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道化遊戯 コールランナー 愛夜ソフィア その2

「そういえば、気になっていたんだけど?」


 ソフィアの部屋に連れ込まれた神奈水樹は悪びれもせずにこんな質問をする。

 なお、二人の尋問に素直に答えているが、何が二人を怖い顔にさせているのかわからない。


「何?

 忙しいんだから手短にね」


「名前。

 愛夜って珍しい名字だなぁって」


 そんな会話に近藤俊作は加わらない。

 ベッドに座ったまま、神奈水樹から聞き出した情報を今までのパズルに当てはめるために考え続けていた。


「この名字、自分でつけたのよ。

 私って売られた人間でね。ソフィアって名前しかなかったのよね。

 で、こっちで仕事をする時に名字がないと不便ってわけで、その源氏名」


「ああ。だから『あや』さんな訳だ」


 ぽんと手を叩く神奈水樹に、ソフィアは楽しそうに笑う。

 からかわれたのを理解して神奈水樹がむくれる。


「むー。ソフィアさん意地悪だぁ!」


「あはは。売られたし源氏名ってのは本当。

 ソフィアの名前の方があとからつけられたのよ。

 私、捨て子で名字どころか、名前すらなかったのよ。

 で、ソフィアの名前をくれたのが貴方の姉弟子に当たる人よ。

 『愛夜って「あや」とも読めるわね。「あや・ソフィア」ってどう?』

 後でそれが『聖なる叡智』って意味なんだって知ったわ。

 私はあの人に運命を変えてもらったのよ」


「へー。なんかかっこいいなぁ」


 すぐに機嫌をなおすあたりお子様だなぁと聞いていた近藤は思う。

 ソフィアの場合機嫌を損ねると……


「ねぇ。俊作。良からぬこと考えていない?」

「いいや」


 雉も鳴かずば撃たれまい。

 探偵というか、男女関係の知恵である。

 そんな勘の良さで近藤を脅しながら、ソフィアはキーボードを叩き続ける。


「そういう姉たちを従えて神奈一門の頂点に立つんだから、腰を振るだけじゃなくて、ちゃんとお勉強しなさい!」


「私、これでも成績はいいんですからぁ!」


「羨ましいわね。私、学校行っていないんだから」


「行ったらいいじゃないですか?

 学ぶって遅いも早いもないですよ」


 ぴたりとソフィアの手が止まった。

 それは考えたことがなかったという顔である。


「私、学校行けるのかしら?」


「なんなら、紹介しますよ。

 帝都学習館学園ならコネありますし」


 なお、そのコネは桂華院瑠奈という。

 都合が良い事に、今回の依頼主の一つである桂華グループの実質的支配者である。


「水樹ちゃんと同級生は嫌だなぁ」

「いやそれは無理が……きゃん!」


 神奈水樹の頭にげんこつを落としたのは、聞いていた近藤俊作である。

 雉も鳴かねば撃たれまい。


「いいじゃないか。学校。

 学ぶってのは悪くない」


「私、この戸籍裏社会から買ったものなのよ。

 大丈夫かしら?」


「それも報酬に入れるさ。

 少なくとも、それぐらいもらっていい事件みたいだしな」


 ソフィアの手が止まり、一つのモニターを指差す。

 調べ物は終わったらしい。

 

「樺太道警のデータベースに入ったハッカーから。

 樺太併合時に、第二次2.26事件の亡命者に対して秘密裏に不逮捕特権の行使が申請されているわ」


「それを申請したのは誰だ?」


「樺太華族。旧北日本政府の高官たちよ」


「何かひっかかるんだよなぁ……」


 ぽつりと近藤が呟きソフィアが首をかしげる。

 こういう機微のときは黙る神奈水樹だが、だったらもっと気を使えと二人同時に思ったり。


「何か?」


「第二次2.26事件の残党ならば、下手するともう中年に入ってもおかしくはないんだ。

 で、このお嬢ちゃんが抱かれた帝都警の残党は、この神奈の嬢ちゃんを気絶させる体力があったと」


「どう考えても、青年よね」


「今度は負けないんだからぁ!」


「はいはい。

 もう一つ気になるのは『キャスリング』だ。

 チェスでキングとルークを入れ替える。

 何でキングとルークなんだ?

 クイーンが居るのに?」


 探偵の勘に引っかかった違和感。

 桂華グループの実質的なトップで『小さな女王様』こと桂華院瑠奈は恋住総理や岩沢都知事と共に新宿ジオフロント完成式典に出席する。

 最初は総理や都知事を入れ替えるかと思ったが、桂華院瑠奈が襲われた時点で意味がない。

 ソフィアが頬に指をついて呟く。


「やっぱりミスディレクション?」


「だろうな?

 とはいえ、当たらずとも遠からずでないとこの手のコードネームとしては意味がない。

 何を入れ替える?

 場所か?いや。これだけのイベントだから変更はできない。時間?

 式典前にやったらイベントが中止されかねないし……」


「だったら、クイーンを動かすしかないでしょう?」


 ぽつりと神奈水樹は言い、二人同時にやれやれという顔になる。


「嬢ちゃん。

 そのお嬢様が出てゆくイベントがないから……」


「あるわよ。

 その当人から聞いたもの」


「「え!?」」


 パズルのピースがハマる。

 想定していた絵図面と違う絵図面が見えてくる。

 それを神奈水樹は知らないのに、彼女の言葉が運命を導く。


「たしか、かぶしきじょーじょーだっけ?

 『大金持ちになるんだー』なんて言っていたし」


 それだけでも三流ハッカーにかかれば検索ぐらいはできる。

 経済ニュースが富嶽放送のTOBで賑わっている中、そのニュースは次ぐらいの話題になっていた。


「あった!

 『桂華金融ホールディングス上場。東京証券取引所で一条進CEOや桂華院瑠奈公爵令嬢を招いて式典をする』って!」


「それだ!

 そっちでテロを起こして、新宿ジオフロント記念式典の警戒レベルを上げさせる腹だ!!」


 ハイタッチをする俊作とソフィア。

 備え付けの受話器がなったのはそんな時だった。


「はい……ええ。水樹ちゃんのお相手さんが来たって?」


「いけない!

 六本木で絡まれた所を助けてもらって、コーヒーおごってもらったのよ。

 で体でお返ししようと……おねがい!ソフィアさん。

 部屋貸してよ♪」


「だ・め!」

「けちー!!」


 モニターの一つに入り口のカメラの風景が映る。

 がたいの良いロシア人が映っているが、近藤はその顔に見覚えがあった。


「どこかで見たことがあるんだが……?」


「TVじゃない?取材受けたって言っていたし。

 ゲオルギー・リジコフさん。

 新宿ジオフロントの工事で強化外骨格での警備をしていたって」


 神奈水樹のあっけらかんとした声に俊作とソフィアが顔を見合わせる。

 強化外骨格は帝都警でも使われていた。

 互いに目で語る。

 運命に愛されている人というのは、彼女みたいな人間のことを指すのだろうと。

愛夜ソフィアの年齢は戸籍上は20代後半ぐらい。

 実年齢を考えるといい感じに闇が。


裏社会からの身分購入。

 自殺者の身分を行方不明にしてその人間になりすますケース。

 『背乗り』ともいう。


作者メモ

 神奈一門のキャラ作成を忘れないように。

 愛夜ソフィアの知り合いで、神奈水樹の姉弟子。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神奈の娘達って 能力の根源が異界の何かに喰われながら 力をふるっているイメージがあって 何というか 霊的なバオーを連想するのですな 喰われきったら命が尽きる 水樹も本来は 誰も省みない子…
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