくヒマもなく、
桜さんが俺に疑問をいくつも投げかけてきた。
「桜さん、おはようございます」
俺は大阪で購入した菓子を目立つところにおいて
「上原より」と書いたメモを残す。
「二次会の備品は、店に確認したら、前日に運び込んでいいって言うので
そうします!当日じゃ、時間的にも厳しいんで」
「だよね!あたしと金井さんは、前日動けないからさぁ、
上原ホント何から何まで悪いけどお願いね。」
桜さんは、俺に両手を合わせて拝む。
子どもがいたら、なかなか自由が効かないのだろう。
「大丈夫ですよ~」
と返事しておいた。
何人かがバラバラと出社してくる。
「お!食べ物がある、朝ごはんにしよう」
などと、さっそく俺が置いた菓子を
ガサっと持っていくヤツがいた。
やがて山野井も来た。
「あっ、上原さんおはようございます
なんだか久しぶりですね」
会社では俺たちはもちろん、普通に接している。
山野井は
「久しぶりですね」
と言いながら、寂しそうに笑っていた。
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その夜、山野井からメッセージが来た。
「明日の備品の搬入、手伝います。
友だちに車を借りました。
16時頃、上原さんの家にいきますね」
「車、助かる。時間了解」
俺はそんな返事を送った。
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ようやくこの部屋から、
このパーティグッズや景品が無くなると思うとすっきりする。
放置してあったものもあるから、ホコリがついてないか調べた。
100人ものパーティをうまく盛り上げられるのか
非常に不安だ。
でも新郎新婦のためには、一生懸命やるしかないだろう。
なにか抜け漏れが無いかどうか。
俺は念入りに明日の進行表をチェックしていた。
ある意味、仕事より慎重になっていた。
夕方の16時頃、山野井が車に乗って現れた。
「大介の車なんです。あいつ、車好きで。
ぶつけたりしたら殺される」
「そっか。気をつけろよ」
俺と山野井は普通に会話しながらも
ぎこちなかった。
佐々木さんとの浮気を疑われたあとに、
堂島とのあのトラブル。
そして、堂島を「消した」というメッセージ。
山野井ときちんと話し合って向き合わなければ。
とにかく、明日の結婚式が終わったら、
きちんと話し合おう。
いまは慌ただしすぎる。
俺はそう思っていた。
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二次会の店の倉庫のようなスペースに
備品を運び終えた。
漏れがないかどうか、チェックリストで一つ一つ確認する。
ビンゴの景品、30個、クイズの景品20個......。
山野井はその様子を、退屈そうに眺めていた。
「足りなかったら、足りないで、
すみません~で、いいんですよ。
僕たちプロじゃないんだし。みんなも、それは分かってるんだし」
山野井はそんなことを言う。
「いや。俺は完璧に仕上げたいんだ」
どうやら幹事4人のなかで、俺が一番真面目なようだ。
明日は一体、どうなることやら。
俺と山野井は店の人に挨拶し、
また、車に乗り込む。
しばらくすると、山野井が口を開いた。
「上原さん。僕のこと嫌いになりました?
束縛がすごいとか。浮気をすぐに疑われるとかで」
運転をしながらふいに、山野井が俺に聞く。
「嫌いになってない」
即座に俺は答える。
なにも考えずに自然と口から出てしまった。
「じゃあどうして、最近......。
ピエロの件、怒っているんですか?」
「えっ?怒っているって?」
「僕が春斗にピエロの件を教えたって、
きっと上原さんは、それで怒ってるんですよね?」
山野井はハンドルを握り前方をみたまま、そう言う。
道は空いていて、順調に進んでいた。
「堂島さんは、俺の弱点が書かれた山野井の日記を見ちゃったんだよね?
山野井が、わざとあいつに知らせたわけじゃない。
ぐうぜん、知ってしまったんだし仕方ないよ?
そんなことで怒ってない」
「上原さんの弱点を記録していたわけじゃないですけど」
山野井がフフフと笑った。
「上原さんの態度がぎこちないっていうか。
なんかまだ怒ってるんですよね?」
「怒ってはいないんだけど」
堂島春斗を一体どうやって消したのか?
それが気になっているのだ。
聞いてしまえば良い。
だけど聞く勇気が出なかった。
「上原さん、このままドライブしましょう!」
山野井が突然そんなことを言いだした。




