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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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69話 ハルカとキータにお礼を用意しよう

俺はふんわり穏やかな気持ちで昼寝をしていた。

悪夢を見なくなり、それまでの寝不足分を取り戻すかのように昼寝ばかりしていた。

 そして、目が覚める。


 場所はいつもの裏庭の木陰。

 あくび交じりに伸びをして、左右を確認すれば。


「すぅ……すぅ……」「むにゃ……」

 ハルカとキータが心地よさそうに眠っている。すっかり慣れてしまったお馴染みの光景だ。


「ハルカ、キータ。そろそろお昼ご飯だぞ」

 と呼びかけてみるが応答は無い。深い眠りに落ちているらしい。

 でも二人はお昼寝だけでなく毎日のご飯も楽しみにしているから寝過ごさせるのもかわいそうだ。俺はふとある事を思い立った。


 ハルカとキータはこの場所にお弁当を持ってきて頭の上に置いてから昼寝をしている。

 そこで俺は頭の上に置かれたお弁当箱に手を伸ばした。そして蓋を開ける。

 

 ミニハンバーグやミートボール等子供が喜びそうなメニューが詰まった幸せいっぱいのお弁当だ。

 それを手に持ったままハルカ達の顔へ近づけ、手で扇いだ。


 美味しそうな匂いが風に乗って二人に届くだろう。

 すると――、


「およ?」「だよ!?」

 パチッと二人同時に目を見開いて、


「美味しそうなご飯の匂いがするのよ」「お腹空いたんだよ!」

 と上体を起こした。やっといてなんだが本当に食べ物の匂いで目を覚ますなんてな。

 俺は苦笑いを浮かべながら、お弁当をハルカに渡した。


「ほら、時間だぞ。勝手に開けて悪かったな」

「ふわ。おにーさんの快適空間、心地よすぎてつい寝過ぎちゃうよ」

「わぁい! お昼ご飯の時間だよー!」

「キータは寝起きから元気だな」

 ウキウキした様子でお弁当を広げるキータを見て、微笑ましく思った。


「良いことよ。お腹いっぱいご飯が食べられるのは、とっても幸せなことなの」

 柔らかく微笑むハルカの言葉には、妙な重みがあった。アイルさんが言っていた事を思い出す。

 

 ――不自由、か。

 

 ハルカとキータに――いや、アイルさん達の過去に何があったのかなんて俺には判らない。けれど、過去なんてどうだっていい。大切なのは、今の彼らはとても幸せそうに笑っているという事だ。

 ハルカとキータの眩しい笑顔は、見ているだけで勇気づけられる。

 

