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新宿ジオフロント完成式典 その3

 式典も始まろうかという時間にどこからか神奈水樹がやってきた。

 警備員が神奈水樹に払う敬意と、彼女自身の疲れたというか眠そうな顔に疑問を持ったが、部屋に入ってきて一言。


「桂華院さん。

 休憩所貸してくれない?

 眠たくて……ふぁ……」


 こ、こいつは……怒りたいところをぐっと我慢する。

 既にドレスもセットアップ済。ここで怒って作り上げた美貌を損なうのももったいない。

 式典は12時からなのだが、ショピングエリアは早い所は朝の九時から店を開けていた。

 見ると、検査済の袋の中にはハンバーガーとポテトとコーラのセットが。

 ちょっと心惹かれたのは内緒だ。


「まぁいいけど、何をやっていたのよ?」


「お仕事。

 ほら。新宿ジオフロントにお地蔵さんを置いたでしょう?

 あれの確認を姉弟子様から押し付けられて徹夜なのよ。私」


「うわぁ」


 己の声が怒りと共に漏れた。

 あのお地蔵さんは出口の方を向いている事で、人々を出口に案内するという意味も付与されていたはずだ。

 この新宿大迷宮……じゃなかった。新宿ジオフロントの主要出口に置かれたお地蔵様だけでも十数体のはず。

 それの確認を一人でというのはそりゃきついだろう。


「しょうがないわね。

 このフロア丸々借り切っているから、適当に部屋を使いなさいな。

 しちゃだめだからね」


「朝までしていましたから今は十分ですー

 おやすみなさい。ふぁ……」


 パシャッ!

 そういえば当たり前のように写真家の石川先生が居るな。

 美女は眠そうな顔でも絵になるとばかりに一言。


「そういう自然な顔もいいわね。

 二人で写真集でも出してみない?」


「それ、最後は脱がされるんでしょう?

 石川先生の事、聞いていますからね」


 引き止められたのであっかんべーと舌を出して神奈水樹が笑う。

 自然と神奈水樹と石川先生の会話に聞き入ることに。


「あら?誰に聞いたのかしら?

 私、業界ではそこそこ有名だから」


「先生は覚えていないかもしれないけど、愛夜ソフィアさんという人からです。

 元女優でパッケージ写真を撮ってもらったとか」


「ああ。あの娘か。たしか数年前だったような気が。

 カメラ写りのいい女だったわね。

 ヤクザに囲われたのは知っているけど」


 ん?その名前どこかで聞いた事が……あ!

 神奈水樹が高等部入学を斡旋した人の名前じゃないか!?

 元女優、パッケージ写真、ヤクザ……あっ……

 勘付いた私は黙ることを選んだ。


「それも足を洗って、今は鶯谷のネットカフェの店長だそうですよ。

 今度結婚するんです」


「それはそれは。

 花嫁衣装でも撮りに行こうかしら?」


 おい。

 この国のアダルトビデオ女優は18歳以上である。

 その撮影から数年という事は確実に二十歳を超えている訳で。

 そんな二十歳超えの美人で新婚が高等部の制服を着て授業にというのは何の罰ゲームなんだか。


「さてと、お邪魔しちゃ悪いわね。

 私は休ませてもらうわ」


 そう言って神奈水樹が部屋を出たので、私もお手洗いと称して神奈水樹をトイレに。

 こいつは何の意味もなしに私に会いに来るほどお気楽な人間ではない。


「で、何かあった?」


 私のドスの利いた声にも神奈水樹はヘラヘラ笑いながらかわす。


「『何もなかった』。そういう事になっているわ」


 その一言は何かあったと言っているようなものだが、神奈水樹はゆっくりと呪文のように繰り返す。


「『何もなかった』。そういう事になっているわ」


 それに気づかないほど私も馬鹿ではない。

 黙り込む私を尻目に神奈水樹は他人事のように続きを口にした。


「これも呪いみたいなものでね。

 知ればいやでも対処しないといけない。

 そして、最後は誰もを助けようとして、堕ちてしまうんでしょうね」


 その言葉にはっとする私。

 たしかに、知ってしまえば動いてしまう。助けてしまう。それができる力もある。

 その果てに待っているのは何だ?


「知らない事も大事よ。

 そして、知らないふりをするのはもっと大事。

 特に男女関係はね」


「それができずに多くのカップルが破綻するんでしょう?」


「分かっているじゃない。桂華院さん。

 桂華院さんという主役を光らせるために、脇役が舞台の端で何かやっていた。

 それを主役が意識したら劇は失敗しちゃうでしょ?

 あくまで桂華院さんは、観客の方に向かって歌わないと」


 きっとこれを言うために彼女はやって来たのだろう。

 それは私にも理解できた。


「わかった。

 主役は主役のお仕事をします。

 神奈さん。『何もなかったのよね?』」


 私は神奈水樹の口調を真似て念を押す。

 三度目なのに神奈水樹の口調はまったく変わらなかった。


「『何もなかった』。そういう事になっているわ」


 これ、きっと橘やエヴァに話を振っても同じ台詞を返されるガチでやばい話なのだろう。

 ならばと私は今の私ができる事を口にしてみる。


「せめてお礼を言うこともだめなのかしら?」


「『何もなかった』のにお礼を言うなんておかしいでしょう?

 心配しないの。

 そういう事は他の人がちゃんとするわよ。

 その人達の仕事までとるつもり?」


 巫女のような笑顔を作って神奈水樹は手をひらひらさせる。

 言うことは終わったとばかりに彼女はトイレから出ていった。

AV女優の条件。

 AV女優としてデビューできる最年少は、18歳でなおかつ高校在学中ではないことらしい。

 検索かけたら出てきたので紹介。


AV女優は18歳からでもデビューできる? https://www.atmgallery.com/post-22534/



最後は誰もを助けようとして、堕ちてしまう

 『少女革命ウテナ』の鳳暁生。

 作者は御影草時が最推しなのだが、最近この人もいいなと思ったり。

 多分このお嬢様の成れの果ての一つがこの人だからだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高校生は駄目。ならば高専だ。 で、AV高専とも呼ばれた木更津工業高等専門学校。
2022/04/24 10:14 通りすがりの読み専
[一言] しかし、闇にふたをして隠しても、いずれは隠すふたが見つからない程の絶望がこの先に待っている。それをみんな知っています。
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