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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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74話 リーダーと同じ〝八天導師〟っすよね!?

 最初に目指したのは、いつもの場所。俺が良く昼寝をする校舎の裏庭だ。

 けれどそこに二人の姿は無かった。当然だろう。よく集まるからと言って必ずその場所に居る理由なんて無い。


 胸がざわざわした。客観的には、ただ妙な夢を見ただけなのに。不安でたまらない。

 ここ最近悪夢を見なくなったというのに、突然あんな不穏な夢を見てしまっては、悪い予感もするというものだ。


「ここじゃ無いなら――あそこか?」

 次に思い当たったのか二人に引っ張られて行った永久の森の中にあるアスレチックだ。

 今日は休日だし、そこで遊んでいる可能性は充分ありえるだろう。


 俺は急いで永久の森へ向かった。

 永久の森はまだ夏景色だった。青々とした命がうっそうと茂り見通しが悪い。


 永久の森を進んでいる道中、空が薄暗くなった気がした。太陽に雲でもかかったのかと空を見上げてみるが、その様子は無い。雲の少ない晴天の筈なのに、何故か青空がくすんで見える。


「何かが起こってる……!」

 不安がドンドン膨れ上がっていく。その時だった。

 パァン、と破裂音と共に赤い光が空に瞬く。そしてじんわりと赤い残光が漂った。


「なっ非常警報の連絡灯!?」

 ドクン、と心臓が跳ね上がった。今まではあくまで〝嫌な予感〟でしかなかったのだ。

 けれど、赤い連絡灯が見えた以上それはもう予感では無くなった。


 連絡灯を打ち上げたのが誰なのか、どういう意味での非常事態なのかまでは判らない。

 良くない何かが起こっている。それだけは確かだ。


 俺は走る速度を速めた。

 ――頼む、この先に居てくれッ!

 そう願いながら落ち葉をかき分け永久の森を突き進む。


 そして、もう少しであの遊び場に到着する、というところで。


「わきゃあっ!!?」


 悲鳴が聞こえる!


 ――ッ!!

 俺は咄嗟に、身体に『エンハンス魔法』をかけて身体能力を強化し、強く踏み込む。


 流れていく景色。見えてくるアスレチック。

 そこで、オレンジ色の服装をした少女が、黒い何かに襲われそうになっていた。

 咄嗟にマテリアライズしたハルベルトを構え、二人の間に割り込むッ!!


 ギィンッ!!

 甲高い音が響いた。黒い何かは口と思われる部分でハルベルトの柄を思い切り噛みこんでいる。


「あ、あぅ、あ」

 ぺたん、と尻餅をつく音が聞こえた、僅かに首を曲げ後ろを伺うと、オレンジ色の少女が涙を浮かべて震えている。


「立てッ!!」

 俺は叱りつけるように言い放った。

「は、はひっ」


 少女は震えた足を押さえてなんとか立ち上がる。

 その間も俺は黒い何かを押さえ込んでいた。

 ギリギリと噛み付かれた槍が少しずつ削られる音が聞こえる。


「嘘だろ、おい……」

 目の前の光景が信じられなかった。

 俺は見知らぬ少女が、イーヴィルに襲われているものと思って咄嗟に駆けつけた。敵の攻撃を受け止め、それから相手の姿を確認した。


 今、俺の槍に囓りついているイーヴィルは。

 短く整った金色の髪、幼さ残るふっくらとした頬。日が沈みかけた夜空の様に、青から黒にグラデーションしている瞳。


 その特徴は間違い無くキータのモノだった。


 その口に、獣のモノと思わしき鋭い牙が立ち並び、爪もナイフの様に鋭く肥大化して。

 ふさふさとした毛皮のようなモノに身を包み、背後にあばら骨のような翼が見える点を除けば、だが。


「キータ、なのか……?」

「き、キータ君を知ってるっすか!?」

 俺のつぶやきに少女が反応する。しかし、ギチギチといよいよ限界だと言わんばかりにハルベルトが悲鳴をあげた。


「まずいっ!?」

 俺は咄嗟にハルベルトごと、キータと思われるイーヴィルを横に受け流した。

 キータは槍を咥えたまま、頭から地面に転げる。


「許してくれよ、君っ」

「ふぇ? わきゃあ!?」

 俺は背後の少女を小脇に抱えて、急いで待避した。アスレチックからそれほど離れていない茂みに潜り込む。


「はぁッ、はぁッ」

 茂みから身体がはみ出ないように蹲るが、いくらエンハンスしていたとはいえ呼吸が乱れる。

「お、お助けいただきありがとうございますっす……」

 オレンジ色の少女が、蹲りながらも頭を下げる素振りを見せた。


「礼はいい。それより、話を聞かせてくれ。アレはキータで間違い無いのか?」

「は、はい。三人でアスレチックで遊んでいたら、突然空から変なモノが降ってきて。それがキータ君とハルカちゃんにぶつかったかと思うとああなっちゃったんです」

「人間がイーヴィル化するなんて、それじゃあまるでアリスみたいな――」


 そこまで呟いて、アリスを襲った謎の人物カイの姿が脳裏をよぎった。

 ――まさか、あいつが裏で糸を引いて? いや、突飛過ぎる考えか?


  カイが何の目的を持ってアリスを襲ったのか不明だが、アリスがイーヴィルになってしまった原因を究明し、それを再現したのだとしたら……? と考えて頭を横に振るった。


 ――今はそんな事考えてる場合じゃねぇ!!

 周囲に気配が無い以上、憶測だけでカイの事を考えても仕方が無い。


 バリ、ボリ、ゴリ、と鈍い音が聞こえる。体勢を変えて、かがんだ状態になって様子を伺うと、キータがその場で貪るように俺の槍、ハルベルトを咀嚼していた。


 ――アリスと一緒だとするならば。『破魔のルクスエクラ』を使えば助けられるかも知れねぇけど……。

 俺はチラリと、視線を移した。キータはこちらに襲いかかって来たためアスレチックからやや離れた位置で槍を囓っているが。


 アスレチックの側にはもう一体イーヴィルの姿があった。

 ふわふわと空中に漂い、眠ったように動かない。もこもこした真っ白い羽毛の様な翼を持ち、その翼と同じようなふわふわした毛を胸や腰、手首や足首に纏うピンク色の髪が印象的なイーヴィル。


 ――ハルカ……。


 キータとは対照的で、その場から一切動かない様子だが。アリスの事を考えると二人とも未知数の戦闘能力を持っているに違いない。一体だけでも勝負になるのか怪しいのに、二体もイーヴィルが居る。とても不味い状況だ。


「あ、あのっ!」

 ふと、オレンジ色のミディアムヘアーの少女が俺に声をかけてくる。


「なんだ?」

「その羽根の形をした勲章、リーダーと同じ〝八天導師〟っすよね!?」

 言われて、思わず自分の胸を確認した。制服の胸元に赤い羽根型の勲章が揺れている。〝八天導師〟に任命された時に貰ったモノだ。


「それは――」

「お願いっす!! 二人を、二人を元に戻してくださいっ!!」

 涙混じりに彼女は懇願する。


 ――そんな風に頼られても、俺は……。

 思わず弱音を吐きそうになるのをぐっとこらえ、飲み込んで。

 俺は決心した。

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