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道化遊戯 タクシー探偵 近藤俊作 その2

さらりと京都の大失態を隠しているCIA

「九段下桂華タワーでしたっけ?

 遠回りして行った方がいいんですかね?」


「ええ。そうしていただけるとありがたいですね。

 で、あの人何を頼んだんです?」


「たいした事は頼まれていませんよ。

 非常時の足や張り込み用の宿として使うぐらいでしょうか。

 警察の車って結構わかりやすいんですよ」


「ちなみに、あの人が抱えている事件については?」


「『新宿ジオフロントで何か起こるから手伝え』と。

 昭和の刑事ってのはそんなものなんですよ。

 で、お姉さんはあの人の味方でいいんですよね?」


「ええ。警戒されているのは分かっているんですけどね。

 中々信じてもらえなくて」


「いったい何をやったんですか?」


「出しゃばって大火傷をやらかしましてね。

 日米共に大火傷の当事者は現場を外れる事になったんです」


「……成田空港テロ未遂事件ですか?」


「あら。お詳しい。

 あれはお嬢様自身が未然に防ぎましたが、本来起こってはいけない大失態です。

 あれの責任をとってこの国の警察内部がおこなった人事が終了するのが今年春なんですよね」


「官僚さんは年次で人数を絞るから、大粛清なんてすると年次が崩れてえらい事になりそうですな。

 たしか、おやっさんの部下だった夏目さんがそれで九段下交番に飛ばされたとか……

 あー。おやっさんが危ない橋を渡るのはそれが理由か。

 けど、それがどうおたくの国と?」


「元々同時多発テロ事件で危機感があまりなかったこの国と違って、我々はお嬢様が狙われる事を確信して動いており、お嬢様を成田空港から逃がそうと動いていたんです。その後の説明要ります?」


「なるほど。

 大粛清は日米同時に行われたと」


「……」


「で、新しく席に座った連中が必然的に仕事より身の安全に走るのは仕方ないですな。

 乗り込んだタクシーが事故にあうようなもので、本人が悪くないのがまた……」


「だから貴重なんですよ。

 ああいう人は」


「で、しがないタクシードライバーに何をお求めで?」


「何も。ただお話を聞いておきたかっただけなので。

 スパイも組織である以上、官僚主義から逃れられないんですよ。

 仕事をしているふりって大事なんですのよ」


「おやっさんを鉄砲玉に使おうって言うんならば、降りてもらいますよ」


「だったら、最初から接触しません。

 この言葉の意味、おわかりでしょう?」


「……あの人、何であんなに面倒ごとに巻き込まれたのかなぁ

 あんたの組織自体が信用できない訳だ」


「うちの組織はまともですよ。ええ。

 映画でよく悪者にされていますけど、それもお仕事です。

 ただ、覇権国家の性と言いましょうか、お役所仕事の縦割りと言いましょうか。

 バッティングが……」


「たしかおたくら樺太銀行マネーロンダリング事件でもさや当て……そういう事か」


「そこから先を言わない貴方の見識と、貴方に接触した小野副署長の見る目の確かさに敬意を」


「そういえば、ハリウッド映画でこんなのを見たな。

 『それはいわゆる、コラテラルダメージというものに過ぎない。軍事目的の為の、致し方ない犠牲だ』だったかな?

