第51話_困惑
「あれっ、山野井さん?こんにちはー」
突然現れた山野井をみて、佐々木さんはキョトンとしている。
「佐々木さんがどうしてここに」
山野井は呆然と俺と佐々木さんを見比べる。
「ウェルカムボードを作りに来てくれてたんだよ」
と俺は説明する。
「でももう、完成してましたよね?」
「手直しがあってさ」
「手直し?」
山野井は、下着姿の俺をじっと見る。
不審に思っているのは間違いなかった。
佐々木さんのスマホが鳴る。
「あっ、もしもしーお母さん?
えっ、彩花がぐずってる?うん、わかった!
もう帰れるから」
そう言ってスマホを切ると
「上原さん、ほんとすみませんでした。
母に預けた子どもが泣いてるみたいなんです。
山野井さん、すみません、バタバタで!
おふたりとも、二次会の幹事がんばってくださいね~」
と言って、あっという間に去ってしまった。
子どもが居るとほんとに、忙しいんだな。
そんなことをボンヤリと考える
---------------------
「大体の話はわかりました。
井口の名前のつづりが間違っていて、
佐々木さんは直しに来た」
「そうだよ」
「それで、ペンキが服についてしまい
落としてもらっていた」
「その通り」
「ペンキの匂いがなんとなくするだろう」
俺は部屋を見回して、鼻をクンクンさせた。
「上原さんの話にまったく無理はないし
筋は通ってますね。
とっさに、それだけの作り話が出来るとも
思えないし」
山野井は腕組みして、うろうろしていた。
「もういいだろ。なんか食べに行くか?
出前でもとるか?」
「でも、佐々木さんがわざとペンキをつけた
可能性もありますよね」
山野井はそんなことを言い出す。
「彼女は飯田と不倫したような女性ですよ。
上原さんのことも狙っていて、わざとペンキをつけて服を脱がせたのかも。
僕が来たら、慌てて帰っていったのも怪しいし」
「そんなわけないだろ。
子どもがぐずったって、電話があったんだし」
俺は呆れた。
山野井は、ほんとうに疑い深い。
普通じゃない、そんなふうに感じはじめた。
「つづりを間違えたのだって、
わざとなのかも。
あとで上原さんの家に行くために、わざと間違えた」
「山野井。佐々木さんに失礼だよ。
彼女は普通の女性だよ。
飯田さんと浮気したのが信じられないくらい」
「どうして彼女の肩を持つんですか?」
山野井が目を細める。
「肩を持ってるわけじゃない。
常識的なことを言ってるだけだよ」
「不倫のどこが常識的なんですか。
だらしない女性ってことですよ?」
「誰にだって魔が差すことはあるんじゃないか?」
山野井は、俺のその言葉を聞いて
急に黙り込んだ。
「浮気する。
ひとを裏切っておいて、平気でいる」
山野井は、俺の目をじっと見た。
「上原さんも、人を傷つけておいて、魔が差したで済ますんですか?
そんな人だと思わなかったのに」
「山野井?」
山野井は目に涙をためていた。
「上原さんは違うと思ったのに」
「山野井、泣いてるの?どうして。
俺は浮気なんかしてないのに」
「だって」
山野井は突然立ち上がると、玄関から出ていった。
俺は慌てて追いかけたけど、山野井は足が速い。
すぐに見失ってしまったのだった。




