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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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65話 流石八天導師総帥っすね!

ドライズ視点

「『我がいのちを以て示すは自由の象徴』」

 箒の上に仁王立ちして、不適な笑みと共にアイルさんが詠唱する。風の魔力が束ねられてゆき、自由自在に駆け抜ける無数のつむじとなって空間を引き裂く!


「『ディザイア・リバティー』」

 捉えどころの無い風の刃は、自由気ままにイーヴィル達を切り裂いていった。


「おおっ! ルンルンさんの大技っ『ディザイア・リバティー』!」

 風の刃、その軌道に秩序は無い。けれどそれは決して無差別攻撃などでは無かった。


「凄い、きちんと僕たちを避けつつイーヴィルだけを狙ってる」

「さっすが『自立魔導』のプロだぜぃ!」

 エクレアは興奮気味に箒を乗り回してシャッターを切る。アイルさんの放った魔法の風はそれこそ自由気ままなエクレアの動きにもきちんと対応して避けてくれているが見てるこっちはヒヤヒヤしてたまらない。


「ちょっとエクレアはしゃぎすぎだってば!! 万が一があったらどうするのさ!!」

 絶叫系苦手だと言っていた割に無茶な飛行をする。興奮して気がついていないのだろうか?


「平気平気! それよりももっと色んな角度からルンルンさんの勇姿をフィルムに――」

 エクレアが更にシャッターを切ろうとしたその時、アイルさんの魔導をなんとか躱した鳥獣型のイーヴィルがエクレアに迫った!

 イーヴィルの身体がエクレアの乗る箒にぶつかる!!


「――あ、やっば」

 バランスを崩したエクレアの身体が宙に投げ出された。


「ああもう言わんこっちゃない!!」

 僕は慌ててエクレアよりも下の高度めがけて全速前進する。アイルさんの言葉では落っこちても箒が自動で受け止めてくれるらしいが、攻撃魔導が吹き荒れイーヴィルが混戦する現状で正しく動作するか保証が無かったからだ。


 読みは当たって、エクレアが落ちてしまった箒は不安定な待機に煽られ思うように動いていない。僕は滑り込むようにエクレアの落下位置に滑り込むと、彼女の身体をお姫様抱っこの形でキャッチした。


「ふぅ、間に合った。これも八天導師の仕事ってやつかな」

 額に滲んだ汗を拭って、一息つく。そしてエクレアに視線を落とす。

「あ、えっと……ありがと」

 エクレアは気まずそうに視線を逸らしてぼそっとそう呟いた。普段はふざけているがエクレアも年頃の少女だ。こんな体勢では気恥ずかしいのだろう。

 僕は遅れてやってきたエクレアの箒にそっとエクレアの身体を預ける。


「できる限りフォローはするけど、あんまり無茶しちゃだめだよ?」

 一応注意してみたけど、エクレアの事だから軽く受け流されるかな。

 なんて思っていたら。


「……うん、ごめん」

 意外に素直に謝って、そのまま離れていった。その時のエクレアの横顔が妙に暗かった様な気がしたが、目を擦ってもう一度見てみると今まで通りに笑っていた。

 少し違和感を感じたモノの、大事は無さそうだったので僕は護衛を続けるのであった。


     ◇  ◇  ◇

 

