第13話_泥沼にはまる
緊張した様子で震える梨央の声。
位置情報を見るとそこは、会社から10分くらいの位置にある
バーだか、スナックだか、とにかく酒を飲む施設のようだった。
嫌な予感がした。
香苗さんは、見た感じ普通の女子大生だった。
だが、梨央の話を聞くと、
彼女はかなり残酷なことが平然とできる女なのだ。
これは罠かもしれない?
行かない方がいい?
でも行かずにいて、梨央になにかあったら?
梨央とヨリを戻したい。
そんな気持ちは、俺のなかで、もう消えてなくなっていた。
梨央とはいろいろありすぎた。
いろいろありすぎて、恋愛感情が引っ込んでしまっていた。
ただ、一度は付き合った女の子。
彼女の笑顔を思い出した。
悲しい思いをしているのなら
俺がなんとかしてあげないと。
そんなバカで浅はかな気持が生まれたのだった。
でも嫌な予感がするのは事実。
不安なので、念のため、保険をかける。
山野井にメッセージを送っておいたのだ。
山野井には、梨央と香苗さんの話は、
一切していない。
これから、俺が行く
バーの位置情報を山野井に送信する。
それからこんなメッセージを送った。
「梨央に言われて、今からこの店に行く
いま詳しく書く時間はないんだけど
この店に行くのは危険な行為かもしれない。
だから念のため、知らせときたい
もし時間に余裕があれば山野井も店に来て欲しい」
山野井は、俺と違い要領がいいので
こんなに遅い時間まで残業はしない。
この日もすでに社内にはいなかった。
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地図にあった店についた。
「会員制」と書かれた文字が目立つ
スナックだった。
女子大生が普通に出入りするような店に見えない。
スマホを取り出して、
山野井に送ったメッセージを確認する。
残念ながら、山野井からは返信もなければ、
既読もついていなかった。
ため息をつく。
ここまで来たら仕方ないか。
会員制スナックの重い扉を開けた。
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「お呼び立てしてすみません」
香苗さんはスナックの
カウンターのスツールに腰掛けていた。
カウンターの中にはママと思われる
年配の女性が一人。
店内には男の客が2名。
彼らはカウンターで静かにグラスを傾けていた。
「梨央は」
俺は店内を見回す。
「梨央は気分が悪いって言ってて今、化粧室です。
もうすぐ出てくるんじゃないかな」
香苗さんはニコニコと俺に笑顔を向ける。
「そっか。大丈夫かなぁ」
俺は香苗さんの隣に腰掛ける。
「なに飲まれます?」
店のママが俺に尋ねる。
「まだ仕事が残ってるから、
すみませんけど、ウーロン茶で」
梨央はまだだろうか。
ウーロン茶が俺の前に置かれた。
「梨央から、あることないこと聞かされました?」
香苗さんが、俺の顔を覗き込む。
「彼女、精神的に少し病んでいて、妄想癖っていうんですかね
そういうのがあって」
「梨央が困った立場にいるというのは聞いたよ。
すぐにでもそんなことは止めるべきだと思うんだけど?」
俺は香苗さんに言ってみた。
しかし香苗さんは
「だからそれは、梨央の妄想なんです」
と言って聞かない。
香苗さんは、水割りを飲んでいた。
彼女がグイッとグラスを空けるのを見て、
俺もつい、自分のウーロン茶に口をつけてしまった。
急いできたので喉がカラカラだったのもある。
このウーロン茶に、薬が混ぜられていたのだ。