 俺は一つ思い立った。

「なぁ、ハルカ、キータ。お前等、好きなモノってあるか?」

「およ? 好きなモノ?」

 ハルカは頬に人差し指を当てて思案するように空を仰ぐ。


「スイカだよ!」

 先にキータが元気よく答えた。そして、

「なら私はトマトよ」

 続いてハルカも答え、更に、

「「それからリンゴ!」」

 二人声を揃えて言った。


 俺は頭を掻きながら訂正する。

「ごめんごめん、言葉が足りなかった。食べ物じゃ無くてなんか、こう小道具とかの話だ。おもちゃとかでも良いぜ」

 自慢では無いのだが、俺は学生にしては懐が潤っている方だ。ルクシエラさんが何かにつけてお小遣いを半強制的に渡してくるから。


 全く、田舎のおばあちゃんかよって話で――

「ぅおぁっ!?」

 俺は慌てて飛び上がった。そして0コンマ数秒後、俺が座っていた場所に細い光の筋が走り、ジュッと音を立てて地面に黒焦げた小さな孔を開ける。


「わわ、どうしたんだよ!? 敵襲!?」

 キータが慌てるが、

「いや味方襲だから安心してくれ……」

 俺は適当に言葉を作って答え、元の場所に座る。言葉にも出してないのに反応して狙撃してくるとか最早地獄耳とか言うレベルじゃな――いやこれ以上は辞めておこう。


「悪夢の件で世話になったからさ。お礼に、用意出来るものならなんでもプレゼントするよ」

 そう伝えると、二人は

「……いいの?」「ホントにホント!?」

 目をキラキラして詰めてきて。あまりにも眩しい期待の眼差しに思わずのけぞってしまう。


「あ、ああ。いや、俺に用意できる程度のモノだぞ? 流石に家買えと言われたら無理だからな??」

 と、念を押して。すると二人は深く考える様子もなく、こう言った。


「なら私は可愛い帽子が欲しいのよ」「僕はかっこいいマフラーがいいんだよ!」

 帽子とマフラーと聞いて、二人が名乗りを上げたときの事を思い出す。


「そういえば二人とも自己紹介する時にマテリアライズで取り出してたな」

 ハルカはふわふわしたナイトキャップを、キータは真っ赤な細めのマフラーを身につけていた。

「趣味なのよ。帽子集めるの」

「僕はマフラーが好きなんだよ! かっこいいから!」

 二人は目をキラキラさせてそう語る。


 そういう事なら丁度良い。

「それならとっておきのが用意できそうだ」

 身につけるモノならマジッククラフトと相性が良い。

 二人に似合う魔法効果を付与した帽子とマフラーを作ってやろう。


「わぁいやったー! だよ!」「えへへ。ありがとうなのよ、おにーさん」

 キータは飛び跳ねて喜び、ハルカは控えめに微笑んだ。

 まだまだにわかだが、マジッククラフターの血が騒ぐ。


     ◇  ◇  ◇


 放課後、部室で俺は帽子とマフラーのラフを描いた設計図を広げて顎に手をあて思案していた。

「さて、どんな魔法効果を付与しよう」

 二人に丁度良い物は何か無いだろうか。考えていると、アリスがやってきた。


「わ、ハル君もう作業始めてるの? 今日は気合い入ってるね」

「まぁな」

「何作る予定なのかな?」

「ハルカとキータにお礼を用意しようと思って。帽子とマフラーがリクエストなんだけど付与する魔法効果に悩んでるんだ」

「へぇー素敵! ハル君らしい良い贈り物だね!」

 アリスは指先を合わせてにこやかにそう言ってくれた。


「帽子の魔法効果でメジャー所と言えばUVカットバリアとかだけど」

 ハルカの様子を思い返す。

 日向ぼっこしながら幸せそうに昼寝する子がUVなんて気にするだろうか……。


「お二人の装備でしたら戦闘用効果などはいかがですか?」

 シジアンが部室の扉をくぐりながら提言してくれた。話を聞いていたらしい。


「戦闘用効果って、一年生はまだイーヴィルとは戦わねぇだろ?」

「確かに授業としては後方支援と戦闘訓練が主で実践は行いませんが、永久の森の獣と戦闘する機会もありますし、お二人は一年生の中でも実技戦闘の成績がトップクラスなのでたまに上級生の人数不足の際助っ人に呼び出されたりするのです」

「マジかよすげぇなあいつ等」

 夢について詳しかったり、助っ人に呼ばれたり。学年は最下級だがあの二人はすっかり一人前の魔法使いみたいだ。


「じゃあ、二人の戦闘スタイルについて詳しく教えてくれないか?」

「ええ、喜んでお手伝いさせていただきます」

 シジアンは快く頷いてくれた。すると、


「うぅ、二人が一緒に作業するなら私仲間はずれになっちゃうね……」

 と、アリスが悲しそうに机に指を押しつけていた。


「え、いや、そんなつもりは――」


 だん、と力強い音が響いた次の瞬間にはアリスがぐいっと詰め寄っていて、

「ハル君! 私にも何か出来る事ないかな!?」

 とやる気まんまんな視線を向けてくる。


 アリスとハルカ達は何度か一緒にご飯食べたくらいで殆ど関わりが無いのに手伝って貰うのは少し忍びないがこのまま仲間はずれ扱いにするのも悪い気がするし……。


「じゃ、じゃあ、ハルカに似合う可愛い帽子のデザインとかお願いしてもいいか? 俺そういうのは疎くて」

「やった、まっかせて! でもでも、私もハルカちゃんの事良く知らないから部長さん教えて欲しいな」

「はい。構いません。それではみんなで協力して二人の装備を作りましょう」

「悪いな、俺の都合に付き合わせちまって」

「ちっとも悪くないからね! いかにも部活動って感じで嬉しいな!」

 シジアンとアリスのお陰でより良い物が作れそうだ。


 ハルカとキータが喜ぶ姿が楽しみである。

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