第25話_怪しい行動
「日が暮れてきましたね」
「そうだな」
結局、なんだかんだと3時間も公園で過ごした。
自分の家の近所だったけど、こんなにじっくり来たことはなかったので新鮮だった。
「なんか食べましょう。じゃ帰るわーって雰囲気出さないでください。
デートはまだまだ続いてますからね」
「ハハ、分かってるって」
山野井は飯田さんと佐々木さんを目撃したことはもうすっかり忘れているようだった。
「なに食べたい?」
「この辺、詳しくないです。上原さんのテリトリーでしょう」
「俺は食べることに、そこまで興味が無いからな」
結局、適当な居酒屋に入った。
山野井はよく食べるやつだった。
「ほんと良く食べるよなー」
「上原さんが少食すぎるんです」
山野井はなにか考え事をしているのか、しばらく黙り込んだ。
やがて
「こんなこと言うと、引かれるかもしれないけど」
と前置きをして言いはじめた。
「僕、子どもの頃わりと放置されてて食べものを、あまりもらえなくて。
それで、食べものを見ると焦って一気に食べるクセがついちゃってるんです」
山野井は頭をかき、笑いながら言った。
「食べものをみたら、できるだけ食べとけ!みたいな」
山野井はハハハと笑う。
明るい笑顔と、言葉の中身の重さのギャップに、
どう処理していいか悩んでいると
「上原さんに食べかたが意地汚いって思われてたら
嫌だなと思って。
あっ、でも直そうと思っているんですけどね」
と山野井は言った。
「そうだったんだ。意地汚いなんて全く思ってないよ。
直す必要性もないんじゃない」
と伝えた。
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山野井は俺の家に寄りたいと思っているかな。
俺は夕飯を食べながらそのことばかり考えていた。
できれば二人きりにならずに終われたら、楽だ。
だけどそれでは山野井が可哀想な気もするし。
俺自身はどうなんだ?
山野井と二人きりになりたい?
自分に問いかけても分からなかった。
二人きりになりたいとか、なりたくないとか
そんなことよりも
ずっと一緒にいたい。
単純にそう感じている自分がいた。
「上原さん」
店の前で、山野井は言った。
「今日は楽しかったです」
「うん、俺も。あの公園に鯉がいるって知らなかったし」
「へぇーっ、もったいない。僕なら毎週来ますけどね」
雰囲気から言って、山野井は帰るつもりらしかった。
うちに来ないなら「気楽だ」
そう思っていたくせに、俺は急に寂しくなる。
「山野井、今日はありがとう」
というと、山野井の手をそっと握った。
山野井はびっくりしたような顔を俺に向ける。
「なんで、そんなにびっくりするんだよ?」
「......上原さんって予想外のことするなって」
「予想できるだろ、別に」
「っていうか手を握るの、好きですよね」
「山野井の手、なんか安心するから」
「そんなこと言われると、帰りたくなくなるな。
上原さん家、行っちゃダメですか」
山野井がそう言ったときだった。
「上原さんと山野井さんじゃないですか」
声をかけてきたのは、飯田さんだった。
さっき見かけたときは、佐々木さんと腕を組んでいたのだが。
もう佐々木さんとは解散したのだろうか。
彼は一人だった。
俺は握っていた山野井の手を慌てて離した。
しかし、遅かった。
飯田さんには見られていただろう。
「この近くにお住まいなんですか?」
飯田さんは俺たち二人をじっくりと見比べた。
「はい、まぁ」
と俺が答えると、山野井は俺の背中をこっそりつついた。
飯田さんに住まいを知られてはいけない
という意味だろうか。
「いや、どうなんだろう......」
俺は支離滅裂だった。
手を握っているところを第三者に見られて慌てていたのだ。
そんな俺の様子に構わず
「せっかく会ったんだし、一杯どうですか」
と飯田さんは言う。
俺がどうしようかな、と思っていると
山野井が言った。
「せっかくですけど、これから二人で行くところがあるんです」
とキッパリと言う。
「そうなんです」
俺も慌てて、山野井にならう。
「残念だな。じゃあまたお会いしましょう。それでは」
飯田さんは引き下がった。
あまりしつこくなくて良かった。
「飯田さん、僕とは目も合わせませんでした。
上原さんばっかり、じっと見つめてた」
「そんなことないだろ」
山野井は目を細めながら言った。
「アイツの視線、ヤバいですって。
それも、さっきまで佐々木さんとデートしてたのに。
どんだけ気の多いヤツなんだ。ちょっと危険かも」
そんな風に話しながら歩く俺たちの後ろを
こっそり飯田さんがつけていたとは、
そのとき、全く気づいていなかった。




