第40話_不満
「人事部長との面談のとき
上原さんの気持ちが聞けて、まじで嬉しかったです」
しかし言葉とは裏腹に、山野井は不満そうだった。
「でも僕は納得いかないんです。
どうして人事部長を交えた3人の席で
初めて、あの言葉を聞かされることになったんでしょう」
その夜、仕事の帰り、山野井と会っていた。
同僚が社内恋愛のすえ結婚することになっていた。
山野井と俺、そして他2名がその結婚式の二次会幹事を頼まれた。
俺たちは二人で、新郎新婦が選んだ2次会候補の店に下見と称して食事に来ていたのだった。
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「まさかあの場で上原さんが、あんなこと言うなんて思わなかったです」
山野井はまだ不満そうだった。
「だって。あの場で、部長に対して俺と山野井との関係を
ハッキリさせるべきだと俺は思ったんだよ」
生野菜をバリバリ食べながら言った。
「でも違ったな。部長は密告者が誰なのか、それを知りたいだけだった。
よく考えたら部長にとって
俺と山野井が付き合っていようが、そんなのどうでもいいよな?
それなのに俺は、山野井さんが好きですと言ってしまった」
アハハハ!と俺は笑う。
でも山野井は笑わなかった。
店内を見まわした。
雰囲気もいいし。
広さも十分。
俺だったらこの店で決まりだな、と思った。
「どうしたんだよ、山野井。
そんなに部長に知られたくなかった」
「上原さんに僕の言いたいことが全く伝わっていないようです」
山野井はフォークを握りしめ目を細めた。
どうやら、怒っているようだ。
「ああいう言葉は二人きりのときに、
いいムードで言ってほしかったんです!」
「えぇ......?ああぁ~、そういうことか」
「そういうことです。
部長に呼び出される前にだって、いくらでも
二人きりになるチャンスはあったのに。
なんでいきなり、部長の前で......なんですか!」
山野井は肉をいくつも口に入れながら
モゴモゴと言った。
たしかにそうだな。
事前に打ち合わせというか、
山野井にきちんと言ってからでも良かった。
「ごめんって。でも、そんなに怒ることないじゃん。
今回、部長もあんなこと言ってたし、結果オーライだよ」
「ほんと上原さんはツイてます。部長が理解のある人だなんて
ほとんど奇跡ですからね?」
「俺の出世ばっか気にするけどさ。
考えてみたら山野井だって中途採用だからって
全く望みがない訳ないよな。
中途でもかなり昇進してる人いっぱいいるし」
「僕はこの会社に一生いると思ってません。
だから出世とかそういうのはあまり気にしてませんね。
知識と経験が付けばいいかなって」
山野井は俺の問いかけに、キッパリそう答えた。
そうなのか。
山野井はそんなふうに考えているのか。
きちんとキャリアプランを考えていそうだもんなぁ。
それにくらべて俺は将来のこと、なにも考えていないな。
いまどき、大手にいたから安泰、なんてこと無いし
一つの会社に居続ける時代でもないのに。
とつぜん山野井が宣言した。
「これから上原さんの家まで行きます。
部長の前で言ったこと。
それをもう一度、僕にだけ聞かせてください」
山野井は、真剣な顔で俺の目を見てそう言った。
「そんなことさせるわけ?」
俺は、山野井から慌てて目をそらした。




