第20話_束縛
梨央がニューヨークに旅立った。
すべてが解決したのだ。
俺は悪夢にうなされたり、ひとの大声にビクッとしたりと
しばらく病的な症状に悩まされたが、
やがて落ち着いてきた。
なによりも梨央が香苗から開放されたという事実が自分の精神の安定にもつながった。
俺の行為が役に立ったという山野井の言葉も、支えになっていた。
時間が解決するだろう。
やがて、すっかり忘れるのではないかと感じていた。
山野井は、山野井で、あの事件以来、病んでいた。
毎晩俺に
「上原さん、無事ですか?」
と電話してくるのだった。
無事かどうか確認しないと
不安でよく眠れないという。
「何かあれば、必ず山野井に相談するから」
そう言っても、電話するのを止めなかった。
あいつは、あいつで、あの事件にたいして
心の傷を負っているらしかった。
土曜日の夜。
俺は大学時代の友人たちと飲んでいた。
近況を話したり、仕事に繋がりそうな情報を交換する。
友人の一人の家にあがりこんで、みんなで飲んだ。
深夜になり、自分のアパートに帰ってくると
山野井がアパートの入口に立っているのだった。
「上原さん!」
「えっ......なに。山野井?」
びっくりした。
こんな夜に、どうして、ここにいるんだ?
「心配したんですよ。電話に出ないから」
そうだった。
友達との遊びに夢中で、
スマホは放ったらかしだった。
「ごめん。友だちと遊んでた」
「無事のひとことだけでいいのに
電話に出ないからどんなに心配したか」
山野井は、ここに何時間いたのだろうか。
寒さで震えていた。
「山野井。寒かったよな。ウチに入ろう
熱いお茶淹れる」
いくらなんでも、このまま帰すわけに行かない。
俺は山野井を家に入れた。
家の中も冷え切っていた。
慌てて暖房をつける。
「山野井、ここに座って。お茶淹れるから」
俺は、山野井をソファに座らせた。
「上原さん、友だちって、男ですか女ですか?」
山野井が不機嫌そうに聞く。
「男ばっか6人いたかな。大学んときの友だち」
山野井の前に、ほうじ茶の入ったマグカップを置いた。
「あぁ~。相手が、男でも女でも、
上原さんはどっちにもモテるから、意味がない質問だった」
山野井は、マグカップを両手で包んで、手を温めていた。
「何言ってんだよ。
もう電話、止めたら?俺は大丈夫だから
何かあれば、山野井に相談するし」
「嫌です」
山野井は首をふるふると横に振った。
「だけど、今夜みたいに
うっかり電話に出れないこともあるだろうし」
「そしたら、今夜みたいに僕が確かめに来ます」
「心配なのは分かるけど。俺が空手やってるの知ってるよね?
薬を盛られたりしなければ自分の身くらい守れるんだよ」
「そうは思えません。
上原さんどうみても弱そうじゃないですか」
困った。
山野井の行為は、束縛に近い。
帰宅が遅くなれば、誰と会っていたのか
何があったのか、全て言わされる。
「分かってます。嫌ですよね。
僕なんかの声、毎晩聞くのは。
付き合っているわけでも何でも無いのに」




