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Room no.18

#1 18号室の面々


「よろしくお願いします!」

そう言って、俺は頭を下げた。ここは、とある私立学園の高校2年の教室。俺は今日から転入してきた小川綜。他の生徒の視線が痛い。『なんだコイツ』みたいな目で見つめてくる。正直なところ、そんな謎が多い奴みたいに思われても困るんだが。まぁ仕方ないと言えば仕方ない。俺としては嬉しくないのだが、転入生である以上この境遇は受け入れなければいけないものなのだから。


「小川ってのか?よろしくな~」

「よぉ、友達居ねえんじゃねえの?」

「お前さぁ……誰かと話すとかしたらどうだぁ?」

うぜぇ。しんどい。なんでそんなに俺と絡みたがるんだ。というかその絡み結構失礼だぞ。なんていう言葉を飲み込み「あ、あぁ」程度にあしらっておく。なんて煩い連中なんだ。廊下側で一番後ろの席について最初の授業が終わり、わずか5分。すでに対人関係に参ってしまった。さっき話しかけに来たパリピ共はどうやら別のメンバーと騒いでいるらしい。やはりメンバーが固定されているのは当然の話か。そして、一部の生徒は複数人の間でたらいまわしにされて……違う。取り合いになっているんだ。これはたらいまわしなんかじゃない。不思議な学級だ。

「…………??」

見ていて気がついたのだが、俺の目の前の列。どうもクラスから孤立している気がする。一番前の奴(担任は委員長だと言っていた)はさっきからずっと耳にイヤホンを刺してふわふわとリズムを取り続けている。2番目は授業が終わる10分くらい前からずっと机に突っ伏して寝ている。3番目の子は4番目の子に何故かバックハグを仕掛けてるし、4番目の子は特にそれを拒んでいる気もしない。5番目と6番目は……特に何をしているという感じでもない。だが、間違いなく誰からも絡まれていない。これだけは言える。俺は、そんな彼らが少しだけ羨ましかった。他人と接するのは、あまり得意じゃない。


授業が終わって、俺は事務室へ向かった。ここの学園では全寮制を採用しているらしく、その部屋の鍵を取りに行くためだ。その時、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。振り向くと、委員長が立っていた。

「こんにちは、小川君。俺は同じクラスの……」

彼が言い切るより先に、俺が遮った。

「えっと、二戸でしょ。覚えてるよ」

「そうか。それはよかったよ。寮が同室になってるから、案内するよ」

「え、え?」

少し、俺は動揺した。数人で部屋が一緒ということは、コミュニケーション能力が必要になる。だけど、俺にそんなものは無い。いや、出来はするんだろうが、あまりにも謎が多いと思われてうまく話してもらえないのだった。それに、俺も自分からガンガン話しかけていくタイプではない。あくまで対等な関係として声をかけられるなんて、なかなか無い経験ではあった。

「えっと、だから、俺は」

「ほら、こっちこっち」

「いや、ちょ」

俺の話を聞くよりも先に、二戸はどんどん先に行ってしまう。

「待って、あの、二戸?」

「ん?」

そこでやっと二戸が振り向いたので、俺はその手を掴んで事務室の方に引っ張った。

「まだ寮の鍵、持ってないから」

「…………あぁ。ごめん」

そこで二戸は我に返ったようで、頭を掻きながら片手で謝る仕草をした。


無事に鍵を受け取った俺は、二戸と二人で寮までの道を歩いた。電車では3駅分程度、徒歩でも30分少々で着く場所にある。ちなみに二戸は自転車らしい。俺と一緒に帰るためにわざわざ押している。この学園では、通学以外には使用しないという規則の元、校内の試験をクリアすれば自動車による通学も認められているそうだ。なお車内に学園専用のナンバープレートを載せること、規定位置にステッカーを貼ることも義務付けられているらしいので外に出たらバレるとかなんとか。

