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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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72話 何者ニも縛ラれヌ自由ヲ!!

アイル視点→イクリプス視点

     ◆  ◆  ◆


「邪魔が入る前に、要件を済ませてしまおうか」

 カイはそう言って、パチンと指を鳴らした。

「てめっ、好き勝手暴れた挙げ句に逃げる気か!?」

 距離を詰めようとした足が、止まる。


「ッ!?」

「言った筈だ。今日の目的は君にプレゼントを渡す事だと」

 遠くから届く、カイの声が揺らいで聞こえる。

 

「そう。ただ〝特別な力〟を持つだけではいけないのだ。真に究極に至るには〝特別な力〟を更に研鑽し、昇華せねばならない」

 カイは空中を気ままに歩む。最早自分の事など目もくれない。


「その為に、この世界の理を魔導にした。が、どんなに優れた魔法も、いきなり自分が使うのは億劫だろう? まずは臨床試験が必要だ」

 カイの歩む先に楕円状に広がる暗紫色の魔力が現れた。

 扉か、ゲートを形取っているように見える。


「『クラウンド・ダークマター』」 

 魔力の扉をくぐる直前に、カイはこう言い残した。


「君にも〝原初の魔力〟を使わせてあげよう。その力を存分に振るいたまえ。君の願いを、叶えると良い」

 カイが魔力のゲートをくぐると、ゲートは初めから無かったかのように消滅した。


「あの野郎、俺に何を……!」

 オレはは頭を抱え、膝を折って蹲る。手からこぼれ落ちた大きな斧が、そのまま地面めがけて落下していく。


「無事かッアイル!!」

 声が聞こえる。この声は、兄弟弟子の一人。

「い、クス……」

 異変を察知し駆けつけたのは。英雄と称される魔道士。

 原初の魔力の一つ、〝破滅の光〟を継承する双子の弟、イクリプスだった。


 思考がぐちゃぐちゃになる。自分が何をしているのか、

 何をしたいのかが、

 判らなくなっていく。


「敵の呪術か? 今救護班を呼ぶッ」

 イクリプスは携帯端末を取り出し救援を呼ぼうとするが、


「ゥアアアッ!!」

 オレは頭を抱えたまま、もう片方の手を重たそうに持ち上げ、イクリプスを指さした。すると暗紫色の魔力が指先から迸り、イクリプスに向かう。

「なっ!?」

 咄嗟に身を躱すイクリプス。暗紫色の魔力はイクリプスの携帯端末を撃ち抜き破壊した。


「混乱しているのか? いや、違うこれは――」

 イクリプスは己の武器、太陽を象った装飾を持つ大剣と月を象った装飾を持つ片手剣を抜き、構えた。

 

     ◆  ◆  ◆


 苦しむアイルの頭上の空に禍々しい黒い魔力が集まっていく。それは水滴のように歪み、震えながら膨れ上がってゆく!


「この魔力は、まさか――」

 俺が確信を持ったのと同時に。


 空に集まった黒い魔力の塊が。ぽとり、と落ちていった。

 そして直下のアイルにぶつかると、水が地面に触れたときのように弾けて広がる。


「グアアアアアアア!!!」

 掠れる程の声量で、アイルが吠えた。アイルの身体が、弾けて広がった黒い魔力に包み込まれていく。黒い魔力は、マテリアライズのように質量を持って形成される!


 俺はその光景を目の当たりにして、言葉を失った。


 黒い魔力は肉体へと変貌し。

 現れたのは、巨大な魔物。


 十字架のような本体に、貼り付けにされ俯くアイル。その身体には、幾重にも幾重にも厳重に金属の鎖が巻き付けられ。

 十字架の左右の先端から、無機質で巨大な腕が伸びる。

 十字架の上部先端には西洋鎧の兜のような頭部が存在した。


「イーヴィル……!!」

 自分の目を疑う。目の前で兄弟弟子がイーヴィルへと変貌したのだ。簡単には事態を飲み込めない。しかし、戦いに身を置いてきた本能が理性よりも素早く身体を動かす。


 月を象った片手用の曲剣を投げ放った。そして太陽を象った大剣を両手で構え、アイルを縛り付ける鎖めがけて強く振り下ろす。だが、鎖に刃がぶつかろうとしたところで暗紫色の魔力が何処からとも無く発生し、イクリプスの剣を阻んだ。


