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道化遊戯 正義の傀儡のバラッド 近藤俊作 その2

「運転手さん。横浜にやってくれ」


「高速使います?」


「ああ」


 そんなやり取りをはさみ、近藤俊作は自分のタクシーを麴町警察署から走らせる。

 小野健一副署長の顔はいつも以上に険しい。

 必然的に話題は木更津方舟のガサ入れになる。

 首都高に入りしばらくしてから近藤俊作は意を決して口を開いた。


「空振りましたね。ガサ入れ」

「まぁ分かっていた事さ」


 苦々しい顔で小野副署長は煙草に火をつけ、窓を少し開けた。

 それをバックミラーで確認しながら近藤俊作はさらに踏み込む。


「どのあたりで気づきました?

 警察内部の内通者の事?」


「驚くなよ。運転手さん。

 上になってからだ。

 帝都警残党の捜査で色々止められていたから、華族に情報が洩れて何度か煮え湯を飲んだことがあってね」


 そんな前から穴が開いていたのかと近藤俊作は驚きを隠せない。

 そして、それでも小野副署長は止まらなかった事から、彼の執念を思い知る。


「あのガサ入れ、新聞の片隅に出ただけで、テレビにも流れなかったろ?

 かなり上が漏らしたそうだ」


「また何処がです?

 かなり上って……」


 小野副署長も警察内部ではかなり上に属する人間である。

 そんな人間から『かなり上』と言う以上、組織のトップもしくは組織のさらに上からの漏れ……いや、マスコミのこの反応から考えると……


「言うなよ。

 口に出すとろくでもない事になる。

 せっかく新婚の嫁さんまでもらっているんだ」


 そんな事をいいつつ、小野副署長は窓の都心の風景に視線を逃した。

 あくまで独り言の体で、真相をぼやく。


「今の政権は新宿ジオフロントのテロ阻止で動いているが、方舟を始めとした二級市民対策も手が抜けん状況になっている。

 その二級市民救済の中心である方舟が武器密輸の拠点だったたなんて騒がれてみろ。

 政権が飛びかねない上に、大規模な二級市民差別が発生しかねん」


「またお優しい事で」


「と、思うだろう?

 偉くなんてなるもんじゃねーな。

 上で椅子にふんぞり返っている奴に同情したくなる。

 方舟に武器がある事がまずいだけであって、慌てて持ち出した武器についてはしっかり把握済み。

 今頃、マスコミを引き連れての大捕物の絵が撮られて、夕方の茶の間に映るって寸法さ」


「うわぁ……」


 バックミラーに映る近藤俊作の顔が、それを道暗寺晴道から聞かされた自分の顔にそっくりだと思ったが口には出すつもりはない。

 なお、この仕掛けは本気で悪辣で、司法取引で前々からヤクザに情報を流していた樺太華族がヤクザを売った事で手打ちを済ませているらしい。

 それもヤクザに漏れるようになっており、ヤクザと樺太華族の仲間割れまで誘うというろくでもなさに小野副署長は頭を軽く振って忘れる事にした。


「で、お客さん。

 横浜のどちらに?」


「中華街の方に。

 うまい鶏を食わせてくれる店だそうだ。

 よかったらついてきな。おごってやる」


「それはどうも。

 仕事中で酒が飲めないのが残念ですな」


 なお、その店を教えてくれたのは桂華グループの岡崎祐一という。

 武器密輸事件の大手バイヤーの一つである華僑の大物に会いに行くのがこの遠出の理由である。


「いらっしゃいませ。

 ご予約されていた小野様ですね。

 どうぞこちらへ」


「ん?

 あんた、嬢ちゃんの傍に居なかったか?」


「ここ、私の実家なんですよ」


 そんなやり取りの後、奥の席に二人は通される。

 品の良い老人が先に座っており、二人が席につくと名物の鶏料理がテーブルに並ぶ。


「わざわざ来てくださって感謝を。

 この手の話は信頼できる人にしかできないもので」


「俺、席を外しましょうか?」


「安心しろ。うまい食事の時に、飯がまずくなるような話はしないよ」


 そんなやり取りに老人は苦笑する。

 料理を口にしながら小野副署長に向けて、紹介者の話を振る。


「岡崎さんが紹介するだけの人だ。

 その通りで、おいしい食事においしくない話をするのは料理に対する冒とくです」


(岡崎……岡崎祐一ムーンライトファンド統括か!?

 これ、本気でやばい話なんだろうなぁ……)


 食事はとりとめもなく進み、代金もごく普通の料理店の価格だった。

 ただ、違うとすれば……


「はい。お土産。

 鶏の唐揚げです!

 熱いうちに食べてね♪」


 二人とも頼んだ訳でもないそれを小野副署長が受け取ってタクシーで帰る。

 高速に乗ったあたりで、ほかほかの包み紙を取った小野副署長の顔色が変わる。


「おい!運転手!!

 急いで戻ってくれ!!」


 その包み紙の内側に何か書かれていたのだろう。

 小野副署長の顔色が明らかに悪くなる。

 近藤俊作はアクセルを踏んで高速を飛ばす。


「あと、お前の知り合いに元装甲兵が居たろ?

 あれを捕まえておけ!!」


 飛ばしながらも近藤俊作はため息をついた。

 これは関わらないといけないとあきらめて、近藤俊作は小野副署長に尋ねる。


「何が起こったんです?」


「馬鹿が暴発しやがった!

 売った樺太華族への報復に、馬鹿が運ばれた武器を持ち逃げして姿をくらませたらしい。

 本当に馬鹿はこれだから困る!!」


 世の中とはそういうものである。

 社会は天才の天才たる所も、馬鹿の馬鹿たる所も理解できない。


「その馬鹿は樺太華族のボスを桂華院公爵家と勘違いしてやがって、九段下桂華タワーにカチコミに行くと最後に会った奴が聞いていたらしい」

ヤクザのお話

 その昔、『いれずみ大臣』って人がいてね。

 その人衆議院副議長まで行くんだが……本当にこの話題デリケートなのだ。

 なお、その人のwikiに書かれた言葉を書き出しておこう。


『この時代の政界には、「暴をもって暴を制す」理論が公然とまかり通っていたわけで、まさに政治家たるものは「腕前がなければならぬ」のであった。』



馬鹿のロジック

 樺太華族が裏切って俺たち売りやがった >> 親分が報復命令出すからその前に殺っちまおーぜ >> で、誰を殺ればいいんだ? >> 樺太華族だからロシア人だろ? >> ああ。桂華院公爵か!桂華院瑠奈テレビで見たけど金髪だし >> だったら九段下桂華タワーだな!!!

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