第55話_これ以上は無理
「なんでもない?」
山野井は俺の顔を覗き込んだ。
「そんな訳、ないでしょう」
「えっ。だからなんでもないって。
堂島さんとちょっと話していただけだよ」
「それなら、どうして顔にケガを?」
しまった。
顔を殴られたんだった。
あまり気にしてなかったけど、
確かに殴られた顔がビリビリと痛む。
頬をそっと触ってみる。
腫れている。
色も変わっているのかもしれない。
「それに、こんなところにしゃがみ込んで。
なにかがあったとしか思えないです。
どうして隠すんです?大丈夫なんですか」
山野井は深刻な顔をしていた。
心配してくれているのだろう。
「ほんとに何でもない。これはぶつけた。
ちょっと疲れて座っていただけだし」
俺はよろよろと立ち上がる。
足にうまく力が入らない。
よろける。
山野井が慌てて支えてくれようとする。
俺はその手を振り払う。
「大丈夫だから」
山野井の手を借りてばかり。
これ以上、情けない思いはしたくなかった。
「上原さん。ちゃんと話してください。
まさか、春斗と何かあったんですか?」
「何かってなんだよ!」
俺は自己嫌悪で、いつになくイライラしていた。
「佐々木さんとの仲を疑う次は、堂島との仲を疑うのか?
俺は、1日に2度も、疑いをかけられるのか?
もううんざりなんだけど!」
そんなことを言ってしまった。
フラフラと、その場を立ち去る。
山野井は追いかけてこなかった。
山野井に怒鳴ったことで、さらなる自己嫌悪におちいった。
気分は最悪。
山野井にひどいことを言った。
もうだめかもしれない。
突然、怒鳴るなんてモラハラだと思われても仕方がない。