「ちぃっ!!」

 投げられた曲剣が遅れてやってくる。体勢を立て直し、大剣を振り回すように円を描いて振った。

 真っ白な光の魔力を宿して、飛来した曲剣と弧を描く大剣の軌跡が交わって交差する。


「『ダイヤモンドリング』ッ!!」

 〝破滅の光〟を乗せた、あらゆる魔導を切り裂く剣技が。

 暗紫色の魔力の壁に阻まれ止められた。


「馬鹿なッ!!」

 〝破滅の光〟が通じなかった事など一度も無い。驚愕する心を抑えつけ、冷静さを保つよう心がける。ブーメランのように弧を描きながらイクリプスの元に戻ってきた曲剣を回収し、アイルと距離を取った。


「ォォ……」

 鎧兜のような頭部の顎が動き、声が漏れる。くぐもっているがそれは紛れもなくアイルの肉声だった。


「『司ドルは、傲慢ナる自由』」

 巨大な腕を胴体の前に寄せて、開いた手のひらを向かい合わせる。

「『渇望セよ! あまね同胞はらからの願イを叶えン』」

 向かい合わせた手のひらの間に、球状の黒い魔力が発生し巨大化してゆき。

「『ノヴァドリーム・ダークソウル』!!」


 イーヴィル・アイルは向かい合わせにした巨大な手の平を天へ向けた。

 黒い球体が空へと放たれ、無数に分裂する。

 そして小さな球体となった黒い魔力は四方八方へと飛散していった。

 俺はアイルが放った魔導の効果を探るべく、固唾を呑んで様子を伺う。


 数秒後。眼下の学園から悲鳴が聞こえた。

 校舎の壁が吹き飛んだ。穿たれた穴から、生徒達が慌てふためいてグラウンドに出て行く。遅れて、のっしのっしと大人の人間より二回り程大きなイーヴィルが現れた。


 生徒達はイーヴィルに向けて何か懸命に語りかけている。その内容までは聞き取れない。

 しかし、その光景と、先程の詠唱を踏まえて、悟る。


「遍く同胞――まさか、孤児院の子供達までイーヴィル化したのかッ!?」

 返答など無い。しかし鎧兜のような頭部の顎が動いた。

「自由ヲ!! 何者ニも縛ラれヌ自由ヲ!! 何処まデも自由二、自由ヲ、自由ガッ」

 イーヴィル・アイルは誰に語りかけるでもなく、壊れたレコードのように。


「オレが、自由二してやるッ!!」


 涙を誘う程に悲痛な叫びをあげていた。

 俺は眉間に皺を寄せ、一瞬だけ目を逸らし、しかしアイルに大剣の切っ先を突きつけ見据える。


「大地の賢者ティアロ・サターン、その代行人として。お前をクラス4、特級警戒討伐対象と認定する」

 本来3段階である筈のイーヴィルの区分。その最上位、クラス3を上回る存在として。

 俺はティル爺の懐刀としての権限をもって指定した。


 片手を天に向けて光の魔法を放つ。

 光の玉が空に昇り発破音と共に弾け、赤く輝く。これはイクリプスの身近な者達の間で用いている非常用の連絡灯であり赤は非常警報を示す。


「別に、兄弟弟子だからといって仲良しこよしで生きてきた訳じゃない」

 剣を握る拳に力が入る。柄に指が食い込むのでは無いかと言う程に、強く。


「だが。長い時を共に歩んだ者として。お前の、本当の〝願い〟位理解しているつもりだ」

 ここは学園の上空。眼下では、アイルと同じようにイーヴィルとなった生徒とそのクラスメイトや友人達が対峙していた。けれど、生徒達には戸惑いが見受けられる。


 更に、この異常事態に引き寄せられてか一般のイーヴィルまで自然発生し始めている。


「この地獄のような光景が、お前の願う〝自由〟である筈が無いッ」


 大剣を片手に持ち替え、右手と左手を掲げて頭上で二つの剣を交差させる。


「『我が名は凶兆。〝破滅の光〟を継ぎし者。この身を以て災いとなさん』」

 交差された二つの剣の交点から目映い光があふれ出し、俺を照らす。

「『トータル・イクリプス』」


 この背に、目映い光輪が浮かび上がった。同時に、身体から光の魔力が揺らめく炎の様に立ち上る。次の瞬間、俺は文字通り瞬く間にイーヴィル・アイルに接近し、大剣を振り下ろしていた。


 それは、光の速さに等しい。


 暗紫色の魔力がアイルの身体を守ったが、今度は大剣に切り裂かれ、霧散する。

「普段早朝からやかましいクセに――寝坊しているんじゃあ無いッ!!」

 目で追う事など不可能な、鋭く、目映く、力強い刃を以て俺は訴えかけた。

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