第16話_手を握る(山野井)
上原さんは、水を汲みに行こうとする僕の腕をつかんだ。
そして、僕の手を握ったのだった。
びっくりした。
上原さんが僕の手を握っている?
彼が自分から、僕の手を。
「ここにいて」
僕の手を握る上原さんの手は小刻みに震えていた。
よほど怖かったのだろう。
「ここにいます!ぜったい離れません!」
手を握る上原さんの手の上に、
さらに僕の左手をのせる。
「どうしてこんな目にあったんですか。
少しでも危ない目に合いそうだと思ったら
もっと早く僕に相談してください......」
上原さんは、うん、うん、とうなずいた。
「おれあいつに......なんども、ぶたれた」
そう言うと、上原さんは僕の手を自分の頬に当てた。
「痛かったでしょう」
僕は赤くなった上原さんの頬を触った。
熱を帯びていた。
彼の髪にも触れ頭を撫でる。
「ここは危険かも。
タクシーを呼びますね」
ここはヤクザの所有している店だろう。
万が一、アイツらの仲間がこの店にやって来たらと思うと
ヤバすぎる。
僕は、上原さんの髪からそっと手を離すと、スマホで
タクシーを手配した。
タクシーを手配し終わると、
また上原さんの手を握る。
彼は手を握ると、ほっと安心したような顔をした。
タクシーはものの数分で到着しそうだった。
「上原さん、この店から出ましょう」
彼を支えて、上半身を起こしたが
うまく力が入らないようだった。
「やまのい......たのむ、おまえん家、連れてって」
上原さんはそう言うと僕にもたれかかった。
「警察とか病院は」
「いやだ......むり......」
「......」
上原さんは震えていた。
彼のワイシャツはボタンが壊れてしまっている。
身なりをなんとか整えると
僕のコートを着せた。
彼を支えるようにして、店から出た。
最悪の体験をした。
怖かった。
上原さんが目の前で壊されてしまう。
悪夢のようだった。
一体、上原さんは、なにに巻き込まれたのか。




