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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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76話  僕達〝八天導師〟は個別戦力として遊撃って事か!

ドライズ視点

その日、僕は定期的に行っている師匠の部屋の掃除をしていた。

「ふぅ、今日も散らかってるなぁ」

 慣れた手つきで散乱する資料や道具、ゴミを分別していく。


 師匠は魔法の天才で、いい意味でも悪い意味でも注目が集まる魔導士だけど。こと、生活力に関しては壊滅も良いところだ。悪い意味でお嬢様している。


 家事全般ほとんど経験が無く、『破滅の光』の影響か空腹、眠気に非常に強力な耐性を持っていて数か月程度なら飲まず食わず休まずでもパフォーマンスに支障が出ない。


 オマケに体内からあふれ出す『破滅の光』が滅菌・抗菌にも働いているのか入浴せずとも全身が非常に汚れ難いという最早反則じみた特性まで備えている。結果、お嬢様育ちで生活面の経験が無い上に特に気にとめなくても支障が出ない環境が整ってしまい、今に至る訳だ。


「原初の魔力って何なんだろうなぁ……」

 その恩恵をめいいっぱい利用して好きな事……即ち研究に没頭し放題な師匠の姿は、ある意味人類から抜きん出た存在に感じてしまう程だ。


 だからずぼらな師匠に変わって僕が部屋の掃除やご飯の用意、お風呂の世話までしている。因みに師匠は『必要性が無いから』と言う理由で基本は風呂嫌いなのだが、家族の交流は大事にするので家族が一緒ならお風呂に入るという面倒くさい行動パターンを持つ。


 昔はティアロ様がキツめに促して、イクリプスさんを巻き添えにした上で渋々入浴してたらしいけど。最近はイクリプスさんが一緒にお風呂に入る事を『流石に世間体が悪いだろうが。と言うか単純に嫌なんだが』と拒否し始めた為その役回りが弟子の僕に回る事に……。


 なんて事を考えているウチに部屋は綺麗さっぱり! 僕も弟子としての遍歴が長いから、必要なモノと不要なモノの選り分けもなんのその。


「よし、お掃除おしまいっ」

 僕はゴミを纏めた袋を抱えて、ルクシエラさんの部屋を後にした。

 達成感と充実感を胸にえっちらおっちら廊下を歩く。


 ファルマとかは掃除なんて面倒くさいって言うけれど。僕は逆で、すっきりするしなんて言うか、人の役に立ってるって思えるから好きなんだ。幸せの形って人によるだろうけど、こうした小さな充実感の積み重ねが生きてるって実感に繋がるんだと僕は思う。


 今日も今日とて平和な日常が過ぎていく――筈だった。

 何の気なしに歩いていた所へ、突然轟音と共に地面が揺れる。


「わ、わっ!?」

 僕はバランスを崩して尻餅をついてしまい、抱えていたゴミをぶちまけてしまった。


「何、何事?」

 頭を掻きながら周囲の様子を探る。ここは階段の踊り場で、正面の窓からグラウンドの様子が見て取れた。するとそこには……。


「なっ、イーヴィル!?」

 グラウンドには無数のイーヴィルの姿と、抗戦する生徒達が見える。


「何この数……イーヴィル避けの結界はどうなってるの!?」

 普通、人里にはイーヴィルの発生を抑制する結界が張られているのでイーヴィルは殆ど発生しない。それでもポツポツ発生したりはするのだが規模は小さく、クラスも低い。そういうイーヴィルを討伐するのが僕らの仕事の一つなんだけど……。


 グランドで抗戦しているイーヴィルの数は明らかに尋常では無かった。


 戸惑っていると、端末が甲高く警報を鳴らす。

 そして、端末から強い光が放たれた。

 空中に、プラスチックのボードのようなモノが浮かび上がる。


 マテリアライズを応用した通信端末の非常用機能、〝緊急通達のポップアップ〟だ。

 

 一つは、全生徒に向けた通達。

 学園内でイーヴィルが発生している事、孤児院由来の生徒がイーヴィル化している事。この緊急事態に対処するため、学内にいる生徒はクラス毎に集まりイーヴィルと抗戦、可能であるならばイーヴィル化した生徒を無力化する。


 戦闘が厳しい下級クラスは保健室、職員室に集まり後方支援の手伝いを行う事。学外にいる生徒はできる限り学園の生徒と合流し複数人で集まって学園へ戻り、戦線に加わる事。負傷者、鎮圧したイーヴィル化した生徒は保健室に集める事などがティアロ様の名で指示されている。


「なんだこれ……大事件じゃないか!」

 僕は慌てて装備をマテリアライズした。そしてそのままもう一つの通知を確認する。

 そちらは、〝八天導師〟へ特別に宛てられた指令だった。


『この緊急事態に際して、〝八天導師〟には生徒達とは独立して個々人によるイーヴィルとの抗戦を要請する。またその際、混乱している生徒への避難・抗戦指示を求める』

 ざっと内容に目を通して、僕は駆けだした。


「つまり、一般生徒はクラス毎に集まって事態に対処、僕達〝八天導師〟は個別戦力として遊撃って事か!」

 目の前の窓に、氷の直剣を突き立てて破壊する!