「で、綜だったっけ、下の名前。良ければそっちで呼ばせてほしいんだけど」

「構わん。して……二戸、なんだっけ」

俺は、二戸の苗字しか分からなかったので聞いてみることにした。「にのへ」の苗字は珍しいからすぐ覚えるのだが……

「あ、俺。二戸隆太だ。よろしくな」

「おう」

お互いに名前だけの軽い自己紹介を終え、俺と隆太は暫く黙って歩く。すると、突然隆太が止まった。

「ここの路地からちょっと近道できたりする。道に迷わない自信があるなら通ってみたら?」

「辞めておくよ、俺方向音痴だし」

「あっそ。あとはこの辺なんだけど和菓子屋があってね。それなんだけど」

隆太は、ふらふらと店の中に入っていくと、1分も経たずに大福を二つ持って出てきた。

「はい、綜の分」

「えぇ……」

なぜか餌付けをされた。困惑しつつも、食べてみる。

「あ、美味いこれ」

「だろ?俺もここは通い詰めてるんだよね。一番リーズナブルで美味しいのがこの大福。他も美味しいんだけど」

委員長、という割にはどこか抜けていたり、買い食いを平気でする不真面目さもあり、俺は少しだけ安心できた。その後、俺は隆太から学園での生活について聞きながら寮への道を歩いた。


入り口でカードキーをかざして玄関を解錠し、階段を使用して俺たちは部屋へ向かう。5階建てのうちの5階の一番奥らしい。それにしてはドアが少ないな、などと思っているが、恐らく部屋の一つ一つが大きいのだろう。

「ここには1号室から18号室まで部屋番号が振ってあってね。3号室は2階フロア全部とかいう仕様で笑っちゃったけど」

「へぇ。全然分かんねえや」

「俺たちは18号室ってわけだ。ただいまー」

隆太がドアを開けると、部屋の中にはすでに数名の人がいた。

「あ、おかえりー」

そして、悉く見覚えがある。あの居眠りをしていた2番目の彼が居ないことを除けば、全員廊下側の席に座っていた「絡まれていない人たち」だ。

寮の間取りは単純なもので、部屋の壁際には2段ベッドが縦並びに2台。さらに奥にも同じレイアウトで壁に沿って2台。部屋の真ん中には机が用意され、集まって勉強をしたり、食事を摂ったりするのに充分なスペースがある。部屋の奥の壁際にはキッチンがあり、その向こうにはユニットバス。因みに部屋には窓もちゃんとついているが、ベッドのせいであまりしっかり機能できていないのが実情だろう。ベッドの備え付けカーテンを使用したらその窓があるところの住人以外がその恩恵を享受できない。

「今まで荷物置きみたいにしてたからちょっと散らかってるけど、そのベッドの下の段を使っていいよ」

隆太が言った。とりあえず荷物を置き、畳まれているベッドに腰を下ろす。今日だけでだいぶ疲れた気がする。

「とりあえずルームメイトは紹介しておくね。ま、みんなうちのクラスの廊下側1列なんだけど……」

隆太が、俺のベッドの縁に腰掛けながら言う。俺は、足を投げ出しながら部屋の中を見た。

「まず、そこで料理してる白いのが栗林愛奈。大人しい子だね。割と陰に隠れてるけどしっかり者。次に、今テーブルで本を読んでる紫のが有坂侑。愛奈にいつもべったりくっついてる。あの見た目故にいろんな人に狙われてるらしいんだけど、本人は悉くフッちゃうんだって。次、今向こうのベッドの下の段でPCにかじりついてる青いのが木瀬ののか。見た目にたがわずって言うか、本当に対人関係を築くのは苦手みたいだ。少し気を遣ってあげて欲しい。あと、侑の向かい側でカップ麺食ってる赤いのが多田羅道史郎。ヤンチャだけど芯はしっかりしてるいい奴だよ。で、今ここには居ないけど根尾晋一ってのもいる。いつも居眠りしてやがる奴だ。夜な夜な出歩いてるらしいが、何してるんだろうな……」

そこまで言い終わった隆太は、一息ついて俺にこう言った。

「ま、ここの面々ならすぐ仲良くなれると思うよ。よろしくな、綜」

「お、おう……」

結局、今日はほとんど話すことはなかった。明日から、俺はどうやって馴染んでいこう?そう考えるだけで、まだ俺は精いっぱいだったのだから。

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