第28話_話し合い
その夜ー
飯田さん、俺、そして山野井の三人は、
和食の店の個室で3人、黙り込んでいた。
「相手を一人だけに決めてしまうなんて
もったいないと思いませんか」
飯田さんは言う。
「私はいろんなひとと出会って、遊びたい。
そのほうが人生、刺激的だと思うんです」
「でも」
俺は戸惑っていた。
俺が黙り込むと、隣りに座っていた山野井が言う。
「そんなの、相手を不幸にするだけでしょう。
僕は上原さんだけが好きです。
他に興味はありません。そういうのが普通でしょう?」
飯田さんは山野井の方に視線を移す。
その顔は無表情だった。
「そんな気持はいずれ冷めていく。
だいたい飽きるもんでしょう?
あなたも今までいろんな恋愛してきて、
そうだったんじゃないんですか?
とくに男同士だと、子どもも出来ない。
結婚もできない。変化がないうえに障壁も多い。
当然、冷めるときが来るんです」
そして飯田さんは、俺の方に視線を戻す。
「上原さんは、どうなんですか。
山野井さんのことを好きなんですか?
恋愛対象として、ですよ。
彼一人に決めてるんですか?」
「えっ、......俺は......」
山野井の視線が痛い。
俺がどう答えるのか、山野井はじっと待っていた。
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飯田さんと山野井、俺の三人での話し合いの場が作られた、
その数週間前くらい。
山野井と手を繋いでいるのを見てからというもの
飯田さんは、俺に対して、積極的になっていた。
仕事中、ベタベタと近寄ってきたり、
飲みに誘ってきたりは日常茶飯事だった。
相手が男だから、社内の別の不倫相手が見ていても
堂々と俺にアプローチしてきた。
そう言った面でも飯田さんにとって俺は、
誘惑しやすい相手だったのだろう。
男だから、変な目で見られることも
噂されることもない。
ただ単純に「仲が良いんだな」
そんなふうに思われるだけだった。
飯田さんの態度に対する俺の気持ちは「鬱陶しい」から
「気持ちが悪い」に変化していった。
ベタベタとされても、誰一人、気にしない。
いや、誰一人ではない。
山野井、以外の人間は気にしなかった。
男が男にするセクハラも罰則すべきだと思い始めるくらいだった。
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「一度3人で話し合いましょうか」
山野井が言った。
「上原さんは、飯田さんの行為を
迷惑に思ってるんでしょう?」
「迷惑というか、鬱陶しいって感じかな
飯田さんに下心があると思うと
正直気持ちが悪いし」
22時過ぎのいつもの電話。
山野井は最近仕事が立て込んでいて、
少し疲れた声だった。
「最近、僕たちも二人きりで会えてませんね......」
山野井がしょんぼりとした声で言った。
「不安です。上原さんが僕のことを
どう思っているのか。
前は嫌いじゃない......とは言ってくれたけど」
「こうして電話ができて、二人きりで会うことも出来て
キスも出来て。それだけで満足だったはずなのに。
欲張りですよね。すみません」
「山野井、今仕事忙しいじゃん。
落ち着いたらまた会おう?」
俺は山野井を励ますように言った。
俺は山野井に対して、長い間、煮え切らない態度を取っていた。
山野井のことは好きだった。
だけどその気持ちを貫いていいものかどうか
自信がなかった。




