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道化遊戯 平成天誅信奉者 三田守 その1

「はぁ……はぁ……」


「何処に行った!」

「絶対に逃がすな!!」


「はぁ……はぁ……」


「探せ!」

「まだ遠くには行っていない!!」


 何故?

 どうしてこうなったんだろう?


「はぁ……はぁ……」


 俺はただ……


 な に も し て い な い だ け な の に ……!!


「向こうには居ないぞ!」

「じゃあ、こっちの方を探そう!!」


 やばい。

 こっちに来る。

 見つかったら何をされる……最悪殺されるかも……

 いやだ。死にたくない。


「きゃっ!?」


 女とぶつかる。

 その女には見覚えがあった。


「あ、あんた……助けてくれ!

 俺、殺される……」


 女にしがみつく。

 恥も外見もなく、女のシャンプーの匂いや髪が顔に当たっても気にする余裕すらなかった。


「はぁ……しょうがないわね」


 女が手を引っ張って、出てきたラブホテルに戻る。

 後でネットカフェと知ったが、俺にはラブホテルにしか見えなかったのだ。


「あれ?

 千春さん。またお客捕まえたんですか?」


「まぁ、そんな所。

 また部屋を貸してちょうだいな」


 受付の女の子とそんな会話をして、俺達はネットカフェの一室に入る。

 千春と呼ばれた女が冷蔵庫から水を差し出すと、飲み干した後に恨み言が出てしまった。


「あんたのせいだ……

 あんたが、占いで『なにもするな』って言ったから、俺は殺される事になったんだ!」


「あら?

 私は『何かするとろくなことにならない』って言ったのよ?」


「同じじゃないか!」


「うんうん。

 だから、何でそうなったのか聞かせて頂戴な」


 不意に抱きしめられて俺はベッドに押し倒される。

 そうだ。

 この女と寝てから……俺は、俺の正義を信じられなくなって……




「華族や財閥連中の奴ら俺たちの苦しみなんて知らずにおいしい汁を吸いやがって!」

「不良債権処理でも、奴らが助かったのに銀行は俺達からは取り立てやがる!」

「制裁を!俺達弱者の怒りを思い知れ!!」


「「「奴らに天誅を!!!」」」


 俺は社会に不満があったカラーギャングの下っ端だった。

 もっとはっきり言えば、カラーギャングにいじめられていた。

 俺の身を守るために、俺はグループに入ったと言った方が正しい。

 そんな彼らにも正義が与えられた。

 華族の不逮捕特権だ。

 これによる事件のもみ消しは、脱税を始めとして、交通違反から汚職、噂では殺人すらもみ消せるという。

 大衆はその不平等性に怒り、北日本政府併合にかかるコストとバブル崩壊からの経済窮乏にその怒りが爆発した。

 ただの独立愚連隊だった俺達も、華族や財閥の不逮捕特権を相手にする限りは正義の味方でいられたのだ。


「それが変わったのは新世紀に入ったころだったかな。

 法律の改正で、警備員や探偵や賞金稼ぎが積極的にカラーギャング潰しに動き出した。

 俺達もヤクザやマフィアのケツ持ちで対抗しようとしたが、あの同時多発テロで世論は俺達を悪と定義した」


「あら?

 カラーギャングの下っ端にしては、学があるのね?」


「一応親のすねかじって大学に通っていたからな。

 それが、こんな所でこうなっている」 


 一度抱けば男という生き物は落ち着くものだ。

 ベッドの中で女に話を語る程度には落ち着けるようになった。


「で、あなたは何をやったの?」


「精々華族の屋敷の壁に落書きしたり、ごみを投げ込んだりというものさ。

 そんな度胸もないから、いつまでたっても下っ端だった。

 それが変わったのは、今年に入ってからだったと思う」


 煙草を手に取るが、箱ごと投げ捨てた。

 酒も美味いと思えなかった。

 女も抱いた今でもいいとは思えないが、彼女と知り合えたことで、俺は何もしなかったのだ。


「俺の居たカラーギャングにロシアンマフィアがケツ持ちについた。

 それに合わせて、襲撃がエスカレートするようになった。

 叱られるものから、捕まるものにエスカレートするのにそう時間はかからなかったよ」


「で、私と出会った」


「そうだ。

 大きなことをするんだ。

 そう聞かされていた俺は待ち合わせ場所に行く前に、ちょっとした気まぐれであんたに占いを頼んだんだ。

 金が後払いでいやならただでもいいなんてあんたの話に乗ったのがこれだ」


「あら?

 行きたくないと迷った貴方、そのまま私をホテルに連れ込んで、わざと遅刻したんでしょう?」


 本当の所、別に俺は正義なんて信じていなかった。

 ただ、流されて、いやなことから遠ざかろうしていただけだったんだ。


「結局、俺の反抗、いや、奴らにとっては遅刻か。

 その代償は高くついた。

 仕切っていたロシアンマフィアに殴られて暴行を受けて、殺される寸前の所で逃げ出した。

 で、あんたを抱いているって訳だ」


「傷もちゃんと見てもらえる医者を紹介してあげるわ。

 とりあえず、何か食べもの頼んでくるわ」


 バスローブをつけて女が出てゆこうとする。

 俺は手を伸ばして、女に問いかけた。


「なぁ。待ってくれ。

 なんで、あんたは俺を助けたんだ?」


「千春。

 北都千春って名前があるのよ。私には。

 そうね。

 その理由は、あなたが私の名前を呼んで抱いてくれたら教えてあげるわ」




「悪いわね。愛夜ちゃん。巻き込んじゃって」

「いいですよ。私の運命を変えてくれた神奈千春姐さんのお願いなんですから。

 というか、宿泊料返しますって言っているのに……」

「こういう時のお金のやり取りは大事。

 少なくとも、仕事って意識が出るでしょう?

 で、彼を追っていた連中は来た?」

「来ましたよ。

 中まで踏み込みませんでしたけどね。

 今、俊作に連絡をとって、鶯谷駅交番の警官に来てもらうように手配を。

 で、千春姐さん。彼と最初に寝た日は4月4日であっていますよね?」

「ええ。雨の日に傘もささずに、佇んでいて……それがどうかしたの?」


「その日、中山競馬場で競馬があって、桂華院瑠奈公爵令嬢が中山競馬場に来ていたんですよ。

 あの特別仕立ての列車を走らせて。

 これって、偶然って片づけるには、私、世の中を信じていないんですよね……」

という訳で、神奈水樹の姉弟子登場。

北都千春。神奈の仕事の際は神奈千春と名乗る。

神奈水樹が出る前は、彼女が一門の後継者とみられていた。


カラーギャング

 wiki記述だが、チーマーからの転向とかでこの時期ブームになる。

 

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