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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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77話 こんなものが、キータの『願い』である筈が無いんだッ!!

 強い衝撃と共に身体が宙に放り出される。

「ぐ、ぅッ!」

 空中で体勢を立て直し、なんとか受け身を取って着地する。


「グるぅ……足りナい、足りナイ、」

 キータは虚ろな眼差しで譫言のようにそう繰り返し、

「全然足りナイんだよォォォ!!」

 悲痛な叫びを上げて、鋭く巨大な爪を備えた両腕を大きく広げる。


 暗黒の球体がキータの目前に現れ、強力な引力を発生させて。

 木々は頭からしなり、根が抜けそうな程に揺れて、

 岩、砂、落ち葉に木の枝、周囲のあらゆる物質が球体に吸い込まれ球体は肥大化していく。


「『ブラックホール・バイト』ォォォ!!」

 そして、膨れ上がった球体をまるで咀嚼するかのように。

 キータの爪が左右から振り下ろされ、球体を切り刻み。


 粉々になった黒い魔力がキータの口の中へ送り込まれては消えていく。

 俺は槍を碇のように地面に突き立ててその引力からなんとか逃れていた。


「攻撃対象なんてお構いなし、まるで暴食の権化だ……」

 バリバリ、ゴリゴリ、異質な音を立ててキータは咀嚼する。


「足りナい、足りナイ――」

 黒い炎の様な魔力に半ばほど覆われた顔面は。それでもはっきりと見て取れる程にくしゃくしゃだった。乾き、餓え。悲痛な切望の叫びが胸に突き刺さる。


「…………違う」

 俺は力を振り絞って、槍を引き抜く。


「違うだろッ!!」

 振りかぶって、槍を投げる!!

「『二連朱槍』!!」

 放たれた槍は空中で二つの炎の塊と変化し、キータへと向かう。


 炎の弾丸がキータの顔と身体に直撃するも、僅かに仰け反ったまででひるまず、キータはひたすらに咀嚼を続けていた。


 パラパラと、マテリアライズされた石ころがむなしく転がり落ちる。

 かつてイーヴィルと一体になっていたアリスは言った。


『私は人々の願い。数多の願いが私の翼』


 イーヴィルが、人々の〝願い〟によって生まれるとして。

「キータは……! お前はッ!!」

 俺は溢れて来る涙をこらえながら、もう一度ハルベルトをマテリアライズして。


「そんなに辛そうに、苦しそうに、するものじゃ無いんだッ!!」

 遠心力をかけて、ハルベルトの刃を強く叩き付ける。

 ギィンと金属の高い音が立ち、キータの爪にハルベルトが受け止められた。


「もっと、見てるこっちまで頬が緩む位に……ッ! 幸せそうに、嬉しそうに、ご飯を食べるんだ。キータは、そういうヤツなんだッ!!」

 俺はハルベルトを引き上げて、訴えかける用にキータへ振り下ろす。


「『リア・スラスター』!!」

 ハルベルトが備える斧状の刃、その背に当たる部位がボウっと炎を灯す。

 炎の推進力を持って、ハルベルトは更に強く大気を駆け抜け、

 キータの爪に衝突した。


「こんなものが、キータの『願い』である筈が無いんだッ!!」

 イーヴィルとは即ち、〝悪しき願い〟。

 正しい願いでは無いもの。ヒトの思いが、どこかで間違って歪んでしまったもの。

 俺はそう推察する。


 キータのこの姿は、本当の願いでは無い。

 そんな想いを胸に。槍を振るい続ける。

 俺が槍を叩き付ける度に、キータの魔力を吸い取ってマテリアライズされた石ころがぽろぽろと、まるで俺の涙の代わりの様に転げ落ちていく。


「みんなで楽しく笑いながら食べるのが、お前達の食事だったじゃないかッ!!」

 ぴしり、とキータの太く鋭利な爪に亀裂が走った。


 干渉マテリアライズによる魔力の相殺も、生成した石ころをキータが食べてしまっているので何処まで効果があるのか判らない。相手は未知の魔物、イーヴィル。口にして即座に魔力に再変換されているとしても不思議じゃ無い。


 やはり、キータを、そしてハルカを元に戻す切り札は――。

 俺はもう一度強く槍を叩き付け、その反動を利用して後方へ飛び退く。

 キータから間合いを開けて、ウエストポーチに手を突っ込んで中身を探る。


 ゴロゴロとした堅い感触が、三つ。


『フェア・クリスタル』


 レンの魔法陣と、アーシェの魔石製造技術で作られた特注の魔石。


 この中には、ルクシエラさんから分けて貰った原初の魔力、〝破滅の光〟が極限まで希釈され、蓄えられている。


 アリスの一件から、〝破滅の光〟を極めて低密度で展開しあらゆる魔法効果を分解する『破魔のルクス・エクラ』ならばイーヴィル化した人間を元に戻す事が出来ると証明されている。だから、この三つの魔石が、唯一の希望だ。


 しかし、裏を返せば――この三つしかない。

 『フェア・クリスタル』は製造に大変手間のかかる代物で、大量発注はレンとアーシェに迷惑がかかる為控えていたのだ。


 『破魔のルクス・エクラ』には欠点がある。それは『破魔のルクス・エクラ』そのものには攻撃能力が全く無いことだ。『破魔のルクス・エクラ』はあくまでエンチャントなど〝魔法効果〟を分解する魔法だからだ。


 魔法効果の消失はそれまで支えられていた力がなくなる事で倦怠感、脱力などを生じる。プールから上がった時に身体が重く感じるのと同じようなイメージだ。


 この時、大きく消耗していれば魔法から脱出するのに手間取り、更に魔力が分解されなおさら脱出に必要な力を失っていくと言う循環が作られるが、相手が万全の状態ならば行動を殆ど阻害しない。発動したとしても、簡単に魔法の効果範囲外に脱出されてしまう。


 なんとかして、ハルカとキータを消耗させる、或いは抵抗出来ない用に捕縛して『破魔のルクス・エクラ』を当てる必要がある。


俺は深く深呼吸し、乱れていた呼吸を整えた。

 相手は未知数の力を持つイーヴィル二体。ハルカは謎の力で空中に浮遊したまま、昏々と眠り続けている。


 キータのみと抗戦している現状ですら、劣勢だ。キータの方は疲れや衰えを全く見せていない。

 俺が二人を無力化できるのかと聞かれれば……全く自信は無い。


 二人の友達の下級生が学園に応援を呼びに行ってくれた。それが希望だ。

 もし俺が二人を倒す事が出来なくても。少しでも消耗させ、駆けつけた応援に『フェア・クリスタル』を渡せば二人を助ける事が出来る筈なんだ。


 その為には最低一つの『フェア・クリスタル』を残す必要がある。

「『二連朱槍』ッ!!」

 放たれた槍が二つの炎の塊になってキータを攻撃する。


「足りナイんダッ!!」

 キータはヒビの入った爪を振るって、炎の弾丸をかき消して。


「お腹ガ、空いタんだよォォッ!!」

 空に向かって吠えた。

 黒い球体がキータが仰ぎ見る空中に発生する。


「一か八かッ!」

 三つの切り札、その一つを握り込み。

「『破魔のルクス・エクラ』ッ!!」

 周囲のあらゆる物質を飲み込もうとする黒い球体めがけて投げ込んだ。


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