第45話_展開
俺は、ウェルカムボードを取りに
佐々木さんの住まいへ行った。
ウェルカムボードは大きく重量もある。
だから
「家まで取りに来て欲しい」ということだったのだ。
日曜日の午後、取りに行くと佐々木さんは
「わざわざ来ていただいて、ほんとすみません。
お手数掛けました!
あの、よかったらお茶でもどうですか。
娘もいて騒がしいですけど」
と言うのだった。
佐々木さんは、話してみると
男っぽいというか、サバサバした女性だった。
「いや~。なんか会社でウワサになってますよね?」
彼女は、頭をかきながら言う。
「会社、どんな感じですか?
休暇取ってて、会社に行ってないから気になっちゃって」
どうやら佐々木さんは会社の様子が知りたくて、俺を部屋に招き入れたようだった。
「金井さんや桜さんは、全くそういう話題には触れてないですね」
「あの二人、優しいからなぁ」
佐々木さんの背後では子どもが走り回っていた。
「こら、お客さん来てるしジッとしてなさい」
佐々木さんが叫ぶ。
「上原さんに言うことでもないですけど、
今回、離婚することになってよかったと思ってて」
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佐々木さんはやはり、離婚することになったようだった。
今後は、娘と二人で実家の親に頼りつつ、やっていくつもりだという。
「不安はありますけど自由になった気もします」
佐々木さんの話を要約するとそんな感じだった。
しかし飯田は、佐々木さんが離婚は困ると泣いていたと言っていた。
実は密告したのは山野井です。
それに社内で噂をひろめたのもあいつです。
俺と山野井は、のちに、佐々木さんに正直に話して謝罪することになる。
しかしこのときは、言えなかった。
言わなくていいのか。
謝罪すべきではないか。
許してもらえるかどうかわからないけど。
このとき俺は、佐々木さんは少なくとも元気そうだ。
不幸せじゃ無さそうだと、自分を納得させていた。
もしかしたら、強がっているだけ。
体面を保っているだけ。
そんな可能性もゼロじゃないけど。
佐々木さんの笑顔が、俺の気持ちを少しだけ軽くした。
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「もしも~し!山野井?」
「あっ、上原さん」
その日、俺はひとりで残業をしていた。
山野井はすでに帰宅していた。
人気のないオープンスペースで作業中、
ふと山野井の声が聞きたくなって、電話したのだった。
「俺まだ会社でさ。ちょっと声が聞きたくなって」
「まだ仕事してるんですか。
もう止めたほうが逆に効率いいっすよ」
そんなことを言う。
そうなのかな、ってちょっと思う。
山野井の後ろでガヤガヤと雑音が聞こえる。
「山野井。今外か」
「はい。ラコンテに来てます」
ラコンテと言うのは、例の出会いを求めるバーだった。
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俺は山野井のアドバイス通り、仕事を終わらせることにした。
たしかにダラダラ続けていても意味ないよなぁ。
そうだ!
今から俺もラコンテに行ってみよう。
山野井に会いたくてたまらなかった。
山野井はおどろくに違いない。
…………
俺はラコンテのドアを開けた。
店は適度に混んでいた。
人気のある店なんだなぁ、と思う。
飯田に連れてこられた夜は、男の客ばかりだったが
今夜は女性客もチラホラ見える。
山野井は店の奥にいた。
若い男と飲んでいた。
「山野井!仕事終わらせて来た」
「上原さん」
山野井は想像通りびっくりしていた。
「あら、こないだ飯田さんと来た方ね」
店の人は俺のことを憶えていた。
「自分は、大久保大介って言います。
大介って呼んでもらっていいですよ。
この店で働いてます」
大介くんは20代前半の若者で、茶髪。
ピアスをしていた。
「山野井さんの同僚で上原蓮、っていいます」
俺は自己紹介をする。
「同僚......っていうか、恋人ですよね?
明に聞いてます」
大介くんはニコっと笑うとそう言った。
恋人と言われ、俺はドキッとした。




