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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変 番外編 道化遊戯  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想
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道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 前藤正一 その1

 桂華ホテル九段下大ホール。

 そこでは、ホテル宿泊者及び利用者に向けての無料立食パーティーが開かれていた。

 名目こそ『新メニュー試食会』となっているが、今日このホテルも入っている九段下桂華タワーは厳重なセキュリティー下にあり、限られた人間しか入れない特別な場所になっていた。

 そんな状況下で、身内の式とはいえ結婚式を行う客が居れば少しは話題にあがる……という事もなく、各界の著名人たちが極上の料理には目もくれず、他愛ない話に花を咲かせていた。


「やぁ。監察官。

 樺太から美人を連れてただ飯を食べに来たか?」


「飛行機代の方が高いですよ。管理官。

 ついでに言うと、隣の女性は秘書です」


 前藤正一樺太道警主席監察官と小野健一警視庁刑事部管理官は、前藤の方がキャリアで小野が現場の刑事という組み合わせで前藤の研修についてからの縁である。

 互いに年を経て偉くなっても友情は変わらないが、そんな男の友情を白い目で秘書と呼ばれた女性が見ていた。


「積もる話もあるから河岸を変えるか」

「じゃあ、私の部屋で」


 小野の言葉に前藤が頷いて三人はそのまま会場を出て、別階の前藤の泊っている部屋に。

 シングルだったので、秘書とは少なくともそういう関係ではないらしい。ここでは。


「今、ろくでもない事を考えています?」


「まあな。

 犯罪の陰には金と女だ。美人さん」


「ハンナ。蒼水ハンナ警部です。

 外に出ていますので、何かあるようでしたら連絡を。では」


 ジト目と実に白々しい自己紹介と敬礼を放って、蒼水ハンナ警部は部屋を出てゆき、豪華な部屋に中年男二人が残される。

 ドアが閉じる音と共に、二人は仕事の顔になる。


「この部屋は掃除済みです」

「掃除済みって、桂華にも聞かせたくない話ってか?」

「桂華はともかく、あそこに聞かれるってのは米露の人たちにも聞かれますからね」


 公安のキャリアともなると用心深いというか、だったら弱点でしかない女性の秘書も何か理由があるのだろうと小野は顔をしかめるが、そんなのを気にする事無く前藤が口を開いた。


「小野さん。

 貴方が密かに追っていた男ですが、樺太で身分を買っていましてね」

「この式場に居る探偵にすら話していなかったんだがな。その話」

「職業柄、その手の話は集まりますので」


 そんなやり取りをはさみつつ、小野が窓を眺めながら確認として事件のあらましを語る。

 もちろん、前藤も知ってはいるだろうが、大事な話だからこそこの手の確認はおろそかにしない。


「さてと……知っているだろうあんたを相手にどこから話すかね……

 大本の事件は、2001年の新宿ジオフロントテロ未遂事件だろうな。

 実行犯のテロリストどもは捕まえたが、問題はそのテロリストどもに武器を提供しようとしていた馬鹿の話だ。

 その馬鹿は、関東でも大手のヤクザの幹部で、捜査の手が及ぶにつれて樺太に逃亡。

 豊原地下都市の裏路地で何かのトラブルに巻き込まれて死亡……という事になっている」


 なお、小野自身はその事件の時は目の前の九段下の交番の署長として椅子に座っており、捜査に絡んでいない。

 ある種の迷宮入りの事件が小野の目を引く事になったのは、ノンキャリアの彼が大出世をするきっかけとなったある事件のおかげである。


「木更津方舟偽札事件。世間ではそう呼ばれるあの事件で、偽札の捜査に隠れてヤクザが握っていた東側製の武器流通システムに捜査のメスが入った。

 覚えているかい?

 90年代後半、新興宗教団体のテロに大手ヤクザ組織の内部抗争。

 その背後にあったのが、この東側製の武器流通システムだ。

 それは、樺太から流れて来る流民に混じって勢力を拡大させようとしたロシアンマフィアとの協調と対立を意味していた」


 ベルリンの壁崩壊によって経済が崩壊した東側にとって、バブルに踊っていたこの国は理想郷だった。

 最初は豊原、次は札幌、そのまま北海道内に浸透したマフィアはその過程で国内ヤクザと衝突。

 国内ヤクザを時には叩き、時には協力しつつ東京にまで広がった彼らを警察が放置する訳もなく、暴力団新法で網にかけようとしたがそれで止まる訳もなくある一定の勢力を未だ維持していた。


「で、だ。

 その死んだはずの人間が何故か幽霊にもならずに闊歩している訳だな。

 あの同時多発テロから始まった反社会勢力の弾圧は既存の勢力に対して打撃を与えたが、新興勢力の浸透という隙を生んだ」


「もったいぶりなさんな。前藤さん。

 で、何処だ?」


「香港」


 小野健一はそれで察した。

 香港マフィア。

 98年の香港返還に伴って彼らは逃げ場を求め、その逃げ場の一つにこの国を選んだ。

 国内ヤクザ、ロシアンマフィア、香港マフィアに警察である。

 自分たちもその警察に属しているとはいえ、ろくな配役が居ない事に二人してため息をつく。


「東南アジアの麻薬を売り、東側諸国から武器を買い入れ、それに伴う資金はマネーロンダリングされる。

 見事なもんだ。そのマネーロンダリングシステムが機能不全を起こしていなければだが」


「現在機能不全を起こしているシステムの中で、眠っている現金の総額はおよそ20億ドルはくだらないとか」


「数千億円の仕掛けだ。掻っ攫うには荒事もするだろうよ。

 で、だ。そろそろ本題に入ろうじゃないか。

 その死人。生きている際に派手な暮らしをして女を囲っていた。

 それが理由か?」


 小野健一の目が厳しくなり、前藤正一の顔に嘲笑が浮かぶ。

 そういう義理人情を押し流して仕事をするのが公安というものである。


「ええ。

 愛夜ソフィア。

 今日の結婚式の花嫁の名前ですよ。

 彼女に死人が接触する可能性があります」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 管理官と監理官が入り混じってますー
[一言] ありゃぁ、リアル人妻JKさんがここで引っかかってくるのか… でもあの人たちには(ちょっとの危機は潜るが)無事に過ごして欲しいよなぁ
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] おっ、本編にない内容 楽しみです
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