第53話_なんらかのトラウマ(山野井)
自分が悪いのは分かってた。
僕は上原さんの部屋を飛び出して
彼の家の近所の公園に来ていた。
二人でデートしたあの公園だった。
池のそばに腰を下ろして
自由に泳ぐ鯉をぼんやりと眺めていた。
僕は上原さんを束縛しすぎる。
やり過ぎだ、
嫌われる、
そう思っても束縛することが止められなかった。
親に捨てられた。
そのトラウマが影響しているとは思いたくなかった。
幼少期のトラウマ?
愛情不足で育ったから?
そんなのは関係ない。
関係ないって思いたかった。
もしも関係あると認めてしまえば
自分が哀れで、悲しくて、みじめで
これ以上、生きていけないような気さえする。
認めたくなかった。
でも認めないといけないときが来たのかもしれない。
「寒いな」
二人でこの公園に来たときも、
やっぱり気温が低くて寒かったけど。
それでも隣に上原さんがいたから、
寒さはそんなに感じなかった。
夕暮れどきの公園は人が少なくて物悲しい。
佐々木さんは
上原さんをどうこうしようなんて
考えていない。
もちろん上原さんも考えてない。
僕が一人で考えすぎて不安になっているだけ。
どうしていつも、考えすぎてしまうんだろう。
「魔が差しただけ」
その言葉だけが引っかかった。
上原さんも「魔が差した」
で済ますんだろうか。
上原さんは浮気をしていないのに。
現実に起こってもいないことで
どうして僕はこんなにクヨクヨと悩むんだ?
自分で自分が嫌になる。
足つぼが目に入る。
上原さんは、足つぼの上をまともに歩けなくって。
それでも真面目な顔をして一歩一歩、
震えながら最後まで歩こうとしていた。
思い出して思わずクスッと笑ってしまう。
そんなに頑張る必要なんて無いのに。
最後には四つん這いになって、進んでいた。
途中であきらめたくないって言ってた。
負けず嫌い。
何に対しても真剣なんだよな。
仕事も手を抜かない。
二次会の準備だって、一生懸命だし。
真っ直ぐで一生懸命。
だけどすごく不器用。
正直言って要領も悪い。
そんな人が、僕を裏切るわけないのにな。
上原さん心配して、僕を探してるかもしれない。
そろそろアパートに戻ってみようかな。
----------------
上原さんの家のチャイムを鳴らす。
でも誰も出なかった。
どこに行っちゃったんだろう?
スマホを見る。
上原さんからの着信がたくさんあった。
僕は上原さんのスマホに電話する。
呼び出し音が5回。
出ないのかな?と諦めて切ろうとしたら。
「上原のスマホでーす。もしもーし」
春斗の声が聞こえたので、僕は混乱した。
どうして上原さんのスマホに春斗が出る?
「も、もしもし。なんで春斗が?
上原さんは?上原さんに変わってよ」
僕が言うと春斗は
「上原さんはいま、お取り込み中のようで。
俺の家に来て、ちょっとじゃれ合ってる」
「上原さんに変われ!」
怒鳴ったら、春斗は電話を切った。
かけ直しても、もう出なかった。
僕は走り出した。




