第50話_佐々木さんの訪問
同僚の結婚式まであと数週間。
司会は先輩女子二人と、山野井の3人に任せた。
俺は景品を用意したり、ゲームの準備をしたり。
黒子のような役割をするようだ。
2次会は、新郎新婦ともに知人、友人が多いみたいで、
総勢100名くらいが参加する規模が大きめのパーティだった。
パーティの景品やグッズだけで結構な量になる。
ヤバい。
もしかしたら司会の方が楽なのかも!?
俺一人でてんてこ舞いになるだろう。
もともと要領の良い方ではないしなぁ。
100人もの人間をまとめ、盛り上げることが素人にできるのかどうか
まったくもって謎。
グダグダになるのではないかという恐ろしい予感さえした。
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佐々木さんからスマホに連絡が入った。
「ウェルカムボードの新郎の名前を間違えたかも」
というのである。
そのとき、ちょうど自分のアパートにいたので、
あわててウェルカムボードの現物を見る。
「おっと。ほんとですね!
HIKARU & KANAってなってます」
俺は返信を打つ。
新郎の井口は、井口光と書いて、「ひかり」と読む。
「ひかる」では無いのだ。
これは間違いやすいだろう。
俺も気づかなかった。
「意外に、気づかれないんじゃないですかね?」
俺は、面倒くさいな~と思って、そんな返信をしてしまった。
すると佐々木さんは
「本人は、絶対に気づきますし。
ペンキで塗りつぶせば、なんとかなると思うんです。
それで、上原さんの家にお邪魔していいですか?」
と言ってきたのだった。
「直るものなんですね!じゃあ、お願いします。
今日は家にいますんで」
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佐々木さんは3時間後くらいにやって来た。
「お休み中なのにほんとにすみません。
直したらすぐに帰りますんで!
あっ、これつまらないものですけど」
と手土産まで用意してくれたようだった。
「そんな!いいのに。じゃあ、いただきます」
佐々木さんは、うちのリビングで作業を始めた。
「ペンキを使うので、換気しますね!」と言って窓を開けておく。
床に養生をし、さっそく作業を始めた。
俺には全く絵心がないので、こういう作業ができる人が羨ましい。
凄いなーと思って、その作業を眺めた。
「これよかったらどうぞ」
とペットボトルの水をそばに置く。
「あっ、ありがとうございます。
いや~それにしても、気づいて良かったです」
佐々木さんはそう言いながら、器用に手を動かしていた。
こんなにサバサバした女性が
どうして飯田なんかと浮気したんだろう?
ふと疑問がよぎる。
佐々木さんは浮気なんかしそうに見えない。
(どうして浮気なんかしたんですか?)
まさかな。
口が裂けてもそんなプライベートなこと、聞けないけど。
俺のなかで浮気する女性と言ったら
なんとなく魔性の女といったイメージが出来上がっていたのだ。
「あとはこのプリザーブドフラワーをこっちに移植すれば」
「あとちょっとっすね。いや~でもすごいな。ほんと器用だな」
「上原さん。ようやく終わりです!きれいに直った」
「ほんとですね、誰も気づきませんよ」
佐々木さんは道具を片付けはじめた。
ほぼ片付け終わったところで、ペンキの筆をしまう際に
「あっ!」
佐々木さんの手が滑って、俺のシャツにペンキが飛び散ってしまった。
「うわ!どうしよう。えっ!どうしよう」
佐々木さんは大慌てで、俺のシャツを調べる。
「いいですよ、大した服じゃないんで」
と言ったのだが。
「いや!すぐに落とせば、落ちます。
時間が経つとマズいんです。
私も前にやったことがあって!
ちょっとそれ脱いでください!」
と言う。
「あ、じゃあお願いします」
と俺はシャツを脱ぎ、佐々木さんに渡した。
佐々木さんは、俺のシャツに付いたペンキをキッチンの水道で、
一生懸命落としてくれていた。
「洗剤ですぐに落とすと、落ちるんです。ほんとすみません」
キッチンの洗剤を使って、ペンキのシミを落とす。
「落ちたと思います。あとは普通に洗濯してください」
佐々木さんは、ふぅっ、とひたいの汗を拭った。
そのとき。
「上原さ~ん」
という声とともに山野井がやって来たのだった。
「ドア開けっ放しでしたよ」
と言いながら入ってきた。
「あっ、山野井」
これは勘違いされるシチュエーションだと思った。
真冬なのに俺は、シャツを脱いでノースリーブのインナー1枚で
佐々木さんのそばに立っていたのだ。




