第31話_飯田さんに連れられて
22時前後の、いつもの山野井からの電話がなかった。
怒っているのだろうか。
翌日、23時を過ぎても電話がなかった。
嫌われた?
ウジウジと考えても山野井の気持なんだから、俺にはわからない。
山野井に自分から電話してみた。
「もしもし」
山野井の声。
「......」
電話に出てくれると思わなくて、思わず無言になってしまった。
「無言電話ですかー?」
「ごめん、出てくれると思わなくて。
なんか、怒ってるんだよな?山野井」
「怒ってはいないですよ。
ただ、ちょっといろいろ考えちゃって」
「そっか」
お互い、無言になる。
「明!こっちこいよ」
電話口からそんな声が聞こえる。
「山野井、今、外なんだ。
ごめん邪魔したな。
遅い時間だし、帰りとか気をつけろよー」
俺は、慌てた。
山野井が外にいると思わなかったのだ。
明って下の名前で呼ぶ男の声だった。
友だちだろうか。
「ありがとうございます。
おやすみなさい......」
山野井はやっぱり元気がなかった。
------------------
香苗の罠にハマったとき、山野井は一人で動いてくれて、解決に導いてくれた。
だから、俺も飯田さんとのトラブルを一人で解決しようと思った。
飯田さんにハッキリと迷惑だということを告げるだけ。
香苗のワナのときよりも、解決は簡単なことに思えた。
この間言えなかった、山野井への俺の気持を飯田さんに伝える。
写真をばらまいたってかまわない。
この2点を伝えるつもりでいた。
柏木に襲われたことで、俺は落ち込み、精神的に不安定だった。
それを山野井が解消してくれたんだった。
だから今回は、俺が自ら動いて解決し、山野井に元気になってもらおう。
そう思った。
飯田さんはヤクザじゃない。
普通の会社員だ。
だから一人で会ったところで危険はないだろう。
怪しい飲み物は口にしないようにするし。
「上原さん、今日はどうですか。
連れていきたい場所があるんですけど」
フリーアドレス制のうちの部署。
飯田さんは最近では、俺の隣の席を選んで作業することが多かった。
他にいくらでも空いている席があるのに隣に座る。
仕事中、ベタベタと触り接近してくる。
気分が悪かった。
そして必ず仕事終わりの飲みや食事に誘ってくる。
いつも断っているのだが。
「この間の話の続きをしたいと思っていました。いいですよ」
今回、俺はそう答えた。
飯田さんは目を見開き嬉しそうに
「それは、よかった」
と言った。
--------------------------
(山野井のことだけが好きです)
(写真はばらまいてもらって構わない)
俺は心のなかで呪文のようにその2つを唱えていた。
(飯田さんのペースに巻き込まれるものか)
「この店です」
飯田さんが案内した店はバーだった。
「……」
会員制とも書いてないし、大丈夫だろう。
俺は店に足を踏み入れた。
店内の客は男ばかりだった。




