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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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75話 俺なんかに何ができるのか。細かい事は後で考えるッ!!

 改めて、俺はオレンジ色の髪をした生徒に名を尋ねる。

「君、名前は?」

「ふぇ? ど、ドルチェっす」

「ドルチェ。よく聞いて欲しい。大事な事だ」

「は、はいっす!」

 ドルチェと名乗る少女は緊張した面持ちになる。


「確かに俺は〝八天導師〟に選ばれた。でも俺は――強くない」

「へ……?」

 俺の告白に、ドルチェはぽかんと口を開いた。失望、までは行かなくともがっかりしている事は明白に判る表情だ。


「二人を助けるなんて約束、する事はできない」

「そんな……」

 今にも泣き出しそうな程にドルチェの顔が歪んでいく。そんな彼女の肩に手を乗せる。


「しっかりするんだ! だからこそ、君に重大な任務を託したい」


「に。任務?」

「俺は強くないけど――それでも、あいつらは俺にとって大切な友達で。そんな友達が、あんな姿で暴れているのなら。見て見ぬ振りなんてできない。勝てる見込みが無くても、戦うつもりだ。〝二人を絶対に助け出す〟、だなんて口が裂けても言えないけど、でも、これだけは誓う」

 ドルチェの目を見つめる。決して目を逸らさない。それはある種、自分への戒め。この子に嘘を吐くような人間ではあってはならないと。


「二人は俺が、ここで食い止めるッ!! 他の誰も傷つけさせやしない。絶対にだ」

 ドルチェは静かに、俺の言葉を聞いていた。


「だから君は、学園に戻って。誰でもいいんだ。教員でも、他の八天導師でも、誰でもいい。助けを呼んでくれ。応援が来るまで、絶対に持ちこたえてみせるから。だから、頼めるか?」

 俺から言い渡された任務を。ドルチェはきゅっとおびえていた顔を引き締めて、頷いた。身体はまだ震えているが、その表情に憂いや恐怖は無い。


 ――ああ。強い子だ。きっと将来、俺なんかより凄い魔法使いになるだろうな。

 そんな事を想いながら。


「その任務、確かに引き受けたっす……ッ」

「キータが槍を食べ終わったら飛び出す。君は同時に、校舎の方へ走るんだ」

「了解っす!」

 会話を終え、再びキータの方へ視線をやって様子を伺う。槍はもう殆ど食い潰されていた。少しずつ、咀嚼音が聞こえる感覚が長くなっていく。


「数えるぞ。3、2、1――今だッ!!」

 俺とドルチェは同時に茂みから飛び出した。

 俺は新しくハルベルトをマテリアライズして構える。


「名前も知らない先輩ッどうか、ご武運をッ!!」

 遠のいていくドルチェの声を背中で感じながら。

 俺はキータに槍を向けた。


「俺なんかに何ができるのか。細かい事は後で考えるッ!!」

 俺は主人公じゃ無い。特別な才能も、能力も、何も持たないちっぽけな人間だ。

 きっと、考えれば考える程になにも出来なくなるだろう。


 でも。


 ハルカは昏々と眠り続け、キータは苦悶の表情を浮かべて無機物だろうと食らい付く。

 二人のあの状況は、どう考えても健全じゃ無い。


 大切な友達が。それも、助けて貰った恩義ある友達が大変な目に遭っているのに。


 自分じゃ何もできないから、なんて言って目を背けるような人間には、なりたくない!


 ドルチェが応援を呼び行ってくれた。

 それまでだ。それまで絶対に耐え抜くッ!!


 主人公じゃないとしても、その誓いだけは破れない!!


「いくぞ、ハルカ――キータ!」

 覚悟を決めて、俺は二人に対峙する。


「お腹……空イたンだよ……」

 キータは獣のように四つん這いでこちらにそろり、そろりと歩み寄って。


「何デモ良い・・・・・・オ腹ッ! 空いタんだッ!!」

 キータが上体を起こす。紫色の闇の魔力が、肥大化した爪が光る手のひらに集積していく。ボールを投げるように腕を振るうと、闇の魔力が直線的に飛んで来て。


「何だッ!?」

 闇の魔力は空中をある程度進んだところで静止し。

 直後、ごぅ、と音を立てて周囲のモノを強い引力で吸い寄せていく!!


「これは!? 『第三暗黒魔法ブラック・ホール』!?」

 仮にも第三階級の基礎魔法を、一年生が詠唱も無しに発動した事に驚きを隠せない。


 なんとか踏ん張るが、少しずつ体が闇の球体に引きずられていく。

 そして、いよいよ球体に触れそうになった瞬間に。

 キータが牙を剥き、両腕を広げて爪を振りかぶって飛びかかってきた。


「『ブラックホール・バイト』ォォッ!!」

 『第三暗黒魔法ブラックホール』で身動きを制限された所に、迫り来る牙と爪!


「くっ!」

 『第三暗黒魔法ブラックホール』を『第三閃光魔法アルギュロスレイ』で相殺できれば話は早いのだが、とても詠唱している暇はない。


 ――持久戦でいきなりこの手は悪手だけどッ!

 判っていても、それ以外の選択肢が咄嗟に浮かばなかった俺は。

 持っていた槍を思い切り地面に突き立てて。

「『ヘヴィ・ブラスター』ッ!!」

 

 爆破させた。

 

 俺の身体は『第三暗黒魔法ブラックホール』の引力をも上回る程の爆風に吹き飛ばされる。

「ぐあっ、くぅ……!」

 少し離れた場所で受け身をとって転がる。


 巻き上がった土煙は『第三暗黒魔法ブラックホール』があっという間に飲み込んで。黒い球体があった場所を、黒い球体ごと。


「ガアアッ!!」

 獣の様な雄叫びと共に、牙と爪が引き裂いた。


 巻き上がり捲れた地面と土煙、周囲にあった落ち葉や石ころ。そういった諸々全てを取り込んでいたと思われる黒い球体に齧り付いたキータは。


 ゴリゴリ鈍い咀嚼音を立ててその全てを飲み下した。

「この調子で、保つのか……? 俺」

 自爆の衝撃でふらつく身体に鞭打って起き上がる。

 キータ達との戦闘が、本格的に始まった。

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