第38話_話が平行線
「佐々木さんまで巻き込んだことにならない?
確かに、そうすることで俺は助かったけど」
「じゃあ、結果オーライじゃないですか」
山野井は嬉しそうに言う。
「不倫のウワサを広めたりするのは、
名誉毀損で訴えられることがあるって話したよね?」
「覚えてます。それにネットでも調べました。
訴えられたってかまわないって思ってやりました。
僕は、上原さんのためならなんでもします」
「ちょっとおかしいよ、それ」
「そうですか?僕にとっては、べつに」
何を言っても平行線っぽかった。
「自分たちの幸せのためなら、
他の人を巻き込んでもいいって思ってる?」
「他の人を巻き込んでって言うけど。
元はと言えば、不倫している人も悪いですよね?」
山野井は罪悪感のかけらも無かった。
考えてみれば、山野井が、心の奥底に
なにか闇を抱えていたとしても俺は
そこまで深く彼を理解できていない。
飯田さんの言葉が自分の頭によみがえる。
「気が短くてすぐに手を挙げる。
こんな人と将来幸せになれるでしょうかね」
いや。
飯田さんこそ、性格が歪んでる異常者じゃないか。
山野井は、俺のことを大切に想ってくれているだけだ。
今後、俺が気をつけていれば、他者を巻き込むようなこともないはず。
あれこれと考えていると山野井は不安になったのか
「上原さん、黙り込んで何を考えてるんですか」
と言った。
「うん。俺は佐々木さんのことは賛成できない。それだけは言っとく」
「僕は後悔してません。
でも上原さんは、僕にがっかりしたんですね?」
「がっかり、っていうのとも違うけど」
うまく言語化出来ずにいた。
考えかたの違いというか。
違和感。
でも何を言っても平行線。
「また今度ゆっくり話そう?
いまは考えがまとまらないんだ......」
俺が串揚げを一つようやく食べ終わると、
山野井は、すでに5本は食べ終わっていた。
「飯田とのゴタゴタで、すっかり忘れてるけど
僕たち、ケンカしていましたよね?」
「ああぁ~」
そうだった。
前回、かなり険悪なムードになったのだった。
気になっていることを山野井に聞いた。
「やっぱり、あの出会いのためのバーに通ってるの?」
「たまに行きますけど。
でも出会うためじゃないんです」
山野井は、ビールをぐいっと飲みながら言う。
「上原さんと出会う前は
たしかにそういう目的であそこに行ってましたけど。
いまは、あのバーには友人がたくさんいるから。
誰かと話したくなると行くってだけです」
「ふぅん」
納得したような、しないような。
なにもあのバーに集まらなくてもよくないか?
という気もするのだが。
「上原さんが行くなって言うなら、
僕はもうあそこには行きません」
山野井はこちらをじっと見て言った。
「そんなこと言わないよ。
友だちがいるんなら、行けばいいんだし」
空いていた腹を満たし、店を出た。
「なんだか、雨が振りそうだよな」
空を見上げながらつぶやいた。
ビルに囲まれた小さな空には星ひとつ見えない。
「上原さん。飯田が人事に写真を送ったら、
どう対処するんですか」
ふいに山野井が聞いてきた。
「対処?」
「悔しいけど、飯田の言う通り。
上原さんの出世に響くと思います。
同じ成績の人間が
同じ位置に並んでいたとしたら、
スキャンダルやスネに傷のある人間よりも
普通の正常な人間が優先される。
そのほうが会社にとって安全だからです」
山野井はそう言って、寂しそうに笑った。
「とくにウチみたいな大企業なんて
そんなもんです」
「飯田は本当に写真を送ったりするのかな。
そんなことしたってヤツがおかしなヤツって
思われるだけなのにな」
「あいつ、実際おかしなヤツじゃないですか。
それに匿名で送ってくるんじゃないですか。
密告みたいな形で。
送信者が誰かバレずに送る方法はありますし」