 そして散らばる窓ガラスと共に、階段の踊り場から外へと文字通り飛び出した。

 高さは3階と2階の間。身体の防御能力に多少の効果がある氷属性のエンチャントを身に纏っていれば、少し痛いで済む程度の衝撃だ。


 僕は地面に着地すると共に前転して衝撃をさらに緩和して勢いのままに立ち上がった。

 そしてすぐ近くで破壊された校舎と、そこから逃げてくる下級生達を発見する。


「みんなっ落ち着いて!」

 僕はレイピアを構えて彼らの元へ駆けつけた。

 そして、砂煙の中に発見した巨大な影に剣を振るう。


 熊の様な姿をしたイーヴィルが振り下ろした拳を、氷の刀身が受け止めた。

 足下では尻餅をついた下級生が涙ぐんで震えている。


「大丈夫かい!?」

 イーヴィルの拳を受け止めながら、僕は足下の下級生に語りかけた。

 その子はおびえた様子で、震えた声で呟く。


「が、ガストくんが、ガストくんがぁこんな、姿に……!」

 その様子から、僕は察した。

「このイーヴィルはまさか生徒がイーヴィル化したって事かい!?」

 下級生は言葉で答える事はできず、ゆっくり首を縦に振る。


「ならっ!」

 僕は剣を傾けてイーヴィルの拳を受け流す。そして同時に懐へと潜り込んだ。

 イーヴィルの顔面を左手で鷲掴みにして、唱える!


「『アブソリュート・ゼロ』!!」

 これは、対象に触れていなければならない代わりに対象を即時的に氷漬けにして動きを封じる魔法だ。熊の様な姿をしたイーヴィルが一瞬にして氷の像に変貌する。


「しっかりするんだッ!」

 僕は今だ震える下級生を叱咤した。

「この子を救うには君達の力が必要なんだっ」

 膝を突き、目線の高さを合わせて肩を抱え。僕は訴える。


「クラスの他の子達を集めて、この子を保健室に運ぶんだ。大丈夫、きっと元に戻るから」

「ぁう……」

「ここで何もしなかったら、何も変わらない。頑張って! 勇気を出すんだ!」


「……」


 僕の言葉を受けて、下級生は涙を飲み込み下唇を噛んで立ち上がった。

「み、みんな、手伝って!! ガストくんを保健室に運ばないと!」

 その呼びかけに、遠巻きに避難して様子をうかがっていた他のクラスメイト達とおぼしき下級生達が集まってくる。


「そうだ! 君達は一人じゃ無い! 仲間が居る、大丈夫、君達も戦えるから!」

 子供達の目に光が宿っていく。これなら大丈夫だろう。

 そう確信した所へ、


「すまないみんなッ!! アーちゃんと街に出ていて遅れてしまった!」

 軍帽を被った少女が、夕焼け色のふわふわしたツインテールを揺らして駆けつけてくる。彼女は周囲を見渡して、僕に視線を向ける。


 そして更に、僕の胸へと視線を移して。

「〝八天導師〟!」

 キリッと背筋を伸ばして敬礼をした。


「代わりに指揮を執ってくださったのですね。ご協力に感謝致します!」

「い、いや指揮なんて言うほど大層な事はしてないよ……」

 僕はたじろぎながら、彼女がこのクラスのリーダーであると推察する。


「ドライズ先輩ッ……!?」

 遅れて、モノクルをかけた小柄な黒髪の少女が現れた。


「シジアンちゃん!」

「遅いぞアーちゃん!」

 軍帽を被った少女は頬を膨らませる。


「仕方ないでしょう、ボクは文官なんですから……」

 膝に手を突き胸を押さえて息を切らすシジアン。

「何を不甲斐ないことをッ! 私だって本来は采配担当の軍師だぞ!」

「大丈夫かい?」

「はい……。なんとか……」

 シジアンは呼吸を整えると、


「お手数かけてすみません、ドライズ先輩。下級生はボクとユーちゃんで纏めますから」

「うん、任せたよ!」

 シジアンは一年生ながら同じ〝八天導師〟の一員だ。僕はこの場を彼女達に任せて、他に助けが必要な生徒を探しに駆けだした。

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