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【第二部完結•休載中】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第1部 俺は主人公になれない
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8話 打ち解けたって言えるかなぁ!?

 程なくしてシジアンが戻ってきて。

「粗茶ですが」

 俺とレンさんの前に湯飲みと小皿を置いた。

 出されたのは緑茶と最中が二つ。

「ありがとう、シジアン」

 お礼を言って、最中を口に運ぶ。

 レンさんの方は何も言わなかったが、シジアンに対して少しだけ頭を下げたように見えた。


「……」

「……」

 黙々と最中を食べる俺達。


「あ、あの……」

 歓談とは一体何なのか。黙りこくって菓子を食べる俺達二人にシジアンがおろおろしていると、

「……ごちそうさま」

 レンさんはあっと言う間に最中を食べ終えた。好物だったのだろうか。

「……」


 一方俺の方はまだ一つ目。最中の味わいに感動していた。

「って、先輩、なんで泣いてるんですか?」

「ごめん……久しぶりにメロン以外の甘味を食べたから……」

 

 ルクシエラさんのせいで俺とドライズはメロンの処理に困っていた。ドライズは友人や先輩に配りまくってどうにかしているようだが俺にそんな人脈はない。結果、現在俺の食生活は三食中二食がメロンまるまる一個となっていた。

 

 そんなこんなで俺が最中を一つ一つ味わって食べていると、

 じぃっとレンさんがこちらを見つめていた。

 な、何だろう。既に色々やらかしてしまっているがまだ何かあるのだろうか。

 視線が痛い。嫌な汗が沸いてくる。

 

 俺は耐えきれず、様子を伺うようにおずおずと問いかけた。

「あのぅ……レンさん? どうかしましたか?」

 レンさんはその言葉を聞いて。

 顎に手を当てる。

 そして首を傾げて。

 何かに納得したようにこくりと頷いて。言った。


「……気持ち悪い」


 一瞬、レンさんがボクシンググローブを付け助走を付けて体重を乗せた必殺パンチを繰り出す光景を幻視する。

 俺はその直撃を顔面に受け、


 吹き飛んだ。


「ごばぁっ!!」

 実際に殴られた訳では無いが、頭から仰け反って椅子の背もたれに背中を叩き付け、がくりと項垂れた。


「せんぱぁぁぁい!!?」

 仰天したシジアンが俺の両肩を持つ。

「お気を確かに!!」

「心折れそう……」

 自分でも判る。涙声だった。


 遂に言われてしまった、ど真ん中ストライクの拒絶が心に重くめり込む。

 もう、レンさんの顔を正面から見るのも怖い。

 けど、これ以上機嫌を悪くしていないかも気になる。恐る、恐るレンさんの様子を伺うと……。


「……?」


『この人何してるの?』と言わんばかりにキョトンと首を傾げていた。

 あなたの爆弾発言に傷ついてるんですけど!!! と言いたくなったがこれまでの行動からどう考えても自業自得なので言い出せない。

 

 すると、シジアンがハッとした様子で。

「あ、あの、レン先輩。今の発言の意図を教えて下さいますか?」

 と。レンさんに問いかける。

 ――え、ちょっとまって下さい傷口に塩塗り込む気? 

 身構えていると、レンさんは少しだけ困った表情を作ってうーんと頭を抱えていた。


「……違和感」

「何に違和感を感じたのですか?」

「……喋り方」

「ファルマ先輩の喋り方に違和感を感じたのですね」

 レンさんはこくりと頷いて続ける。


「……堅い。不自然。心地悪い。……だから、気持ち悪いと思った」

 そこまで聞いて、俺は勘違いをしていたことに気付く。

 レンさんは俺自身が気持ち悪いと言ったのでは無く。

 俺の言動が気に入らず、その心地の悪さを気持ち悪いと表現したのだ。


「そ、そういう事ですか……」

 俺は大きなため息を吐いた。


「……それ。嫌」

「先輩。ボクと話すように砕けた喋り方をしてみたらどうでしょうか」

 シジアンに振られて、俺はおっかなびっくりな様子で口を開く。


「ほ、ホントにこんな感じで良いのか……?」

「……ん。理由不明。でもしっくりくる。あと〝さん〟も要らない」

 レンさんはこれで納得したらしい。しかし、関わりの無かった同級生にタメ口か……。馴れ馴れしいって怒られそうで怖いんだけどな……。いや、本人がそうしてくれと言っているとは頭では判っているんだけども。


「これで、少し打ち解けましたね。交流会を開いた甲斐がありました」

 

 シジアンは満足げだがこれって打ち解けたって言えるかなぁ!?

 

 なんて思って居ると、レンさんは。

「……今後ともよろしく」

 ぽつり、とそう呟く。口の端が心なしか伸びている気がした。


 その後はまた沈黙が訪れていたのだが。

「……そろそろ、帰る」

 レンさん、もといレンはそう言うと席を立ち、お茶とお菓子のお礼かシジアンにぺこりとお辞儀をしてから部屋を出て行った。


「ぁぁ~~~~緊張した……」

 もう色々ありすぎて緊張状態だった俺は全身の力を抜いてだらりと項垂れる。

 そんな俺を、シジアンが意外そうに見つめる。


「先輩、レン先輩の事苦手なんですか?」

「いや、レンさんに限らずそもそも人付き合いが苦手なんだけど……」

 俺がそう答えるとシジアンは目を丸くする。

「そうだったんですか。意外、です」

 そして。

「あの、つかぬ事をお尋ねしますが」


「うん?」


「先輩は、ご友人はどれくらいおられるのでしょうか?」

 

 今度はシジアンからボディブローのようにきっつい一撃を喰らった。

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