表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/65

道化遊戯 正義の傀儡のバラッド 三田守 その2

 新宿ジオフロントの地下駐車場の待合スペースに三田守はワゴン車を止める。

 ここで近藤俊作とゲオルギー・リジコフと待ち合わせるのだが、新宿ジオフロントの完成式典のテロ警戒の為か、止めているワゴン車に私服警官がやって来る。

 警察手帳を見せながら、三田守に職務質問する。


「こんばんは。免許証を見せてもらってもいいかな?」


「あ。ご苦労様です。

 これ、免許証に探偵協会の登録証。

 こっちには探偵本人との待ち合わせで本人はもう少ししたら来るはずです」


 探偵の仕事で張り込む際にこの職務質問によく合うのだ。

 近藤俊作のアルバイトとしても登録されている三田守は、こういう時には愛想がよく、警官との衝突を回避するのが上手かった。


「いいよ。

 こっちもこの時間は待つ余裕がなくてね。

 まったく……駐車禁止区画には止めないでくれよ。

 じゃあ」


 ラッシュ時の車の流れはどうしても悪くなる。

 こうやって職務質問をかけながら違法駐車をさせないようにしているのだろう。

 どこかで聞いた声のように思ったが、三田守にはそれがどこで聞いたか分からないし、待っている間にその警官の事も忘れてしまう。

 近藤俊作とゲオルギーリジコフの二人が来たのはそれから間もなくのことだった。


「待たせたな」

「それほどでもないですよ。運転お任せします」


 近藤俊作に運転席を譲って三田守は助手席に座る。

 ゲオルギー・リジコフは後部席に座り、ワゴン車は地下駐車場を出る。

 新宿周辺はいつものように混んでいた。


「船っていうが、遡上できるのか?」


「ああ。隅田川から神田川と日本橋川はボートで遡上できるんだ。

 都内でテロ活動をする際に地下鉄や下水道を移動経路にするのは昔から考えられていたが、湾岸にある北日本側の拠点や武器庫から人員や武器の搬入路として考えていたのが隅田川や荒川を利用した河川だ」


「けど、湾岸は広いですよ。

 三人で探せるんですか?」


「桂華金融ホールディングス上場式典時に、佃公園やあかつき公園でデモ隊と機動隊が衝突しただろう?

 奴らの移動手段が船だ。

 つまり、そういう反政府勢力があのあたりに居るんだよ」


 ゲオルギーの言葉からしばらくして、無線から愛夜ソフィアの声が聞こえる。

 彼女のネットカフェからゲオルギーの言ったそれを調べていたのだろう。


「聞こえる?

 ゲオルギーが頼んできた隅田川界隈のボート所有者については、警察だけでなく北樺警備保障から委託された探偵も調べているわ。

 で、幽霊船主の存在が問題になっているの」


「幽霊船主?」


 三田守のおうむ返しの声に残りの二人は返事をしなかった。

 持ち主が分からない船なんてものは、悪い事に使うのに格好だからだ。

 そんなワゴン車の空気を知らない愛夜ソフィアの声が無線から響く。


「で、面白いんだけど、隅田川界隈の船舶の動向については桂華グループはかなり前から調べているの。

 まるで、船を使うのを想定していたみたいにね。

 隅田川の幽霊船舶を使えば桂華側が分からないわけがないわ」


「という事は荒川側の幽霊船舶か」


 それでも幽霊船舶はかなりの数になるだろうが、船は使わない間は船着き場に係留されている。

 つまり、湾岸地区の荒川周辺の船着き場をローラーするだけでも、馬鹿を捕まえる事ができるかもしれないのだ。


「ソフィア。

 その情報をおやっさんの所にFAXで送ってやってくれ。

 俺たちもおやっさんの所に行く」


 近藤俊作が無線でそう指示を出してワゴン車を麴町警察署に向かわせる。

 助手席の三田守がぽつりと漏らしたのを彼は聞き逃さなかった。


「……けど、本当に襲うのかな?その馬鹿?」


「おい。坊主。

 何か気になるのか?」


 近藤俊作の確認に三田守は首をかしげて確信がないと前置きして口を開いた。

 既に夜の帳が東京を包み、行き交う車がを明かりを灯して走っている。


「ほら。俺は平成天誅の時に拾ってもらったじゃないですか。

 馬鹿って平成天誅もそうだけど、本気で突っ込める馬鹿って少ないし、九段下の騒ぎに突っ込まなかったっておかしくないですか?

 船も桂華は網を張っていたんですよ」


「だから、馬鹿を操る振付師が居たんだろう」


「坊主。

 尋ねるが、お前が馬鹿だったら、どうしていた?」


 近藤俊作の声を遮るようなゲオルギー・リジコフの声に、三田守は自分がその馬鹿という仮定に自信をもって答えた。

 

「俺みたいな人間にとって勢いって続かないんですよ。

 時間が経てば我に返るんです。

 俺の時は北都千春さんに助けてもらいましたが、そうじゃなきゃ多分同じように路頭に迷っていたと思いますよ。

 盗んだ武器を持ったまま」


「「!?」」


 その意味に気づかない二人ではなかった。

 振付師が優秀ならばこの馬鹿を先導して突っ込ませるよりも、この馬鹿に武器強奪を押し付けて武器を受け取る事ができるという事に。

 使うのはもちろん新宿ジオフロント完成式典。


「坊主。

 振付師に武器を渡したら、お前だったらどう動く?」


 ゲオルギーの声が厳しい。

 このバカ騒ぎはすべてが遅かったと確信した声は低く重たいのに三田守は気づかない。


「決まっているじゃないですか。

 押し付けられるならば押し付けて、故郷に帰りますよ。

 帰りの汽車賃をその人が出してくれるならばですが」


「ソフィア!

 急いで小野副署長に電話しろ!

 『馬鹿が故郷に逃げ帰った』と伝えて、飛行機と新幹線を調べるように言うんだ!!」


「この時間ならば、まだ飛行機も新幹線も最終が出ていない。

 捕まえられるならいいんだが……」


 結局、麴町警察署に着いた彼らは待ちぼうけを食らってその日の仕事を終えた。

 馬鹿どもの捜索は羽田空港・成田空港、東北・上越新幹線全駅に緊急手配をかけた結果、大量の偽札所有で新潟駅で新潟県警が捕まえたのだが、彼らはこの偽札を本物と思っており『持ち出した武器を売った』と供述する。

 そして、振付師との取引はプリペイドPHSとコインロッカーを使って行われて姿を見なかったらしく、捜査陣はその姿をとらえる事ができていなかった。

警察手帳

 2002年で規格が変わっているが、知らない人間からするとドラマなんかで散々見せられたあの黒手帳を偽物と思わない。

 つまり……


プリペイド式PHS

 不正利用が問題となってサービスが終了に追い込まれる。

 2004年時はまだ使えている。




作業BGMで察した人が要るかもしれないが『幻の爆撃』のオマージュである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