第26話_玄関で
うちのアパートの玄関で、
山野井は俺を抱きしめた。
ドアを締めた途端だった。
「っ......。ごめん、家に呼んどいてなんだけど、
まだ心の準備が」
「分かってます。すぐに帰ります」
山野井は玄関のドアに俺を押し付けるようにして
激しくキスをした。
靴は履いたままだった。
「こんな場所で?」
「部屋には上がりません。
そうなれば止められないから」
山野井は何度もキスをして、
顔や首筋にも唇を押し当ててきた。
あまりの勢いにされるがままに
なってしまった。
山野井は、
「幸せです」
と言い俺を強く抱きしめると
「もう帰りますね
これ以上いたらやばいんで」
そう言って、慌ただしく玄関から出ていった。
山野井に我慢ばかりさせている。
そろそろ覚悟を決めないといけないのかもしれない。
それに続きをして欲しい。
そんな気持も生まれ始めていた。
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翌週、飯田さんと会社で顔を合わせた。
彼は「質問がある」と言って、わざわざ
俺のところにやってきたのだった。
チャットで聞いてくれればいいような内容だった。
「この間は偶然、お会いできて嬉しかったです」
「ほんと、偶然でしたね」
俺は調子を合わせた。
それから声を低くして
「山野井さんとは仲が良さそうですね」
と言った。
「趣味が同じなもので」
と誤魔化すつもりで、答えたのだが。
なんだか意味深な答え方をしてしまったかもしれない。
画面を見せながらフロー図を説明すると
飯田さんは後ろから必要以上に顔を近づけて覗き込んできた。
左手はなぜか、俺の肩に置いて、
そしてほとんど、飯田さんの息遣いが聞こえるほど顔が近い。
「ちょっと近いような気が」
思わず言ってしまった。
飯田さんは
「あぁ、すみません。熱中してしまって」
と言ったがぜんぜん、すまなさそうじゃなかった。
ふと視線を感じる。
みると、遠くの席で山野井がすごい形相でこちらを睨んでいた。
うちの部署はフリーアドレス制と言って、好きな席に座ることができる。
今日は山野井は、あの席にいたのか。
山野井はじっとこちらを見ていた。
また今夜の電話で怒られる、そう思った。