 おやっさんが南米に行くことになるようなら俺は降りますよ。

 暑いの嫌いなんでね」


「ご安心を。その場合行くのは豊原ですので。

 厚着をしていくことをお勧めしますわ」


「わざと言っているでしょう。あんた。

 で、何処とかち合っているの?」


「我が国のインテリジェンスコミュニティーの下には複数の情報機関が存在しています。

 その提携不足が9.11の遠因になりました。

 で、今、水面下でそれらをまとめる構想が進められています。

 その組織を束ねる椅子のネームプレートにはこう書かれるでしょう。

 『アメリカ合衆国国家情報長官』と」


「その椅子を巡っておたくらと別の所がさや当てしていると。

 何でテロをこの国で起こそうとしているんですかね?」


「逆なんですよ。彼らの発想は。

 『テロが起きないようにする』ではなくて、『こちらでテロを起こして政治的被害を限定的にする』のが目的なんです」


「攻撃側の強みだね。いつ、どこを攻撃するかを選べる。

 そして、最初のテロが成功すると自動的に警備が跳ね上がるから……」


「本来のテロ組織が行うはずだったテロが頓挫すると」


「うまくいくのかね?それ?」


「私はうまくいかないと思っているので、こうしてタクシーに乗っているのですわ」


「何処の国もお役所仕事って大変だねぇ。

 このあたりの話はおやっさんに言っていいのかい?」


「ええ。探ればバレる話ですし、一応そういう組織の人間として話せる話しかしておりませんわ」


「着いたよ。

 九段下桂華タワー前。

 お代は……この札束は本物かい?」


「依頼料ですわ。探偵さん。

 これで足りなくなるのでしたら、私の所に連絡を。

 予算は戦闘機一機分ぐらい確保してありますので」


「戦闘機一機分ねぇ。

 テロが起きないようにするためだからって、派手に金を使っているなぁ」


「そのテロの最悪のケースだと、数千億ドルのマネーの暴風が市場で吹き荒れますので」


「つまり、それだけ恨まれているという訳だ。

 領収書。いるかい?」


「まさか。期待していますよ。探偵さん」




「アメさんはどうも細かい所が抜けるんだよなぁ。

 桂華銀行の帯封取っておけよ。

 スポンサーが桂華グループってバレるじゃねーか。

 あの人、桂華とCIAの二足の草鞋を履いてがんばっているから、小野のおやっさんみたいな跳ね返りに期待しないといけない訳だ。

 こりゃ、テロの件かなり深く進んでいるが大丈夫かね……」

凄く言葉を選んで話しているエヴァを書いてて楽しい。

新宿テロの目的がお嬢様という所を言っていない。


日本で椅子取りゲームで遊んでいるのに米国が椅子取りゲームをしていない訳がないという話。

『ブラックラグーン』のロベルタ大暴れ回のCIAとNSAの対立をイメージしてもらうと分かりやすい。


官僚さんは年次で人数を絞る

 組織上部の椅子の数に合わせて、その椅子に座る人間の世代の官僚はその椅子の数まで退職したり天下りしたりして人数を調整する。

 その結果、スキャンダルの粛清が発生すると年次が飛ぶので大混乱という官僚組織の悪夢が発生する。

 これを食らって壊滅的打撃を受けたのがノーパンしゃぶしゃぶ事件の大蔵省で、ここから財務省に変わった彼らの復活劇と組織防衛はすげぇとうなりたくなる。

 なお、国民生活にとってはどーでもいいのがポイント。


アメリカ合衆国国家情報長官

 2004年に法律が成立し、2005年に登場するが、この時副長官(現場のトップ)の椅子に座ったのはCIA(中央情報局)ではなくNSA(アメリカ国家安全保障局)長官だった。

 wikiより詳しい論文があったので紹介。


米国におけるテロリズム対策――情報活動改革を中心に―― 宮田 智之

 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000366_po_022804.pdf?contentNo=1


コラテラル・ダメージ

 大百科をぺたり。

https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8

 ニコニコで「はいはいコラテラルコラテラル」と弾幕が張られる事に。


帯封

 銀行などの金融機関で札束を引き出すと銀行のロゴマークや結束担当者の印鑑や日付が入れられて、紙幣の出所を証明する効果がある。

 つまり、札束を桂華銀行から直で引き下ろしたという訳で、それができる事を示している。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「逆なんですよ。彼らの発想は。『テロが起きないようにする』ではなくて、『こちらでテロを起こして政治的被害を限定的にする』のが目的なんです」 伊藤計劃の『虐殺器官』ですかね。G7に将来的に…
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