 お昼前。僕達は学校へ戻る箒の上でお弁当をつついていた。

「あの量を圧倒いう間にケチらすなんて! 流石八天導師総帥っすね!」

 エクレアは戦利品とも言える写真を扇状に広げて満足そうににまにま笑う。


「落とすよ?」

「データは残ってるからだいじょうぶい!」

「さいですか」

 僕はと言えばエクレアと適当に言葉を交わしながら少し早めのお昼ご飯を楽しんでいた。僕自身もイービルと一戦交えたのでお腹が空いていたのだ。


 アイルさんの作るお弁当は、なんというか優しい味がした。栄養バランスが考えられ、刺激は少なくパンチは弱いがじんわりと落ち着くような、そんなお弁当だ。


 アイルさんが孤児院の仲間達の為に心を込めて作っている事が伝わってきて、満腹感以上に幸せな気持ちが溢れてくる。


「なードライズ。お前ケーキ焼けるかー?」

 ふと、アイルさんが箒を幅寄せしてくる。


「あ、はい。何度かやった事ありますよ」

「んじゃーまた手伝ってくれー。俺はまだちっとばかし慣れなくてなー」

「判りました。一緒に美味しいケーキを作りましょう!」

 エクレアに無理矢理連れられて始まった一日だったけど、趣味の料理をする機会が多くて意外と僕自身も楽しんでいた。



      ◇  ◇  ◇


「いっただっきまーす! だよ!」「いただきます。よ」

 学園の裏庭、一本の大きな木が作った木陰に幾つかの人影が見える。


「悪いな、騒がしくしちまって」

「ううん! 賑やかで楽しいね!」

「ボクまでお邪魔して良かったのでしょうか」

 レジャーシートを広げた小さな空間に。見知った赤い髪の生徒が沢山の友達に囲まれて食事をしていた。


「だめだよ、ジシアンくん」「リーダーだってお昼はいつも一人なの。良くないのよ」

 シジアンちゃんを挟み込むように座る短い金髪と桃色ショートボブの二人の一年生が、両サイドから顔を寄せる。


「別にいつも一人という訳では……ユーちゃんと食べることもありますから」

「本当にたまにでしょ。知ってるのよ」

「一緒に美味しいご飯食べるんだよ! はい、あーん!」

 黄色い制服の一年生にお弁当のおかず、たこさんウインナーを差し出され、シジアンは少し頬を染めながらぱくっと口にする。


「あ、む。まぁ、先輩が良いと良いのならば構いませんが」

「ははは、二人にかかればシジアンもタジタジだな。俺は全然構わないよ」

 ファルマが楽しそうに笑った。


 僕はそんな光景を目にして――


「うっ……!」


 崩れ落ちた。


「ドラリン!? どうしたの!?」

 視界がぼやける。人差し指で目をこするが涙が溢れて止まらない。


「泣いてんのかー? 大丈夫かー?」

「はい。大丈夫です……」

 よよよ、と涙を流しつつ。なんとか立ち上がった。


「どしたの急に?」

「いや。あのファルマが沢山のお友達に囲まれてお昼ご飯を食べてるなんて、嬉しくて。成長したね、ファルマ……」

「おめーは俺のお母さんかよっ」

 レジャーシートから離れてやってきたファルマに、ぺしっと頭を小突かれた。


「ひとりぼっちで貧しいご飯を食べてたファルマはもう居ないんだね……!」

「悪かったなぼっちで貧しくて!! つーか知ってたのかよテメー!!」

 ファルマは顔を真っ赤にしてまくし立てた。


「そりゃぁ知ってるさ」

 僕はクスリ、と笑って少し間を置く。


「キミが僕と師匠に気を遣ってくれてる事も」

「なっ!?」

 ファルマは僕がその事に気づいていた事が相当衝撃だったみたいで。びっくりした顔のまま一歩、二歩と後ずさった。


「なんていうか、気にしいなんだよ君は。僕も師匠も、迷惑だなんて思うわけ無いのにさ」

 ファルマは僕から気まずそうに目を逸らし、舌打ちと共に空気を吐いた。


 そして今度は、先ほどみたいなふざけ混じりではなく本当に申し訳なさそうに。

「……悪かったな」

 と、目をそらしたまま言う。


 彼は、何に対して謝って居るのだろうか? 僕たちはとても長い、そう、兄弟みたいな付き合いなんだけど。それでも相手の心が完全に判る訳じゃ無い。


 けれど、きっと僕の知ってるあいつなら……自分の善意が、的外れだったんだって後悔してるのかもな。


 こういう事に答えなんて無い。ファルマが僕と師匠の事を大切に想ってくれて、その上で出した答えなんだ。


 的外れなんてあるもんか。僕は、僕と師匠、その家族の環の中にファルマも混ざって欲しい。だから、三人でご飯を食べる事だって一つの理想であり幸福の形だ。


 でも、ファルマが僕達の為を想って行動してくれる、それもまた一つの幸福なんだ。

 だから僕が言うべき事は、決まってる。


「ううん。……ありがとう、ファルマ」

 僕の心からの感謝を、無二の親友は。


「っ、」


 一瞬目を合わせたのに恥ずかしそうにまた目を逸らして。

「そうかよ。……なら、よかった」

 そう言って、自分の環の中に戻っていった。


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