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道化遊戯 正義の傀儡のバラッド 道暗寺晴道 その3

作業BGM『機動警察パトレイバーMOVIE2』の幻の爆撃のあれ。

 警視庁会議室。

 麹町警察署副署長である小野健一警視からの急報に警視庁の動きは鈍かった。

 彼が現場畑の人間でキャリア組からハブられている事、桂華グループの『お嬢様係』として桂華グループに近かった事、何よりも武器密輸の華僑という出所がその情報の信憑性を怪しくしていた事があげられる。

 一方で、急報を受けた桂華グループの私設軍隊である北樺警備保障は過剰なまでに反応した。

 彼らの本丸である九段下桂華タワーが狙われるのだから当然なのだが、それが本庁からの指示が来る前に始まった事も警視庁会議室のお偉方には気に食わなかった。

 警察が主であり、警備会社が従であるのに、これでは警備会社が主に見えかねない。


「何をやっている!

 北樺警備保障の過剰警備をやめさせろ!!

 九段下交番と麹町警察署はちゃんと監督できているのか!?」


「そもそも、この情報にどれほどの信憑性があるのか怪しすぎる」


「何も出てこなくて過剰警備の絵をマスコミに撮られてみろ!

 我々すら叩かれかねんのだぞ!!」


 そんな会議室の声は現場からは遠く遅かった。

 オペレーターの悲鳴と周辺のカメラに映る光景に警視庁会議室の面々は絶句する。


「何だこれは……?」


 靖国通り目白通り内堀通り周辺にあふれる仮面の人。人。人。

 歩道にそんな人達が溢れ、車道も渋滞が始まっていた。


「原因がわかりました!

 ネットの掲示板に『九段下周辺に一億円をばらまいた。欲しかったら探しに来い。仮面をつけて探すのがヒントだと書かれて』……」


「実際にあの周辺で合計で十万円ほどの拾得物の報告が!」


「騒動にフラッシュモブが便乗のコメントを残して……」


「マスコミがこの騒動に気づいて取材班を……」 

 

「大急ぎで九段下周辺に警戒線を張れ!

 機動隊を出動させてなんとか処理させろ!!」


「夕方のラッシュが始まっています!

 出動しても渋滞がこれだと……」


 そんなやり取りからすっと道暗寺晴道警視は会議室から姿を消す。

 彼も会議室の住人の中では脇役だからというのもあるが、会議室で見世物を楽しむよりも現場の声を聞くことにしたのである。

 つまり、小野副署長に電話をかけたのだ。

 自分のオフィスから電話をかけてコールが四回でつながった。


「もしもし。今どちらに?」


「麹町警察署の近く。やっと階段を上がってきた所だ」


 近藤俊作がゲオルギー・リジコフを捕まえる為に新宿に向かったので、途中の渋谷で別れた彼は地下鉄半蔵門線で麹町警察署に帰ってきたという訳らしい。


「状況、掴んでいます?」


「ああ。車内でも話題になっていたよ。

 仮面をつけたバカもちらほら見えた」


 こんな混乱一歩手前の状況で馬鹿が発砲なんてしようものならば、あっという間にニュースになって色々なものがぶっ飛ぶ。

 それだけは避けなければならなかった。


「貴方が掴んだ話だと、馬鹿の暴走という話ですが?」


「俺も思っていた。

 これ、馬鹿に振付師が居るな?」


 二人の意見が一致する。

 馬鹿がただ突っ込むだけならば、ある意味わかりやすかった。

 だが、この状況の混乱は明らかに馬鹿には作り出せない。

 暴発した馬鹿は誰かに踊らされて、今はこれをチャンスと見るのか、困惑しているかのどちらかだろう。


「九段下交番の夏目警部には『全責任は俺が取るから好きなようにやれ』と檄を飛ばした所だ。

 とはいえ、どうやって収めるか頭がいたいよ……」


 電話越しの小野警視の吐く息が荒い。

 なお、半蔵門駅はかなり深い場所に作られている。


「邪悪な手が一つありますが。聞きます?」


「会議室では受け入れない手だろうな。聞こう」


 テレビではこのお祭り騒ぎが夕方のニュースとして話題になりつつあった。

 本格的に報道されて夜のニュースに馬鹿が突っ込むのが一番最悪の絵面になる。


「桂華にアドバイスしてあげてください。

 一億円を用意して見つけさせろと」


「!?

 ……なるほどな。その手があったか……」


 振付師は九段下周辺の混乱が目的なので、本当に一億円をばらまいているとは思えない。

 だったら、その一億円を用意して、見つけさせてしまえばいい。

 

「分かった。

 桂華の方に連絡を取る」


「それと、本命はここからです」


 道暗寺警視の声に小野副署長はつばを飲み込む。

 あくまで野次馬の排除であって、本命である馬鹿の行方はまだ分かっていないのだ。


「人間を狙うのではなく、建物を狙っている。

 ヤクザの報復としてはわかりやすく、馬鹿どもも逃げやすい」


「ちょっとまってくれ。

 おい!桂華院瑠奈公爵令嬢は無事か!?」


 麹町警察署に戻ったらしく、小野副署長が部下に確認を取る。

 ありがたいことに、彼女は無事だった。


「はい!まだ学校にいたらしく、事情を説明して別邸の方に避難しているそうです!!」


「聞いたか?

 嬢ちゃんは無事らしい」


「ならば、建物へのテロですね。

 防ぐのは」


 小野副署長はそこまで話して、聞いていなかった事を思い出して道暗寺警視に聞き出す。

 馬鹿どもの持ち出した武器についてだ。


「そういえば、馬鹿どもが持ち出した武器は何なんだ?」


「銃や手榴弾だったらまだましだったんですがね。

 都市テロ用に奴らマンホールの裏にしかけるものを用意し、それを持ち出したそうです」


 道暗寺警視は少し間をおいて、その武器の名前を告げた。


「対戦車地雷ですよ」

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