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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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79話 今のアイルを救えるのは、貴方だけなの

ドライズ視点

「そんな……」

 僕はギリッと奥歯を噛みこんだ。

 孤児院由来の生徒達は皆、洞窟が苦手だ。その理由を、垣間見る。


「ありがとう。私たちの為に悲しんでくれて。憤ってくれて。でもね、もう全部終わった事だから。過去は過去。私たちは、現在いまを見なければいけない」

「リーゼ……」

「鉱山での生活は、地獄そのものだったわ。初めから、使い捨てるつもりだったのね。ろくな食事も与えられず、けれど作業が滞れば鞭が飛ぶ。そんな環境で、一人、また一人と力尽き倒れていった」

 リーゼはふと、僕の目を見据える。


「ドライズ」

「何?」

「これから私が言うことは、きっとすぐには飲み込めないと思うの。だから、前置き」

「えっ、あ。うん判った」

 わざわざ前置きまでするなんて、一体どんな展開が待っているのだろうか。


 決して明るい話で無い事だけは想像できた。

「……少しずつ減っていく仲間達。私たちはある覚悟を決めたの。実は、私たちの中には魔法を使える子が一人だけ居たのよ。誰から教わった訳でも無い、天性の才能を持っていた魔法使いの卵。そして誰よりも仲間思いで、優しかった男の子」

 その子は、盗賊に捕まった時敢えて魔法を使わなかったという。


 誰の教えも受けていない付け焼き刃の魔法で、大人に勝てる見込みがなかったから。ここで無駄に手の内を晒すより、来たるべき日に切るジョーカーとして、胸に秘めておくと。今際の際にあった院長先生に諭されたらしい。


 そして、鉱山奴隷として働きながら。怒りと悲しみで心を燃やし、密かに魔法の技術を高めていった。一人でも多くの大人に復讐する為に。あわよくばこの力で仲間達を助け出す為に。


「……〝家族〟だったから。私達みんな、あの子が考えていた事を判っていたわ。でも、どんなに頑張ったって初歩も知らない独学の魔法で大人に叶う訳がない。それも判っていたから」

 リーゼは視線を僕から外して、空を見上げ。


 再び、遠い空に浮かぶ異形へ眼差しを送って。

「だから私達は〝あの子〟に――アイルに希望を託したの」

 予想は出来ていた。孤児院由来の生徒の中で最も優れた魔道士であるアイルさんなら、幼少期から天性の才能を持っていたとしても不思議じゃ無い。けれどその場合おかしな点が出てくる。


「待って、君は孤児院で一番上のお姉さんだったんだろう? アイルさんは君よりも――」

 そこまで言った僕の鼻先に、ちょんとリーゼの人差し指が当てられた。


「まずは、最後まで聞いて欲しい」


 大人が子供に言い聞かせるように、優しく促され僕は。

「あ、う、うん……」

 その包容力に、思わず飲み込まれてしまった。


「アイルは捨て身の復讐をして一矢報いるつもりだったのだけど。私はそれを辞めさせた」


 リーゼはアイルさんにこう伝えたという。


『魔法の力は、アイルの切り札は――アイルが生き延びるために使いなさい』

 それは、生き残った他の孤児院の子供達全員の願いでもあった。

 アイルさん一人で鉱山を取り仕切る大人達を打ち倒し、孤児院の子供達みんなで、脱出――そんな理想は叶わないと判っていたから。


 リーゼは、子供達は、〝アイルさん一人だけでも生き残る事〟を望んだ。

 アイルさんは何度も断ったという。仲間を置いて一人で逃げるなんてしたくないと。

 

 でも。

 

『アイルさえ生きていてくれれば。それこそが私達の生きた証になる。だから、お願い』

 何度も、何度も、だだをこねる子供へ言い聞かせるようにリーゼは語りかけ。

 アイルさんは仲間達の想いを背負い、旅立ったんだ……。


「残った私たちはアイルの手助けをする為に決死の反乱を起こしたわ。あっという間に鎮圧されちゃったけれど。アイルを逃がす事には成功した。そして――」


 リーゼは目を伏せ自分の鼓動を確かめるように胸に手を当てて。


 僕の方を向いて、言った。


「アイルを残して、私たちはみんな死んでしまった。反乱の最中始末された子、諦め自ら命を絶った子、衰弱し、疲労と空腹の果てに亡くなった子。みんな、みんな――そう、私も含めて」


 僕はその言葉に思わず


「……ふぇっ……?」


 言葉にならない声を漏らし、目を大きく見開いた。


「そんな、だって、君達はちゃんと、」

 死んだ、なんて言われても。現にリーゼ達はこの学校で暮らしている!


「死んでしまったなんて、そんなの、」

「信じられない?」

「……うん」

「でも、それは事実――私も、こうしてイーヴィルになるまでは忘れてたけど」

「じゃあ、今の君達は一体なんだっていうんだい!? 幽霊だとでもいうのかい!? 僕は知ってる、リーゼが、血の通った人間だって!」

 ずっと一緒に戦って来たんだ。


 触れあうことだって有った。リーゼが幽霊な訳無い、それだけは確信をもって言える。

「勿論。〝私たちは〟生きてるわ」

「どうして……?」

 自然にこぼれ落ちた僕の疑問への答えは。

 とても予想だにしないものだった。


「貴方のお陰よ」


「……は?」

 僕? 僕が何をした? 死者を蘇らせるだなんて大層な事、僕がしたとでも!?


「貴方が願ってくれたから、私たちはこの世界に生きる事ができた」

「僕が願った?」

「そう。そしてそれこそが、貴方を呼んだ理由」


「何も、判らないよ……」

「今はそれでいいわ。ただ、これだけは理解して」


 リーゼの眼差しが、険しくなる。重い視線が僕の胸に突き立つ。

「今のアイルを救えるのは、きっと貴方だけなの」

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