道化遊戯 平成天誅信奉者 三田守 その3
『インパクトの瞬間、ヘッドが回転する』
これのCM見たいんだが、出て来るのは『ご先祖様万々歳』の方なんだよなぁ……
三田守の家は国分寺の方にあった。
なお、一人暮らしで、実家は紀伊山地の山の中にあるという。
「親御さん心配しているだろうに」
「心配するもなにも、田舎を嫌って母ちゃんは俺が生まれてから家を出ていき、父ちゃんは酒と博打に溺れて死んじまった。家にはばあちゃんが一人いるだけで」
近藤俊作が雑談の体をとりながら、三田守の情報を集める。
ばあちゃんの言葉に感情のゆれがあるあたり可愛がられていたのだろう。
大学に通っているという事から、そこそこの家と頭はあるらしいが、なんとなく平成天誅の連中が接触した理由は察することができた。
「じゃあ、家の財産はいずれお前の物か?」
「山ばかりで手放したいぐらいだ。
こっちで一旗揚げてやると勇んで出てきたらこれさ」
ゲオルギー・リジコフの言葉に三田守は吐き捨てるが、彼はゲオルギー・リジコフや愛夜ソフィアが持っていないものを持っている事に気づかない。
樺太出身者の本土引っ越しについては、バブル崩壊時の景気悪化の際に雇用問題とリンクしてあちこちで壮絶な摩擦があったという事を、愛夜ソフィアに至っては身分証明が裏社会から買った非正規なもので、結婚の際にそのあたりが突っ込まれかねないという事を三田守は知らない。
「格好の背乗り候補だな」
「確認に時間がかかるし、バレた時には逃げ出せる」
近藤俊作がぼやき、ゲオルギー・リジコフがそれに同意する。
車は府中のショッピングセンターに止まる。
さすがに装備は脱いでいるが、これから踏み込むのに武器がないのは心細い。
「じゃあ、手分けして買い物をしよう。
俺と坊主はホームセンター。
ゲオルギーはゴルフショップ」
「私はここで情報収集するわ」
ノートパソコンにつけられた通信機器を用いて愛夜ソフィアが情報をチェックするのを放置して、男三人はショッピングセンターに入る。
「あの……何を買うんですか?」
「武器と防具さ。
いるとしたら逆上した平成天誅の連中だ。
襲われた時の為にな」
カー用品コーナーで発煙筒、掃除道具コーナーで大型ポリバケツとモップとガムテープ、防災コーナーで小型消火器、さらにスポーツ用品店で金属バットを購入する。
個々ならば怪しまれるそれらも、こうやってまとめて買うと、用途が分からないだけにだれも気にしない。
「買ってきたぞ。
中古のアイアンに、ゴルフボール」
「じゃあ、戻って防具の作成をするか。
坊主はコンビニに行って、月刊漫画雑誌適当に数冊買ってこい」
「は、はい!」
返事をすると同時に三田守の腹の虫が鳴る。
近藤俊作は苦笑して万札を彼に渡す。
「ついでだ。俺たちの分の食べ物と飲み物も頼む。
好きなのを買ってこい」
「俺もついていこう」
三田守とゲオルギー・リジコフをコンビニに走らせて近藤俊作は軽ワゴンに戻る。
エンジンをかけたままシガーライター用コンセントを利用してノートパソコンに電気を送っていた愛夜ソフィアの顔は渋いままだった。
「ただいま。あまり良くない顔だな?」
「おかえり。
さっき、北樺警備保障が平成天誅の連中に懸賞金をかけたの。
そのリストが送られてきている所」
「それは後で坊主に見せるとしてだ。
浮かない顔の理由は?」
「懸賞金をかけたって事そのものよ。
手が回らないって言っているようなものじゃない」
不機嫌なまま、愛夜ソフィアはノートパソコンの画面を変える。
ポータルサイトのニュース欄に自分の店が出るのは嬉しくない。
「『ラブホテル街に爆発物? 爆発物処理班出動』……大事じゃないか」
「俊作。あそこで降りてくれて本当に感謝している。
あのまま突っ込んだらと思うと……」
「多分爆発はないな。ただいま」
「おかえり、その理由は?」
帰ってきたゲオルギー・リジコフと三田守が袋一杯の漫画雑誌と食べ物と飲み物が入った袋を車の後ろに置く。
漫画雑誌をパラパラと眺めた近藤俊作はポリバケツの蓋をとって、漫画雑誌を蓋の内側に張り付けてガムテープでぐるぐる巻きにする。
「『キャスリング』だっけ?東京証券取引所のテロを行うならば、爆発させて警戒を無駄に高める馬鹿はせんだろうよ。
爆発物探知犬を用いたんだろうが、臭いで反応させて集めて本命は……工作員の常套手段だよ。
そっちは、何をしているんだ?」
「即席の盾だよ。
相手の武器が精々ナイフや金属バットぐらいだから、あるのと無いのでは大違いなんだよ。
それに、相手の一撃を防ぐだけならば、こういう現地調達できるものでなんとかってね」
「ねぇ。
警察から警官に来てもらったり、北樺警備保障から警備員を連れて来るって事はしないの?
味方は多い方がいいんじゃない?」
「それをすると、おまえたちが警察や北樺警備保障と繋がっているという事が完全に相手にバレるぞ。
今でも繋がっているのはバレてるが、どの程度繋がっているかまでは判断がまだつかんだろう。
この時点でも、おやっさんだっけ?その人が連絡一つよこさないのが証拠さ。
降りるんだろう?
だったら、ここだけは自分たちでなんとかしないといけないのさ」
相手からすれば、使い捨ての下っ端なのか、情報を与えれば上が動く餌なのかの判別がついていない。
無駄に連絡をとって、自分たちが使えると相手に教える事もないのだ。
「だったら、わざわざ戦う必要ってないんじゃ……」
三田守の小声のぼやきにゲオルギー・リジコフが反応する。
その笑みは脅しともとれる怖い笑みだった。
「そうだな。その場合、数日後に平成天誅の連中がお前の部屋で死体で転がっているだろうよ。
それでいいならば俺は構わんが」
「それは困る! ……困るよ」
「じゃあ、頑張るんだな。坊主。
平成天誅の奴らには賞金がかけられている。
降りるなら降りるで、もらえるものはもらっておこうじゃないか。
特にそこの二人は結婚するんだろう?」
ゲオルギー・リジコフの発破に三田守が驚きの顔をする。
彼には言ってなかったなと思いつつ、二人が申し訳なさそうな顔をするが三田守は笑顔で祝福した。
「結婚するんですか!
おめでとうございます!!」
照れくさそうな二人にゲオルギー・リジコフは苦笑して手を叩いた。
「という訳だ。
ご祝儀ぐらいはこれで稼ごうじゃないか」