第37話_山野井がやったかどうか
「山野井、よかった、殴らなくて」
俺は山野井に抱きついたまま、ため息を付いた。
必死で、ひと目は気にならなかった。
「上原さん、あいつと何やってたんですか?」
「うん。山野井との写真、データごと全部消すって言うから、
会って話してたんだ。結局、あいつは人事に送るって言ってた。
だから、ムダだったけど」
山野井は俺の両肩をガシッと乱暴につかみ、
顔を覗き込んだ。
「そんなに嫌なんですか。僕とのことバレるの」
俺はじっと覗き込む山野井の目を見つめたまま言った。
「そういう問題じゃないんだ」
「なら、どういう問題ですか」
「バレるのは構わない!
だけど、隠し撮りの写真とか、
スキャンダルみたいな感じでバレるのは嫌だったんだよ!」
山野井は俺を抱きしめた。
「分かりました......」
「人事部をハッキングして、データを未然に削除するとか
そんなのやめてよ。もう良いんだから」
俺は念のため、山野井にお願いした。
なんでもやりそうな彼が少し怖かった。
通行人がチラチラとこちらを見ていた。
山野井は俺を離した。
俺が山野井の手を握ると
彼はびっくりしてこちらを見た。
「手を握ってくれるんですね」
「山野井。お前、俺の後をつけてきた?」
「はい。ごめんなさい。なんか気になって」
「......俺は女じゃないんだし、そこまで心配しなくて大丈夫だから」
「だけど、無理やりキスされてましたよね?」
「そうだけど……」
思わず目が泳ぐ。
そうだ。
佐々木さんの不倫の密告。
飯田さんが言うように、あれも山野井がやったのかどうか。
怖いけれど聞かないといけない。
「山野井、聞きたいことがある。時間ある?」
腹も減っていたし。
俺たちは、よく行く居酒屋に入った。
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居酒屋の奥のテーブル席で、
向かい合って座った。
「山野井に聞きたいことがある。
佐々木さんの不倫の証拠を旦那さんに送ったのは、山野井なの?」
「はい、そうですけど」
山野井は、キョトンとして言った。
彼は、串揚げの豚肉や、海鮮類を次々と頬張っている。
やっぱりそうか。
俺はこめかみを押さえた。
頭痛がした。
やはり山野井がやったのか。
ショックを受けると同時に
彼がどういう気持ちでやったのか、罪悪感はないのか、
それを知りたくなった。
「それはやりすぎだったんじゃないのか」
俺は山野井に問いかけた。
山野井は、平気なのだろうか。
他所の家庭を壊すようなことをして。
「でも飯田さんにしつこくされて、
上原さん困っていたし」
山野井は、当然のことをしたように言う。
どうして平然とそう言えるのか。
俺にはわからなかった。




